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ウワサの「気候市民会議」が松戸に上陸したというので傍聴してみた

2023年10月16日、私が住む千葉県松戸市で行われた「松戸市環境未来会議」を傍聴してきました。

いったいなんなんだそりゃ、と思う方も多いかと思いますが、これ、何かというと、いま世界で潮流となっている「気候市民会議」をこの松戸市でもやってしまおう、という大胆な試みです。

「気候市民会議」というのは、今、世界が直面している気候変動という課題にどう対処するか、市民の中から無作為抽出(くじ引き)で選んだ代表者たちに議論してもらい、市民自らの手で今後の方針を決めよう、というもの。気候変動に限らず他のテーマでも使われる手法で、「ミニ・パブリックス」などと呼ばれているそうな。

ヨーロッパでは、ドイツやイギリスなど各国ですでに盛んにおこなわれていて、日本でも札幌市、川崎市、東京都武蔵野市など、じわじわと行う自治体が増えているそうです。岸本聡子杉並区長の当選で話題となった東京都杉並区も今年度、予算をつけて気候市民会議の準備をしていることが報道されており、今後ますます注目されていきそうです。ちなみに、今回の松戸市の試みは千葉県初だそうです。

具体的にはどういうことなのかということで松戸市の場合を見てみますが、人口約50万人の松戸市民のうちから無作為に1000人を抽出。500分の1の確率で選ばれたこの方々に通知を送って有志の参加者を募ったところ、24名がメンバーとなった、とのこと。平均年齢(43.6歳)や男女比(1:1)も松戸市全体とそう離れていないため、まさに市民全体の「ミニチュア版」の議会が出来上がった、という建て付けです。

実際に始まった会議は、冒頭、流通経済大学法学部の尾内隆之教授(専門は現代民主主義論、環境政治など)から、「気候市民会議」の最近の国内外の潮流についてレクチャーがあり(実は上記の説明はほぼその受け売りです)、次いで、松戸市環境政策課の担当者さんから、いま我々が直面している気候変動についての簡単なプレゼンがありました。個人的には、その前に石和田二郎副市長が冒頭挨拶で話していた、松戸市の特産品である梨の新高(にいたか)という銘柄が今年の暑さで育たず、8割を廃棄せざるを得なかった、という話にインパクトがありました。地元の話題に引き付けて説明していただくと、実感が持ててありがたいですね。


グループ討議の説明

こうした「お勉強」の時間が終わったら、いよいよ本題である市民たちによるグループ討議の時間となりました。だいたい4人くらいずつ5班に分けられた市民の皆さんは、各テーブルで司会役を務めるファシリテーターの方々を中心にコミュニケーションをとっていきます。簡単な自己紹介の後、「温暖化によって私たちが困ることは何か?」「私たちの暮らしで温暖化を引き起こす大きな要因はなにか?」という2つの議題について、議論していきました。

お互い見ず知らずの市民同士、こんな小難しい議論なんか出来るんだろうか。沈黙が続いてしまったり、ケンカになったりしないんだろうか……そんなことを思いつつ傍聴していましたが、ところがどっこい、そんなことはなく、皆さん和気あいあいとした雰囲気ながらも闊達に自分の意見を発言し、ちゃんと議論がなされている雰囲気でした。

考えてみれば、無作為抽出された中から貴重な日曜日の午後の時間をこれに費やしても構わない、という方々が集まったわけで、自ずと意識の高い人の集まりとなっていたのかもしれません。

グループ討議はまず、班ごとに各メンバーが自分の意見を付箋に書いていき、それを大きな用紙に貼りつけながらファシリテーター中心に意見を整理、その後、班ごとに全体の前で発表をして、他班の意見を受けてまた各班内で気づいたことなどを話し合う、という流れ。これが、2つの議題について2セット繰り返されました。



班ごとの発表の様子

「温暖化によって私たちが困ることは何か?」という1つ目の議題では、温暖化によって健康に被害が出たりエアコン代が高騰したりする、子どもを外で遊ばせることが出来なくなるなど、今年の猛暑による実体験に裏打ちされた話が多く出ていました。一方、四季がなくなることで春や秋が短くなり、ファッションが楽しめなくなる、といった声も。こうした意見は、学者や政治家だけの議論では出てこない視点かもしれません。

2つ目の「私たちの暮らしで温暖化を引き起こす大きな要因はなにか?」については、大量生産・大量消費社会や森林の伐採、コンビニの24時間営業などによるエネルギーの過剰消費など、便利になった現代の暮らしが温室効果ガスの排出を増やしているという意見が多く見られました。昔はあった食料の量り売りがなくなって過剰包装となっていることなどは、実際に量り売りが主流だった世代だからこそ実感を持って指摘できることだと感じました。

最後のまとめで流経大の尾内教授が「市民といっても皆さん何かの専門家なので、自信を持って議論してください」と言っていたのも印象的でした。確かに、皆さんそれぞれの人生の中で職業経験、人生経験を積んで知見を持っているであろう人たち。決して「素人の集団」などではない、ということは言えると思いました。

一方で、今回4時間やった会議が11月12日と12月17日にあと2回開催されるのが今回の会議の日程なのですが、全3回12時間でどれだけ議論が深められるのかな、というのは正直疑問もあります。

最後は参加者の意見を市が取りまとめ「市民行動プラン」を作成してホームページで公表、市としても内容を精査したうえで政策への反映を検討する、とのこと。しかし、テーマは気候変動という壮大なテーマですし、1回目の会議で有意義な議論は交わされたとはいえ、具体的な政策につながるような提言に至るにはまだまだ道は遠し……という印象。とはいえ、先進的な試みに果敢にトライしたこと自体は素晴らしいことだと思います。今後2回でどういう展開になっていくのか、引き続き注目してみたいです。

【2回目の会議の傍聴記はこちら
【3回目の会議の傍聴記はこちら
【関連記事:くじ引き民主主義とは

【松戸市環境未来会議に関する市の公式サイトはこちら

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