「ブレイクスルー・ハウンド」120

 同刻、とある一室で祐と副官の井上は今後の詰めについて、祐の父から聞いた話を反芻することで確認をおこなっていた。白と黒のツートンの髪に、フォーマルウエアを着崩した祐に対し、井上は革製品の上下を身にまとい、パンクロッカーのように髪の毛を七色に染めた青年だ。従兄弟の間柄ということもあって、歪という点ではファッションセンスに共通するものがある。
 そして、話が雑談に移る。
「できれば、あのグルカ女には俺のもとに来てほしいな。手足を切り落として、前と後ろと口に全部チンポを突っ込んでやる」
「俺の前でケツの話をよしてくれないか」
 井上の抗議に対し、祐の顔に悪戯っぽい表情が浮かんだ。
 だが、井上にしてみれば冗談ではない。元無縁児童、母の病死によりさ迷っている最中に口車に乗せられてカマを掘られて以来、彼はその手の話題には敏感なのだ。オカマが寝入ったところを台所から持ち出した包丁でめった刺しにしているところに、殺しの依頼で“彼女”のもとをまだ十代だった祐が訪れ、井上の所業に彼が惚れ込んで以来の付き合いだ。
 井上の残虐ぶりを祐は気に入り副官としたのだ。そのまま、井上は流されるままにこのテロ組織に所属している。
 理由は食べていくためだ、日本の相対的貧困は六人に一人、一度滑り落ちると再起は困難だ。ましてや無縁児童など。おかしいな、なんだよこの気分――今までは別に自分の暮らしに疑問を持つこともなく、生きることができてきた。しかたがない、しようがない、それしかない、そう心から思っていたのだ。
 だが、仲間だった石井洋人が命がけで組織を裏切ったことで井上の心にはなにかしこりのようなものが生じている。

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