マガジンのカバー画像

一日一詩。

89
言葉にできないコトバをことばにします。
運営しているクリエイター

2023年1月の記事一覧

【詩】変な人と呼ばれて

あの頃 僕は変な人と呼ばれていた でも、不思議なことに あの頃が人生で一番楽しかった 無理することもなく 気を遣うこともなく 自分らしくなんて考えもせずに 自分のままで生きていた 僕はどこからか 道を踏み外した いつの頃からか 僕は立派な人と呼ばれるようになった 不思議なことに その時は人生で一番しんどかった いつも無理をしていて いつも気を遣っていて 自分らしさとは何かをいつも考え 自分らしくあれずにもがいていた 僕は一度いなくなった 消えたように生きて 死んだように消

【詩】今日も描けなかった絵描きへ

真っ白なキャンバス 真っ黒な構想ノート 対照的な二つの鏡が 今日も描けなかった 僕を映し出している ゴミ箱へと向かう作品が 今日も山ほど出来上がった 一筆目が入れられない 一筆を入れるに値するだけの 奇跡が今日も起こらなかった 日に日に増えるゴミの山 何一つ生み出さずに 大量の何かを吐き捨てている なんとか奇跡を起こそうと 懸命に奇跡が起こるのを待つ 起こるから奇跡なんだ 起こせるならそれは神か天才だ 自分が天才でないことだけは いつしか自然と理解した だから奇跡を待つことに

【詩】朝と散歩の独り言

少し眠いけど目が覚める 体を伸ばすと気持ちがいい 朝の空気は気分屋で 澄んだ瞳で誘惑する日もあれば 冷たく僕を拒絶する日もある 起床を何年繰り返しても 気分屋はやはり気分屋で 最近は四等賞くらいがよく出る 眠たいなとか 外寒そうだなとか まだ時間あるなとか そういう悪だくみを 無意識に思いつく前に 僕は散歩にいく 外の寒さと互角にやり合うために 何枚も何枚も重ね着する この時ファッションという言葉は いつも以上に控えめになる とにかく着替えて とにかく靴を履いて と

【詩】しあわせになろうよ

しあわせには色も形もないんだから 絵にしたらきっと十人十色なんだから 風化もするし昇華もするものなんだから 難しくしてるのはいつも自分なんだから 比べられるのは、ほんの一部分で 上にも下にも限りがなくて 幸せと思えば いつだってそうなれる でも、それじゃ満足なんてしないんだから 絶対の幸せなんてものもなくて ただ一回の人生が一介の人生だとしても 一景、一食、一音を風鈴のような心で その鈴の音は、あなただけの音色 十人十色で、一期一会と 分かっているのに、わかっていない

【詩】ことばを探す旅

広辞苑という図鑑を開いて まだ見たことのないモンスターを探そう きっとすぐ見つかるはずさ 世界は未知のモンスターで溢れているから 見つけたら旅に出よう まだ見ぬモンスターを探す旅に 図鑑に生息地は書かれていない その代わり特徴はしっかり書かれている 書かれた特徴を頭に入れて 難しければ図鑑を腕に抱いて街へ出よう 旅に出ればわかるはずだ 知らないことがたくさんあるということが 知っているつもりになっていたということが 世界はきれいなものばかりでもなければ きたない

【詩】気まぐれサラダみたいな生き方

お気に入りのレストランに シェフの気まぐれサラダってのがある 気まぐれだっていうのに 頼むと毎回ちゃんと作ってくれる これじゃまるで生真面目サラダだ 僕なんて毎日続けるぞなんて言って始めても 次の日には「今日はいいかなぁ」なんて言ってる 僕の方がよっぽど気まぐれの才能がある でも、しばらく経って後悔することもよくある 「続けていたら今ごろは…」なんて 他の動物よりも人間の方が学習能力があるなんて嘘じゃないかと思う こんなに学習しないのは人間くらいのもんだ また

