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草案めぐる「我慢論争」勃発。無事着地できたのか!? ~松戸市「気候市民会議」傍聴3回目

自分が住む千葉県松戸市に、最先端の「気候市民会議」がやってきた!ということで10月の第1回から月1回ペースで開かれてきた「松戸市環境未来会議」を傍聴してきました。12月17日にはついに、最終回となる第3回が開催されました。果たして、どんな着地を見たのでしょうか…!?


事務方の労作「草案ペーパー」

あらためて説明しておきますと、この会議は松戸市民約50万人の中からくじ引きで千人を抽出し、そこから参加を希望した24人によって松戸市の気候変動対策を決めていこうよ、という斬新な試みです(第1回の傍聴記参照)。

前回の会議では、5班に別れた参加者たちから、気候変動対策に市民としてどんなアクションを提言するのか、というアイディアがじゃんじゃん投下されました。どうやってまとめるのかな、と謎に感じていたわけですが、会議の冒頭、「松戸市環境市民会議取り組みまとめ(案)」という資料が配布されました。

これ、市の事務方さんらが、前回百出したアイディアを31項目の提言としてまとめたもの。31項目は「移動」「住まい」「衣料、ファッション」「仕事」といったジャンルごとに分類されており、たとえば、

・太陽光発電設備や蓄電池の購入を検討する(住まい〈外部〉)
・家電を買うときはできるだけ省エネ性能の高いものを選択する(住まい〈内部〉)
・気温に合わせた服装を身に着け、エアコンの設定温度を控えめにする(衣料・ファッション)
・テレワークやリモート会議を活用し、不要な移動を減らす(仕事)

といった項目が並んでいます。

事務方の苦労がしのばれますが、これで一挙に、「市民からの提言」完成の一歩手前まで到達。今日の会議で、中身を揉んで行くことになりました。

司会役を務めた一般社団法人銀座環境会議の平野将人代表理事からは、「みんながベジタリアンになったらCO2は物凄く減りますが、50万人の市民にベジタリアンになれとはなかなか言えないですよね。みんなに提示することになることを意識してください」との指示が。たしかに、現実的にはあまりエッジの立ち過ぎた提案はできないなと思いました。かといって、角を取り過ぎるとただの「標語」の域にとどまっちゃうし…難しいところだと思いました。

「我慢」の文言めぐり論争に

各班70分間の案出しとグループ討議を経て、意見表明へ。

各班、条項の中で違和感を感じたところの修正案を出したり、こんな条項も足したらどうか、という提案をしていきます。中でも複数の班がとりあげたのが、草案の中の〈生活と地球温暖化対策の両立。我慢するところと我慢しない取組みを考える〉という条項に含まれる、「我慢」というキーワードでした。

「我慢という言葉が入ることには抵抗がある」「ネガティブワードが入ることでやりたくなくなるのでは」といった意見があった一方で、「ある程度我慢もしないと温暖化防止という目標は達成できないのだから、しっかり伝える必要がある」との声も。どちらも一理あるように聞こえます。

主催者の市側は当初、出てきた意見を受けてその場でパソコンを操作して条文を修正し、結着をつけようとしていた模様なんですが、こうした「対立する意見」を前に、やや予定が狂った模様。さてどうするかということで、休憩時間中の”作戦会議”を経て、「各班で再度話し合って意見表明」ということに。

10分ほどの討議の後、「我慢」を含む条項については各班から言い換え案として〈必ずしも利便性を追求しない優先順位を考える〉、〈無理をせず自分ができることから始めて習慣化しよう〉など5案が出揃いました。司会の平野さんは多数決にしようかと参加者に持ちかけましたが、全体的に「え、それもどうかな…」という雰囲気になり、結局、持ち帰って事務方がみんなの意見を汲んで提言に反映する、ということに落ち着きました。この間、不思議な阿吽の呼吸で決まって大変興味深い光景だったのですが、やっぱり、多数決で白黒つけちゃうのはどこか抵抗がある、というのが日本人の感覚なのかもしれません。


