わたしを旅館に連れ込んだ幼なじみの少女

 わたしの母親の実家には、祖母が一人で暮らしていた。幼いころは、毎年夏になると泊りがけで出かけていたが、高校生ともなると友だち同士で出かけることが多くなり、次第に足が遠退いていた。

 祖母の家は山の中にあった。いまは廃線となってしまった単線の鉄道が切り立った崖と大きな河の間を通り、ゆっくりと古びた電車が走っていた。

 高校3年の夏、わたしは避暑と受験勉強を兼ねて、久しぶりに田舎を訪ねた。祖母は快く迎え入れてくれ、わたしはクーラーがなくても涼しい部屋の中で参考書片手に問題集と格闘していた。

 ある日、疲れをいやそうと縁側で転がっていると、庭に面した道から一人の少女がのぞき込んでいるのに気がついた。

「お久しぶり」

 少女はわたしに向かってあいさつするが、その顔に記憶はない。だれだったろうかと考えあぐねていると、少女のほうから名乗ってくれた。

「わたし、豊子」

「ああ、トヨちゃん」

 それは、二つ年下の幼なじみだった。

 小学生まで、田舎にきていたわたしは、近所の子供たちともよく遊んだ。豊子は同い年の男の子の妹で、ワンパク連中と一緒になって川で泳いだり、虫取りに興じたりしていたのだ。

「入っていい?」

「うん」

 豊子は垣根の脇の戸を開けて庭に入る。そして、わたしのとなりに座ると、愛らしい笑みを向けてくれた。

「ホント、久しぶりね。どうして?」

「え?」

「どうして一人できたの」

「受験勉強」

「へえ、大学にいくんだ」

「一応、そのつもり」

 表情にむかしの面影は残っているが、16になった豊子には少女の愛らしさと同時に、どこか大人びた雰囲気もそなわっている。

「いつまでいるつもり?」

「あさってには帰る」

「はやく帰るのね」

「うん、田舎もいいけど、やっぱり友だちのいるところのほうがいいし」

「どうして?」

「情報交換とかできるから。それに、一人だけだとだらけてくる」

 そういうと、豊子はすこしさびしそうな表情を浮かべた。

「けど、せっかくきたんだから、ちょっとは遊ぼうよ」

「そうだな、気分転換にはいいかも」

「あしたはヒマ?」

「ヒマっていえばヒマ」

「じゃあ、わたしと一緒に遊ぼ」

「え?」

 わたしは豊子の顔を見つめてしまう。

「あした、駅に10時」

「駅って、どこにいくの」

「市内で買い物、それと映画」

「お兄ちゃんに連れていってもらいなよ」

「お兄ちゃん、都会に就職したの。それとも、わたしとだったらダメ?」

 豊子の表情は、いっそうさびしいものになる。わたしは、その表情を見て、断ることができなかった。

「わかった、10時ね」

「うん、待ってる」

 豊子はうれしそうな表情に変わり、はずむ足取りで去っていった。

 

