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短編小説 Ant 生物の可能性

僕たちは蟻だ。 地下深く、巣穴で暮らしている。 広大に散らばっているそれは、立体的な蜘蛛の巣にも見える。いわばコロニーだ。

目は見えるが、巣穴が薄暗いせいで中はほとんど見えない。
仲間を見分けるのも目ではなく、独特な匂いと光を放つ液体を体に塗り、それを目印に仲間についていく形で狩りをしている。 だって考えてもみて、薄暗い中で生活をしている僕たちが急に外なんかでたら、光がありすぎてパニックを起こしちゃう。 実際に僕もパニックを起こして仲間に助けられたことがある。 でもね、ずっと覚えているんだ。初めて外に出たとき、その瞬間、一気に赤や黄色や緑なんかが目に流れこんで本当に奇麗だった。  

見たことないけど、まるで人間が見る星空みたいだったんだ。

そのことをよく友達蟻のアントと僕はとってきた蜜を飲みながら話している。 アントは、少し変な奴なんだ。自分が蟻じゃないんじゃないかって考えている。 働き蟻なのに働かずいつも考え事をしている。 他の仲間はそんなアントを人間に潰されてしまえばいいと言うけど僕はそう思わない。 考えごとをするのは間違いじゃないと思うし、他の仲間とは違う考えをもって、それを主張することは良いことだと思うんだ。

でも他の仲間たちはいつも、
「僕たち蟻の世界では決まりは絶対で、女王様の命令は絶対だ。」ってよく言い返される。 確かに女王様の命令は絶対だけど、アントから言わせてみれば、女王様がずっと一番偉いのもおかしいって、よく蜜に酔った彼は言うんだ。 僕はそれを聞きながら、どっちが正しいんだろうってよく悩むんだけど、僕も最後は酔って寝てしまうんだ。 だけど、今日は珍しくアントは蜜を飲まず何か考えごとをしているみたいだった。 僕はそれをぼんやりと眺めながら眠った。

朝、目が覚めるとアントは姿を消していて、壁に何か模様みたいなものが描かれていた。それのほとんどは僕も初めてみるもので、他の仲間が見ても、分からないと言い、不思議そうにそれを見ていた。 仲間は誰が書いたものだろう、いったい何なのだろうと首を傾げていたけど。 僕には誰が描いたものかが分かっていた。これはアントが書いたものだと。

アントは時々、石板みたいなものを眺めていた。 それはアントがこっそり集めていた物で色々な形の模様がびっしりと刻まれていた。 アントはその石板のことをけして僕以外の仲間には見せなかった。 その模様の形が、壁に描かれていた模様の形と似通っていたんだ。 多分、これはアントが僕にあてたメッセージで、なにかを僕に伝えようとする、大事なものなんだと僕は理解した。

アントが姿を消してから、僕は仕事をしながらアントが残したメッセージをなんとか読もうとしていた。 この曲線に何の意味があるのかとか、何でアントはこれを残したのかとか。 考えれば考えるほど疑問が浮かんだ。  そして、何か月か経ったときに、石板とアントが残した模様が文字というものなんだと分かった。 決まった形の模様が52個あって、それが決まった並び方をしている。 そして一番大事なことはそれが意味をもっているということだ。 その意味はまだ僕にはわからないけど、だんだんと姿を消したアントに近づけるようで嬉しかった。

アントは何処に行ったのか、アントのことだからひょっこり帰ってくるだろう。 前向きに考えていた僕だけど、そう思えないこと、絶対に起きてはいけないことが起きた。 巣穴からは遠く離れた場所だったらしい。 アントは人間に踏みつぶされて死んでいた。 

仲間は笑っていたよ。変わり者が死んだって。

僕はその様子を呆然と見ていた。 見ることしか出来なかった。 
だってそうだろう僕に何が出来た、何も出来なかったからアントは死んだんだろ。 心は千切れそうだった、僕はアントが残した文字の意味を絶対に理解するそう誓った。

それから僕はなにふりかまわずに石板とアントが残した文字を解読した。 僕は次第に働き蟻の仕事をしなくなり、研究に没頭した。 他の仲間も最初は心配していたけど、そのうち、

アイツもアントになるのか、と馬鹿げたことを言い出した。 アントはもうこの世にはいないのに。

長い年月が過ぎた。 僕の研究は進み、あともう少しでアントが最後に残した文字を解読することが出来るそう思っていた。 そんな時だ、僕にちょっかいを出す奴が出てきた。 そいつも働き蟻で僕の研究に興味がある、変な奴だ。そいつは時々僕に話しかけてきて、僕はそいつを追い返すそんな関係が続いた。1ヶ月ぐらいたった頃だろうか、なぜだか僕はそいつと友達になっていた。 ソイツの仕草がアントに似ていた。だんだんと話すうちにそいつはいつか僕がアントに言ったようなことを言ってきた。 外の世界は色とりどりの光があって綺麗だったって話だ。 僕がアントによく話したものだった。 多分、僕は蜜に酔っていたと思う。 アントとソイツの輪郭が重なった。 僕は涙を見せなかったけどアントが帰ってきたみたいで嬉しかった。 そして、僕はアントが残したメッセージの解読を成功した。
 
解読したメッセージは2つあって、1つ目は座標で2つ目は短い文字だった。2つ目の文章は途中で途切れていて、そこに行けば分かる、としか書かれていなかった。 僕は一人でその場所に向かうことにした。 新しく出来た友達に別れを告げずに。 僕は友達にメッセージを残して旅に出た。 アントがそうしたようにそう思って。 旅路は険しいものだった。 そして、アントが残した地図の場所にたどり着いた矢先のことだ。

働き蟻たちが僕を囲んでいる。 それも知った顔の仲間ばかりでその中には女王の姿もあった。 何故仲間がここに、この場所は僕とアントしかしらないはずだ。 驚いた様子の僕を見て、正面に鎮座する女王は話し始めた。

「蟻には絶対に破ってはいけないルールがある。 だが、まれにルールを知識や興味で破ろうとするものが現れる。 それが生まれないように管理し生まれた時に滅ぼすのが私、女王の役目だ。つまり、お前はこの種の敵対者なのだよ、アント。」

これはアントが残したメッセージで、なにか僕に伝えようとする大事なものなんだ。
また1匹の蟻がアントからのメッセージを受け取る。それが死の暗号だと知らずに。


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