【詩】よく嘆く旅人へ

目的地が決まらないと嘆く旅人 地図が見つからないと嘆く旅人 準備が足りないと嘆く旅人 荷物が多すぎると嘆く旅人 何をすれば旅かと嘆く旅人 ない正解は無いと嘆く旅人 よく嘆く旅人へ 一歩を踏み出すことだけ それだけが旅 それこそが旅

【詩】だれのせいでもない

だれのせいでもないことは だれのせいになるのでしょうか じゃあ、ぼくのせいでいいです たろうくんはてをあげました それじゃかいけつにならないよ じろうくんはなっとくがいきません でも、このままけんかするのもいや なかなおりがしたいあけみちゃん だれのせいでもないなら だれのせいにもしなくていいじゃん いつもしずかなさとしくんがいう だれのせいでもないのに ぼくがわるいっていうのはうそだ だれかのせいにしたら なにかがかいけつするなんてうそだ どうしようもないときのために ごめ

【詩】小さな死

歴史に残る大量虐殺 それに比べると小さな死 不幸な事故による肉親の死 それに比べると小さな死 歪んだ思想の暴走の被害者 それに比べると小さな死 怪我で断たれた選手生命 それに比べると小さな死 声を失ったアーティスト それに比べると小さな死 生活も困難なほどの障害 それに比べると小さな死 自分だけが生き残った戦争 それに比べると小さな死 日常に戻れない薬物依存 それに比べると小さな死 治ることのない精神病 それに比べると小さな死 人気絶頂での突然の死 それに比べると小さな死

【詩】思ってしまう日常

ライターを取り出すと 煙草吸うのかなと思ってしまう 携帯を取り出すと 退屈なのかなと思ってしまう 小説を読んでいると 友達になれるかもと思ってしまう 新聞を読んでいると お父さんなのかなと思ってしまう 男女が並んでいると カップルなのかなと思ってしまう ビルが並んでいると 星が見えなそうと思ってしまう そういう「思ってしまう」を思ってしまうたびに 想像力と偏見のカスタネットを自分も持っていることに気がつく 誰かの刻むリズムや音が僕には不快に聞こえるように 無意識に漏れ

【詩】改札

隔たり 去る者と去られる者との境界線 曖昧ではないくっきりと濃い太線 門番 今日も戦場へ繰り出すあなたを静かに見守る 無事帰ってきたあなたを静かに迎え入れる 歪む時間 再会という花火を今か今かと 時間通りにくる未来を今か今かと 卒業 選択を間違えると人生は思わぬ方向へ 同郷から巣立つ彼らに同じ人生は一つとない 映画館 笑顔、抱擁、安堵、笑い、日常、退屈、涙と別れ 予告編とエンドロールが絶えず流れている

【詩】恋のように本

いつも私は頷くだけ あなたの話をずっと聞いているだけ あまり難しい話はしないで 眠くなってしまうから あまり退屈な話はしないで 別れが早まってしまうから でも、相性とかタイミングってあるから 今は、その時じゃなかったのかも いろんな出会いがあったわ ひとめぼれ 友達の紹介 マッチング 運命みたいな出会いも あなたとの出会いは なんだったかしら なぜか惹かれるの あなたに 顔がいいわけでも 優しいわけでもない 周りからもやめときなさいって 止められたわ でも、今、私はあ

【詩】ひとりじゃないよといいたくて

まちがえたのだとおもいます つたえかたを かんがえすぎたのだとおもいます ひょうげんを むずかしすぎたのだとおもいます わたしには そのままでは まるできれいごとにきこえるとおもって じぶんなりに よごしたりきりきざんだりしてみました そのうちに なにもみえなくなってしまいました こうすればいいとか いつでもちからになるとか きもちわかるよとか いっしょにがんばろうとか そばにいるからとか きっとだいじょうぶとか きみならできるとか あなたをしんじてるとか つたえたいす