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ローカル梅の宝庫・山形県からやって来た新品種、毛むくじゃらな種なし梅「千光梅」(千光梅その1)

今年の梅仕事、実は先日投稿した白加賀が最初ではなかった。その数日前に入手していた2024シーズン最初のローカル梅、それは「千光梅」。山形県からやって来た。

昨年梅仕事をしてみて知ったことだが、山形にはローカル梅(限られた地域でのみ育てられている希少性の高いご当地梅、的ニュアンスで呼んでいます)が多い。

山形はウメの栽培や生産が盛んな県とは言えない。栽培面積は減少傾向でわずか100ヘクタール強(和歌山県は約5,600)、生産量も全都道府県中20位程度。だがそれ故に、在来種が手付かずで残っているという事情もあるようだ。

ウメが主力産業である県では、当然ながら生産効率や売れ筋が求められ、育てやすくよく売れる品種に生産が集中する傾向がある。例えば日本のウメの生産・出荷量共に全体の六割超を占める和歌山では代表的かつ人気品種である南高梅に圧倒的に生産が集中。その他の品種の生産があまり進まない。「紀州産南高梅」ブランドに対抗すべく、その他の県では和歌山県産南高梅よりも早く出荷できる品種やその他の特徴をもった品種の開発が進められる。五月にはもう収穫できる神奈川の十郎小町がその一例だ。
山形はそうした競争の中にはない。元々当地に住んでいた人々のため、或いは特定の用途のため在来種を大事にし、時に新品種も見つかっている。その辺りは山形大学農学部果樹園芸学研究室の資料「やまがたの在来梅のはなし」が詳しい(リンクを参照ください)。

今回の千光梅は新品種だそうで、ネット上にはまだ情報が全くない。ある日メルカリで梅を探していてたまたま見つけ、初めて見る名と「種なし」に興味を引かれ、購入。
この手の出会いはタイミングだ。この機を逃せば次はいつ出会えるかわからない。ただ、気になる要素もなくはなかったのだが、それも含めて手に取ってみようと思った。

まずは個体の計測。
長さはだいたい3センチ、幅はそれよりもやや細め。アーモンド型に近いような、やや細長い見た目である。

重さはいくつか測ったところ、だいたい9.5~9.6グラムとかなり軽い。

先端のとんがりがかわいい

…だが、それ以上に気になる特徴に皆さんもお気付きかと思う。表面の毛が多い。とても多い。たいへん多い。毛むくじゃらだ。

このような梅は初めてである。いくつかの品種において、主に実が育ち切る前まで表面に軽く毛が生えていることは時々ある。だがこんなにびっしり、ふさふさと生い茂っている状況はこれまで目にしたことがなかった。
それ故に商品説明には「ざるに入れて洗ってください」とあったが、これ普通に洗っただけで取れる・・・?

不安を覚える。
とはいえせっかく収穫したてを送ってくださったのだから鮮度を落としてはいけない。用途を決め、加工に移らなければ。
売り手の方のおすすめは梅干し、ピクルス、シロップ漬け、甘露煮等。種ごと食べられることを活かした用途だろう。やや甘い加工が推奨されているようなので、甘くすると美味しいということだろうか。

という訳で、不安は消し去れないながらも今年積極的に試そうとしている「話梅」にしてみることに。うまくいけば、種を出さずに丸ごと食べられる話梅ができる。それは良い。
ただし不安があるので手元の約1.1キロのうち700グラムを話梅、400グラムを梅干しにしてみる。まだいくらか青いので、梅干し用は少し追熟。

それでは話梅を仕込む。

まずは洗って塩の揉み込み×2回。

要領は白加賀の時と全く同じです
水が出てきます

それから薄い塩水にまる2日漬け、

色がくすみます

天日干し。干し始めの日は少し雨も降ったので屋内に入れた時間が長く、計3日ほど干した。

アーモンドみたい

干し終わり。かなりしわしわに。

塩漬けと天日干しを経て元々の60%程度の重さに

干し終わりの重量の70%の砂糖に漬け込む。今回は粗糖を使用。

こうしたメモは重要。案外忘れます。

さて、しっかり全体を砂糖で覆い、ファスナーを閉めてその夜は常温に置いたところ、翌朝起きてびっくり。なんと袋がぱんぱん!
これはまずい。放っておくと発酵してしまう。既に少々泡が出ているし。
という訳で慌てて空気を再度抜き、以後冷蔵庫で漬け込みを続けることに。今のところ匂いや味に発酵感はないので、なんとかセーフだとは思う。

梅シロップを作ったことのある方は、途中若しくは完成後に発酵させてしまった経験がおありかも知れない。梅酵母や果物酵母を作ったことのある方ならより詳しくご存知だろう。果物に糖分を加えると、菌がある場合は自然と発酵が進む。発酵させたくない場合はそれを避けるために洗ったり日光に当てたり消毒したりする訳だが、今回の場合はこの「毛むくじゃら」が、洗っても干しても菌を除き切れなかった最大の要因では…と少々疑っている(ごめんよ千光梅)。

ともかく、無事仕上がれば素晴らしい話梅になるはず。そう信じて3ヶ月先をじっと待つことにする。

梅干しの方は、3日ほど追熟させた後に15%の塩で塩漬けを行い、常温で漬け込み中。早く梅酢を出したくて重石をかけたので、ややつぶれ気味に写っているが今のところ順調。
ただ元々の重量が軽いため、梅酢があまり出なかった。梅干しというより、液に浸けるタイプの梅漬けの方がもしかしたら向いていたのかも。

一方、数日経った冷蔵庫内の話梅。粗糖が全て溶け、しっかり浸かって時を待っている。

梅仕事の時期はこうして予期せぬハプニングに見舞われることが時々あり(私のやり方が雑なせいも多分にあるとは思う)、そうしたことと向き合っていると「生き物と生活している」感じがすごくある。

最近はパンを焼くために酵母を起こしたり、納豆菌を買って納豆をつくったりしているので尚「生き物と暮らしてるなあ」と感じることが多い。
案外悪くないものです。

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