数字を見るときは、『差』を見ろ

仕事の記事では消費者ニーズのことを書くことが多いですが、マーケティングに関わるようになり、第一に上司から言われたのは「数字」についてです。自分の関わる仕事について、どの程度の数字を理解しているか?売上は?利益は?人数は?「数字」は、国や文化が違っても共通する唯一の言葉であると。

ちなみに、もう一つ言われたのは「全体を見ろ」です。「全体を見る」。そうすれば、現状の理解がきちんとできる。「数字を見る」と「全体を把握する」。この2つは自分の仕事をする上でも意識をしている部分です。というのも、気を抜くとこの2つはついついサボりがちになってしまいがちだからです。

経営者や幹部の立場ならいざ知らず、現場の人間は、自分の関わっている分野のことに視野が集中し、その他の事には意識がいきません。WEBの獲得部署であればCPAの細かい動きは分かっていても、リピート率に関しては全く把握していない、というようなイメージです。部署が分かれている場合は、それぞれの数字は詳細に把握していても、全体の構造が見えない場合も多いとも感じます。

僕は文系なのでつい数字を見逃してしまいがちでした。若いころの失敗例をひとつ。過去に実施したキャンペーン広告のリバイス(改訂)案件です。キャンペーン広告はAとBがあり、どちらも過去目標に達成していなかった(悪かった)と前任者より聞かされていました。この時、僕はキャンペーンBの方に明らかに改訂要素が多いように見えました。広告の見た目や導線が明らかにAより劣っていたからです。これまでの経験で、「ここはこうすれば良くなる」というイメージも湧いていました。スケジュールも逼迫していたので、広告Bをリバイスして実施しました。結果は惨敗です。なぜ失敗したのかを考えてようやく、過去のAとBの目標達成率を調べました。Aは目標に対して80%、Bは50%でした。これを前任者は「どちらも悪かった」と言っていたのです。

読んでいる方は「アホか」と思われる方も多いかと思いますが、自分でもそう思います。施策について動き出す前に、せめて過去の数字を調べておくべきでしたし、目標達成のために改訂すべきはAの広告でした。幸いにもキャンペーン広告自体の効果が全体に対してものすごく軽微だったため誰からも怒られませんでしたが、個人的には「数字」というのを明確に意識しだした重要な失敗ですし、思い出です。特に「よい」「わるい」というのは主観ワードなので、ビジネスでは気を付けなくてはなりません。

こういった話は初歩の初歩ですが、いずれにしても「数字」は「現状の理解」「状況の把握」をする時に、よい味方になってくれます。ただし、数字がありすぎて数字に溺れてしまう、というのもよくある話です。僕なりに学んだ数字の見方は下記の4つです。

一つ目は、題名にも書いた「数字を見る時は『差』を見る」ということです。

「去年と今年の認知度の差」「自社の売上のエリア別の差」「顧客セグメント毎の他社と自社の差」ほかには「調査データと実売データの差」なんていう見方もあります。「差」はチャンスを見つけるのに役立ちます。去年→今年であれば、変化した箇所とその原因を深ぼる。エリア別の差であれば、原因を考えた上で、どのエリアに注力するかを考える。他社と比べて自社が取れていない顧客セグメントがあればそこにチャンスがあるのでは?と考える。調査データに比べ実売データが伴っていない場合、認知の質や配架の問題があるのでは?と考える…などなど。データがない場合は、新たに取得方法を考えるのも良いのかもしれません。ちなみに、マーケティングの定量調査ではこういった「比較対象がない」数値を出してしまう事は実は結構あります。ひとつの施策の受容度だけを取り、それが80%だから良い、という評価をすることがありますが、それだけで判断することはできません。他の施策の満足度が全て90%であれば、その施策はむしろ受容度の低い施策になります。

二つ目は、「数字の意味するものをリアルに考える」です。例えばイベントの満足度という指標について、「どういう状態が満足度が高い状態なのか」という理解ができないと次の打ち手は考えられません。イベントの内容が良かったのか?運営がよかったのか?自分の興味がないイベントだったのか?これらは、誰に聞くかによっても大きく変わってきます。対象が「イベント参加者」であれば内容や運営でしょうし、対象が「イベント認知者」であればイベント企画自体なのかもしれません。自分の関わった仕事でも、チームメンバー全員が「イベント参加者」の満足度と、「イベント認知者」(うち9割以上はイベント未参加でした)の満足度を混同して議論していた事がありました。「この数字が低い」→「では、この数字を上げよう」という短絡的な議論になってしまいがちですが、これは「コインの裏返し」といって悪い打ち手です。「この数字が低い」→「この数字はそもそも何を意味しているのか」→「それはなぜなのか」→「では、こういった対策をすべき」といった考え方ができると理想かな、と思います。自分達で聴取した数字ではない場合は特に注意が必要でしょうか。

三つ目は、「大きく、確実な数字から見ていく」です。リサーチをしたり、調査をしたりすると、ものすごい数の数字が出てきます。ひとつひとつを見ると確実に頭がパンクしてしまうと思います。こういうときのコツは「大きい数字から見る」「KGIに対して確実な数字から見る」です。ついつい自社と競合の売上やシェア差ばかり見てしまいがちですが、実はカテゴリー自体の規模が小さく、まだまだ伸びしろがある、というのは良くある話です。リサーチを行う場合でも、競合との比較に入る前にまずは市場の規模自体や、代替になりそうな市場の規模を調べておくことをおススメします。日本だけでなく、海外を見ることも参考になるかもしれません。多くの人間は、面倒がって、なかなか視点を上に上げないものです。また調査で取得した項目も、目標(多くは売上だと思います)に対して影響がありそうな項目から見るのが良いかと思います。BtoC、店販、都度購入の商品であれば「認知」「興味」「購入意向」などの項目の影響が大きそうですが、事業や施策によっては影響の大きい項目が異なる場合もあります。そもそもどの項目の影響が大きいか、というリサーチを設計する場合もあるかもしれません。

最後に、これはマインドの話ですが、「数字を数字で終わらせず、解決の示唆までもっていく」という気持ちが個人的にはとても重要だと思っています。キレイなレポート、詳細な大量の分析。しかしそこには示唆は書かれておらず(書いてあっても最後に1ページ「~という可能性も考えらえる」の語尾)、結局机の中にしまいこまれる。そんなものが世の中には非常に多いのではないでしょうか。数字を見る目的は、数字を見ること自体ではなく、そこから問題点やチャンスを見つけて解決につなげることだと思います。それには、数字を数字としてとらえず、顧客や現場のリアルな実態として翻訳する、という作業が必要ではないでしょうか。僕はどちらかと言うとこういったレポートを出す側にいる人間なので、このことは肝に銘じていければと思います。

自分は調査やリサーチ専門ではないのですが、思ったより長く書いてしましました。僕自身も全く数字に強くない人間なので探り探りではありますが、何かしら参考になれば幸いです。

参考文献:
米田恵美子著「リサーチ&データ活用の教科書」東洋経済新報社
足立光/土合朋宏著「マーケティング大原則」朝日新聞出版社

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