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父の思い出

父の他界

香月の父は、香月が3歳のときに他界した。
そのため、香月の記憶に父親はいない。
というか、香月の最初の記憶は、父の葬式である。

幼少の香月にとって、葬式はそれほど印象深かったのだろう。
父は他界したとき、30代で会社員だった。
父は心不全での突然死だったので、会社の同僚や親戚が大勢、葬式に参列したらしい。
香月が覚えているのは、火葬場のシーンだ。

火葬場の思い出

母親や親戚のおじたちは、黒いワンピースやスーツを着ている。
香月は薄暗いホールのようなところにいる。
ここはエレベータホールのようだ。
だが、入り口が変だ。
みんなで入れるような形ではない。
父親が入っている箱が、エレベータのようなものに入れられた。
変なところに入るもんだ。

香月たちは食事に行った。
大きな丸い円卓に座る。
香月たちは高級そうな中華料理を食べた。

香月は再び、エレベータホールに戻ってきた。
薄暗くて、香月はこの空間に長くいたくはない。
なんだか白いものと灰が入った箱が戻ってきた。
香月は親戚に抱き上げられて、それを一個拾わせてもらった。
父親はどうやら20センチくらいの布で包まれた何かになったらしい。
それを持って帰った。

父がいない生活

香月の家庭には香月と妹と母親しかいなかった。
しかし、友達の家庭には父親なるものがいるらしい。
父親がいる生活がどういうものかは知らない。
話を聞く感じでは、うるさいおっさんが家にいる感じなのだろう。
香月は祖父の家にいくと、母親の兄が暮らしている。
このおっさんが面倒なんだ。
3ヶ月に1回会うだけでも疲れる。
この人と生活するのは無理だな。
思春期の男子の実家暮らしとは、こういう感覚なのかもしれないな。

父子の関係

父親と子供の関係ってどういうものなのだろう。
父親と男子の二人きりの空間ってどんなものなのか。
父親と男子と他人がいる空間と変わるのだろうか。
香月が知っている友人の父親像は、香月が少年野球チームのコーチたちだ。
彼らは多かれ少なかれ、自分の子供を贔屓にしていた。
自分の子供だけ思いっきり厳しく指導する父親。
自分の子供だけはいつもレギュラーメンバーにする父親。

香月の父親像がイメージのなかだけにあり、偏っていることは自覚している。
だが、仕方ないではないか。。。。

香月が理想の父親だと思っているのは、大学時代の指導教官である。
彼は、香月にこうしろ、ああしろの類は何も言わなかった。
香月は彼に学ぼうと必死だった。
大学の「教員/学生」の関係は、師弟関係のようなものがあり、武道の「師匠/弟子」に似ていると言われる。
師匠は弟子の人生に責任を感じる立場ではないから、仕事としてやっているという感じだろうか。
しかし、一応自分の師匠なので頼ることはできる。
香月が困ったときに助けを求められる関係にある点で、理想の父親ってこんな感じなのかな、思った。

香月は男性と寝たことがある。
自分より15~20くらい年上の男性だ。
すごく優しかったが、これは父親に甘えるというよりも、女性扱いに近いのだろうか。
ファザコンが解消される類の経験ではなかったかな。
しかし、普通に良い経験だった。

父親がいなくて困ったこと

香月が父親がいなくて困ったことが一つだけあった。
それは、母親が死んだ場合、親戚をたらい回しにされる人生になるのではないか、という不安だ。
これだけは香月の子供時代とても不安だった。
実際は、香月は成人できたので、この心配は杞憂に終わった。
しかし、正直この点は、かなり不安だったなぁ。
「孤児もの」の小説とか、妙に共感を覚えてしまった。
『赤毛のアン』とか『ジェーン・エア』とか『精霊の守り人』とか。

彼女たちは、孤児になってから、養父母と良い関係性を築くパターンもあれば、恋人との関係を頼りにするパターンもあるけど、一度一人きりになっているからか、強くて頼れる自己を形成している。

香月の場合はどうだろうか。
柔らかな内部を守る外殻を持つようになったが、内部の情緒的成長に、自分で制限をかけている感じ。
アダルトチルドレンのような傾向があるなぁ。

これからの人生では、情緒を育てることが課題の一つだ。

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