会議の様子

他にも、「草案全体をもっとポジティブなワードにすべき」「難しい文言や漢字が多いので、これでは読み進めてもらえないのでは」といった「そもそも論」もいくつか出てきました。これも、その場で条文の一部を修正して済むような話ではなく、持ち帰って事務方が最終提言にニュアンスを反映することに。

このあたりの一筋縄ではいかない問題の「決め方」をどうするのかというあたり、初開催だけにまだまだ手探りでの運営という感じでしたが、逆に事前にシナリオの決まった「シャンシャン会議」ではない臨場感も感じました。

市民からの意見で「草案」から変わった点

他にも、市民からの意見を反映してこの場で草案の文言が変わった箇所もありました。

原案の〈自動車を購入する際は、燃費のいい車やEVを購入する〉という項目については、「EVは値段が高い」「安いものだと炎上するという話も聞いたことがある」といった意見も出て、〈自動車を購入する際は、エネルギー効率の良い車を購入する〉に変更。EVという文言は外れるかたちになりました。値段についてのご指摘は確かにごもっともと思いつつ、まさに、全市民への提言だと考えると角が取れていかざるを得ないという実例とも感じました。


参加者の意見を受けてその場で草案の文言が修正された

〈子どもから環境教育を行い、大人に波及させる〉という項目は、「波及ささるという表現は上から目線ともとれる」「大人も勉強して子どもたちに手本を見せる必要がある」といった意見をもとに、〈環境教育を通じて子供と大人がともに学び、成長する〉といった文言に変わりました。

さらに、新たに〈グリーンカーテン(市民で出来る緑化)を取り入れる)〉という条項が追加されるなど、様々なマイナーチェンジがほどこされました。

最後に、参加者へのアンケートで条項ごとに「効果の高さ」「取り組み易さ」「取り組み時期」について5段階評価してもらう時間も。こちらの結果は時間の都合でその場では集計されませんでしたが、これも最終案に反映されるのかもしれません。

全3回じゃあ時間が足りない?

ということで、全3回の日程が無事終了。第1回から監修役を務めていた流通経済大学法学部の尾内隆之教授は総括のあいさつで参加者の健闘を称えつつ、「やはりあと1回、できれば全5回は欲しい」「今日これで終わりではなくこれがキックオフだと期待しています」とのお言葉が。かつ、今後同じような会議が開催される時に向けた改善点としては、「地域性をもう少し意識した議論をしていただきたい。松戸市に即した松戸市民のための結論であってほしい」と語っていました。

これは、私も同じ感想を抱きました。今回の会議は市民が直接、市政に参加するという意味では大変面白い、意義深い試みです。面識のない市民同士で活発に議論ができるんだ、ということも目の当たりにして、大きな可能性を感じました。一方で、もっともっと、地域事情と絡めて具体的に踏み込んだ提言になったらさらに良いのにな、とも思いました。

たとえば、私の思いつきの妄想レベルですが「市民の憩いの場である公園につながるあの道路に自転車専用道をつくる提言をしよう」とか、「市内にたくさんある団地や大型マンションに太陽光パネルを設置したり、断熱リフォームをするための補助金制度を提言しよう」とか…こう考えただけでも、具体性が増せば増すほど反対論も予算の制約もありそうで、そう簡単ではないなあ、とも思います。

とはいえ少なくとも、具体的な話に踏み込んでいくにはもっと時間が必要なのは確かだと思います。今回は全3回で13時間程度だったかと思いますが、確かに5回くらいはやってもいいのでは。ちなみに、この手のものとしては国内では先駆的な例だった「気候市民会議さっぽろ2020」(全4回開催)の最終報告書などを見ても、やはり関係者からは「時間がもっと欲しかった」という趣旨の声が多く挙がっていました

幸い、副市長が最後のあいさつで「市民参加の仕組みは今後もやっていきたい」と語っていたので、第2回もあり得るのではないかと思いますのでそれに期待しつつ、まずは、会議を受けて今後あがってくる「市民行動プラン」を楽しみに待ちましょう。

【1回目の会議の傍聴記はこちら
【2回目の会議の傍聴記はこちら
【関連記事:くじ引き民主主義とは

【松戸市環境未来会議に関する市の公式サイトはこちら


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