 次の日、駅前によろず屋1軒しかない駅で、わたしは豊子を待った。

 セミがけたたましく鳴き、真っ青な空に白い雲がのんびりと流れていた。

 10時を少し過ぎたころ、大きな麦わら帽をかぶり、小さなハンドバッグを持ち、フリルつきのワンピースを着た豊子が現れた。

「ごめん、待った?」

「いや、いま、きたとこ」

「よかった」

 そのまま、電車に揺られて村を離れ、地方の市内まで。食事をし、映画を見てから、豊子の買い物に付き合った。

 豊子は始終笑みを浮かべ、わたしも勉強のことをしばらく忘れて一緒の時間を楽しんだ。

 時間は過ぎ、日が暮れて帰ることにした。そのとき、突然夕立が降り出し、わたしたちはずぶ濡れになって駅に飛び込む。

 しずくをぬぐってキップを買おうとすると、いきなりアナウンスが流れてくる。

「崖崩れと川の氾濫のため、運行は中止です」

「え~、そんな降ってないのに」

 わたしはいう。

「よくあるのよ。この辺りはそんなに降ってなくても、山の中は大降りって」

「けど、どうしよう」

 わたしは悩んだ。

 夜は深まってくる。タクシーに乗れるほどの持ち合わせはない。

「しょうがないね。泊まっていこうか」

「え? 泊まるって……」

「さっき、映画館の近くに旅館があったじゃない」

「旅館って、あそこは……」

「ダメなの?」

「ダメも何も……」

 高校生のわたしでも、繁華街の隅にあった宿が、どういう目的で利用されているのかわかる。

 しかし豊子は、執拗にわたしを誘う。

 はたして泊めてくれるかどうか不安だったが、旅館の女将は意外とすんなり部屋に通してくれた。

 落ち着かないわたしは部屋の中をうろうろ歩き、トイレの場所をたしかめたり、風呂をながめたりしていた。

「落ち着きなさいよ。動物園のクマじゃあるまいし」

 豊子はお茶を入れていう。

「け、けど」

「わたしといるのが、そんなにイヤなの?」

「そんなのじゃない。その、どういえばいいのか」

「電車が止まったのは、みんな知ってることだし、心配しないわよ」

 部屋には、すでに布団が敷かれていた。しかも横幅の広い、ダブルタイプだ。

 わたしは畳の上にあぐらをかいて豊子を見る。

 布団の端に横座りの豊子は、艶っぽい笑みを浮かべている。

「わたしね、本当は好きだったのよ」

 豊子はいきなり、わたしの目を見て告げる。

「子供のときから。けど、大きくなったら、全然、田舎にきてくれない」

「いや、その……」

「ねえ」

 豊子はわたしとの距離を縮める。

「わたしを都会に連れていってくれない?」

「どうして」

「イヤなの、田舎が」

 豊子はそういって、わたしにしなだれかかってきた。

「が、学校はどうするの」

「働く」

「けど……」

「イヤなの? これでも」

 豊子はいきなりわたしを押し倒し、覆いかぶさってきた。そして、頬を押さえて唇を重ねてくる。

 わたしは動揺と、唇のやわらかさが与えてくれる興奮でうろたえてしまう。

「ねえ、もっといいことしよ」

「な、何を……」

「わかってるくせに」

 豊子はそういって上半身を起し、服を脱ぎはじめた。

 わたしは呆然と見守るしかない。

 ブラジャーとパンティー姿になった豊子は、ふたたびわたしにのしかかる。そして、わたしのシャツを脱がし、ズボンを下ろすと、もう一度、唇を重ねてきた。

 

「しよう。ね、いいでしょ」

「け、けど」

「初めてなの?」

「うん」

「じゃあ、教えてあげる」

 豊子は布団にのぼり、ブラジャーを外す。

 露出された乳房は豊かに実り、張り詰めながら艶を放っていた。

「見てないで」

 豊子はわたしの手を取ってうながす。手の平が乳房に触れ、なめらかな感触が伝わってくる。

「吸って」

 ここまできたら後には引けない。わたしは豊子に挑んでいく。

「だめ、あせったらだめ。最初はやさしく」

 乳房を揉んで乳首を吸う。

 わたしの一物は、すでに大きく膨張をはたしている。

 豊子はそんなわたしの手を、自分の股間にいざなった。

「ここ、ここに挿れるの」

「う、うん」

「もっと、弄くって濡らして」

 湿った肉ビラをかき分け、なぞった。その拍子に、指がすっぽりと中に入る。

「あん……」

 か細い喘ぎ声をあげる豊子。

「お、オレ、もう」

「いいよ、挿れて」

 そういわれても、どこにどう突き入れればいいかわからない。

 焦る気分をおさえながらあちこち探っていると、豊子がわたしを握って導いてくれた。

「あ……」

 わたしは、挿入と同時に果てそうなるほどの快感を得た。

 やわらかくまとわりつく襞に、ぬるみを帯びた蜜壺。

 筒の圧力が、わたしの全体を窮屈に締めつける。

「ゆっくりでいいのよ、最初はゆっくりと動いて」

「けど、だめだ」

「もう、なの?」

「うん」

「じゃあ、いいよ、出しても」

「いいの?」

「その代わり、これ、つけて」

 豊子はわたしを抜き取ると、ハンドバッグの中からコンドームを取り出す。

 わたしは慣れない手つきで装着し、ふたたび豊子の中へ。

 しかし、2、3回腰を振っただけで射精してしまったのだった。

「初めてやもん。そやけど、2回目はわたしも気持ちよくしてね」

 その言葉にしたがい、わたしは2度、3度と豊子を抱きしめた。

 そのうち、疲れた二人は眠りにおちいり、気づいたときには朝になっていた。

 次の日、わたしは豊子に黙って祖母の家を離れた。豊子を田舎から連れ出す気は毛頭なかったし、会えばずるずると居ついてしまいそうな自分が怖かったからだ。

 それからは大阪で図書館に通い、勉強に励んだ。豊子のことは忘れられなかったが、何よりも受験が大事と自分に言い聞かせた。

 秋が来て冬になり、2月にわたしは無事、大学に合格した。そのころになると、豊子のことも思い出以外に残ってはいない。

 いまは祖母も他界し、田舎の家は残っていない。

 豊子が、あのあとどうなったのか。うわさすら、わたしの耳には届かなかった。

 

 

 

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