【TIPS】DNA、遺伝子、染色体、genomeの違いについて
似ているようで異なる言葉の違いを明確に区別することは、物事を正確に語る上で非常に重要なエッセンスになると思います。
DNA(Deoxyribonucleic Acid、デオキシリボ核酸)
生物の遺伝情報を格納している化学物質の基本単位です。DNAは、4種類の塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)からなるため、狭義には4種類のDNAがあります。また、広義にはこれらの4種類の重合体に対する呼称としても用いられます。
遺伝子(Gene)
DNAの重合体で、かつ特定の機能・性質を持つタンパク質の合成に関わる遺伝情報を含む範囲のDNAを指します。つまり、遺伝子は、一つの機能的なタンパク質をコードするDNAの領域と解釈できます。これはエキソンと呼ばれる領域そのものであったり、エキソンのつなぎ合わさりで生成される一つのタンパク質の構造単位と考えるのがいいと思われます。例えば、遺伝子疾患といったら、特定の機能を果たすタンパク質をコードする塩基配列の中に、変異(ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異)が入ることで、その特定のタンパク質の機能が著しく低下して、機能障害が惹起される疾患です。変異が起こっても、重大な機能障害が起こらない場合は、それを多様性の範疇に含め、遺伝学的には多型(polymorphism)と呼びます。お酒で赤くなりやすいとか、なりにくいとかがその一つの例です。
染色体(Chromosome)
この単語は定義が難しいです。正確性に欠けるので参考程度に見てください。DNAが巻きついたヒストンを含む構造体の最小単位はヌクレオソームと呼ばれます。ヌクレオソームはコンパクトにまとまることでそれらが凝集したクロマチンと呼ばれる構造を形成します。クロマチンの全体がchromosome(染色体)ということになります。
ゲノム(genome)
ある生物が持つ全てのDNA配列を指します。genomeは、その生物種が有する固有の遺伝子配列全体を意味する概念と捉えるのが正確だと思います。全ゲノム解析などという言葉がありますが、ゲノムの中に全てという意味が入っているので、あの表現は間違っているような気がしています。ただ、私の知識が足りなくて、私が間違っている可能性の方が高い気もします。
「~ome」は「~の総体」を表す表現で、genome(geneの総体)→transcriptome(mRNAの総体)→proteome(proteinの総体)などと表現されます。
DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)proteinの過程は転写・翻訳と言われますが、これが一方通行性に進む生物の遺伝情報の流れに関する原則をセントラルドグマといいます。
このドグマはセントラルドグマであり、overallでないことに注意が必要です。例外があるということです。
AIDSの原因ウイルスとして有名なhuman immunodeficiency virus(HIV)はRNAウイルスです。HIVは自らが有する逆転写酵素(reverse transcriptase)を利用してゲノムRNAをDNAへ変換し、インテグラーゼ(integrase)により、宿主のゲノムにHIV遺伝子情報を組み込むことで宿主のDNAへ潜り込む厄介な疾患です。
細かい用語の定義を理解することは、端的に言って重要です。
例えば、双方の言葉の定義が異なると、議論が一向に収束しません。
学士編入試験の記述問題では、言葉の定義を理解せずに作成された解答は、当然ながら意味をなさない解答となります。そのため、正確な解答を書くのはとても大変な作業なのです。