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縫い合わされた目玉

新御茶ノ水の地下鉄のプラットフォームから、地上に続くエスカレーターに男は足をかけた。見上げると、地上の空が、小さい窓の様な出口から、くっきりと見えている。まるで、暗闇に貼り付けた水色の折り紙だ。

男は、電車の中で読んでいたバタイユの『眼球譚』を、エスカレーターの上でも読み続けていた。自分の眼球がその中の1ページに縫い付けられた。縫い付けられた。。縫い付けられたのだ。。。文字が突然バラけた。それは、意味を失い形だけが、男の眼に焼き付いた。ページをめくろうとしても、めくれない。つるつるすべる。研磨機できめこまやかに磨かれた大理石のような言葉の崖で、自分の体が深淵に滑っていく様に感じた。

つるつる。つるつる。つるつる。

男は、そのページの最初の文字に戻り、中盤まで読んでいくと、またもや、ずり落ちそうになり、そしてまた、最初の文字に戻る。

エレベーターは、ゆっくりと登っていく。登っても登ってもいつまでも、終わりが来ない。暗闇の中一人永遠に続くかと思われるエレベーターの上で、深淵へとずり落ちていく。

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