シェア
長月猛夫@官能作家
2023年5月8日 18:44
「生きていてよかった」 だれかが、そう歌っている。 耳にした奥田は、ふと立ち止まり考えてしまう。「生きていて、よかったこと?」 頭の中をかき回してみても、急に思い浮かぶものはない。 45年間、目立たない人生を送ってきた。しいて、そうしてきたわけではない。なんとなく流れに任せていると、そんなふうになってしまったに過ぎない。 中学、高校と近所の公立に通い、成績は中の下。クラブにも入らず、ス
2023年5月1日 18:21
山泉公三には悩みがあった。 職業は大手電気部品メーカーの社長。しかも一代で上場を果たし、何度も苦境に立たされながらも国内有数の企業に育てあげた。 しかし、公三は今年75歳。頭の中に、ぼんやりとしたかすみがかかりはじめ、そろそろ引退かと考えている。 公三には二人の息子がいた。 長男の隆は実直な慎重派タイプ。石橋をたたいて渡る性格で、堅実なのはいいが冒険心に欠ける。 次男の智樹は積極的な行
2023年4月11日 17:28
「困るんだよ、ホントに」「申しわけごさいません」「まあ、次からは気をつけて、同じ失敗をくり返さないということで」「はい、本当に申しわけございませんでした」 小村香織は、何度も頭をさげて店長室を出て行った。つづいて入室してきたのは、パートマネージャーの飯塚和子だ。「店長、小村さんには特別甘いんじゃありません?」「え? そんなことありませんよ」 吉田は困惑した表情で答える。「いつも、い
2023年3月25日 17:54
中小企業の経理課で働く西本は今年50になる。家族は妻と高校生の息子、中学生の娘。外から見れば平凡で幸福そうな家庭だが、女房はブタのように太り、化粧もせず、夫の前ではジャージ姿しか見せたことがない。子どもたちも、とくに不良というわけではないが、まじめだけが取りえで小心者の父親をバカにしている。西本にとって家庭とは、憩いや安らぎをおぼえる場所ではなく、単純に雨露をしのぎ、食事をして寝るだけの場所
2023年3月7日 16:17
両ひざをそろえ、ひざまずいた梨恵の鼻に、すえたたんぱく質のにおいが伝わってきた。唇に、奇妙なやわらかさと固さをともなった物体が当てられる。その尖端からはヌルリとした液がにじみ出し、粘り気のある感触が神経を逆なでする。「ほら、口を開けて」 梨恵はそれが何なのか、すぐにわかった。けれど、うしろ手に縛られ、アイマスクをはめられた状態では、太さも長さもたしかめるすべはない。「さあ、はやく」 梨
2023年3月3日 15:18
「じゃあ、あなたがお相手してくださらない?」 美奈子はいった。 平日の昼下がり。営業マンの松浪は仕事の合間を利用して美奈子と対座している。あちらこちらでチェーン展開を行う喫茶店。スペースも広く、二人の姿は別段目立ったようすもうかがえない。「え……、そ、それは……」 狼狽する松浪は、今年で30歳ちょうど。半年前に3つ年下の妻と結婚し、仕事も順調だ。本来ならば、松浪にこのような場所で時間を
2022年7月28日 19:36
生まれながらの女好きで、風俗通いを何よりも楽しみとしている。そんな本村は、最近満足できない自分を感じていた。女遊びをおぼえた15年前とくらべ、女の子の質は格段にあがっているしサービスも向上している。いったんベッドにのぼればいたれりつくせり。それこそ尻の穴まで舐りつくし、口の中に吐き出したザーメンもおいしそう受けとめてくれる。「でもなぁ……」 カネさえあれば、びっくりするくらいかわいい
2022年4月27日 17:38
「さあ、恥ずかしいことをはじめましょうか、奥さん」 古びたラブホテルのベッドに腰かけ、タバコをふかしながら男はいう。だらしなくはおったガウンの股間は、すでに隆々とした盛りあがりを見せていた。 そんな男を、雅代は立ちすくんで見すえる。 男の名前は知らない。なんらかの理由があってこの場所にいるはずだが、それもあいまいになっている。 さっき飲まされたクスリのせいだろうか。そんなふうに思ってしまう