#リーメンビューゲル の説明書
2022年5月、つくば市に小児整形外科を専門とする新しいクリニックがオープンします。そこでは股関節脱臼、O脚、運動発達などの専門的な診療が受けられます。また、脳性麻痺をはじめとした小児のリハビリテーションにも積極的に取り組んでいます。
この記事をご覧になられた方は、きっとこのクリニックの未来が気になるのではないでしょうか。ぜひ一度以下のホームページをご訪問ください。
先天性股関節脱臼のもっとも有名な治療用の装具。
リーメンビューゲル(Riemen Bugel)
でも、実はこれが世界基準の言い方ではないと知っていますか??正しくはPavlik harness(パブリックハーネス)と言います。 パブリックさんと言うチェコスロバキア社会主義共和国(1993年チェコ共和国とスロバキア共和国に分離)の整形外科医師が開発した装具です。
日本には1950年代に導入されたと言われています。今から70年も前のことです。
このリーメンビューゲル治療法は現在でも外来におけるメインの治療法として行われています。まずはこの問題点について述べていきたいと思います。
【実は難しい。リーメンビューゲル】
以前の記事(牽引治療法)で整復率と大腿骨頭壊死発生率を整復方法別にまとめた表を載せました。
この表によると、リーメンビューゲルを着けた治療では整復率が60-85%と、必ずしもそれだけで全ての人が治るものではないことがわかります。これについては鈴木茂夫先生(水野病院院長)が1990年代に行った研究の中で報告しています。
股関節脱臼の程度による分類(Suzukiの分類)のうち、type-Bについては整復率が80%程度であり、type-Cに関してはほぼ100%整復ができない。
※)原著はこちら→https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8496228/
このことすら小児専門で治療を行っている人以外、完全には理解していないのが現状です。着けていても治らないことがしっかり報告されているのにそのまま使い続けています。リーメンビューゲルはその使用方法の簡便さゆえ急速に広まり、今もなお、昔の使用方法のまま浸透しているのです。
自分が危惧しているのはその部分なのです。
そのため、この『リーメンビューゲルの説明書』を一般の人にも知ってもらおうと考えました。
【リーメンビューゲルの仕組み】
肩から吊る『バンド』と『鐙(あぶみ)状に足をつるバンド』からなる治療用装具です。一般的に肌着の上に装着して、バンドの長さを調節し、股関節が90°以上屈曲するようにします。そうすることで、大腿骨頭(脚の付け根)が臼蓋(骨盤のソケット)に向かいます。
その状態を絶えずキープしたまま足を蹴り出す際に、股関節が外転する方向に力が働き骨頭が臼蓋内に整復されます。股関節の拘縮が強く、動きが弱い場合は夜間寝ている間に、脚全体の重みで徐々に外転方向に力が働き整復されると言われています。
どちらの整復方法も、より脱臼の程度が高度になればなるほど(これはレントゲンで正常な位置からどれだけズレているかを測ります)、大きな力を必要とすることになるので、股関節には無理な力が働きます。このことが、股関節脱臼の最大の合併症である大腿骨頭壊死(骨頭変形)につながるのではないかと考えられています。
【装着時の注意点】
治療を行う際に、ご家族からよく質問を受けます。
・お風呂はどうやって入るのか
・着替えはどうするのか
・外に行くときなどは外しても良いか
基本的には24時間つけたままであり、外すことは推奨されていません。
しかし(これはあくまでも自分のやり方なので担当の先生に必ず確認して欲しいのですが)、股関節の動かし方の再獲得を目的として使用する場合は、取り外しを行ったとしても、また着ければ良いだけなので、お風呂や着替えの際に外しても、数時間外したとしても問題ないです。
その際はベルトの長さを変えることのないように着け外しを行う必要があります。
整復と脱臼を繰り返すことで大腿骨頭壊死になりやすいといった報告もあるため、自分の判断で外すのは危険です。
【装着するだけではダメ】
ここから先は運動発達学を元に考えてみます。
股関節脱臼はそもそもなぜ起こるのかはっきりと分かっていません。
もう、何十年も前からその存在が知られているのにも関わらずです。
・どうやら赤ちゃんの中で何%かには起こるらしい。
・産まれてすぐは異常なかったけど、そのうち脱臼するらしい。
・脱臼は放っておくとひどくなるらしい。
・向きグセや寝方、抱っこの仕方など、姿勢にどうやら関係があるらしい。
・女児や家族歴があったり、骨格や組織によってなりやすかったりするらしい。
こういったことまでは分かっています。
ここから先に進まないのは、赤ちゃんの運動発達について、最近までよく分かっていなかったからではないでしょうか。
赤ちゃんには『生まれつき運動のプログラムが備わっており、それに従って動けるようになる』と信じられてきました。原始反射などはそのためにあるんだと。
しかし、最近では赤ちゃんが動きを覚えるのは偶然の積み重ねであり、みんな同じ様になるのは、その動きが一番効率が良く、赤ちゃんが自ら選択しているのではないかと考えられる様になってきました。
このときの、動きの選択のミスマッチが脱臼に繋がるのではないかと考えています。
脚の運動を覚える際に、股関節が外れる方向への力のかけ方を覚えてしまった場合、その繰り返しが股関節をどんどんとずらしてしまいます。
赤ちゃんは痛みがどこで起こっているのか感じにくいと言われています。なにかおかしいと思っても、それがどこで、どの様にして起こっているのかは分かりません。自分のできる運動をモゾモゾと続けているウチに戻せなくなってしまう。
これが脱臼の始まりではないかと。
この動きのミスマッチを改善させる方法として、リーメンビューゲルを使用することは理にかなっています。
股関節の中心を決め、そこからズレない範囲で繰り返しの運動を行う。筋の緊張や収縮が整い、装具を外してからもそれが維持される。
そのためには着けるだけでは不十分であり、たくさんたくさん動かしてもらうことが必要。仰向けだけではなく、うつ伏せになったり、お座りしたり。あらゆる動きの中で股関節の中心を感じてもらうことを意識した治療(脱臼のリハビリテーション)を行っています。
【本当は取扱注意の方法】
ここまでの情報が正しい方法なのかどうかは今の時点でははっきりしていません。ですが、これだけは言わせてください。
リーメンビューゲルは誰でも簡単に着けて良いものではありません。
その後の治療を難しくしてしまうことがあると言われています。
完全脱臼で整復の見込みがないままリーメンビューゲルを着け続けてしまうと、骨頭がそこで癒着してしまい、手術による治療の選択を迫られることもあります。
合併症が少ない方法は他にもあります。
運動発達の状態を改善することで、リーメンビューゲルの治療がより専門的になり適応がはっきりすることで、さらに整復率と合併症の発生予防を良くしていくことが今後の目標です。
中川将吾
小児整形外科専門ドクター
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?