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股関節脱臼の治療ー牽引方法ー

こんばんは!
このごろ寒くなってきたからか、股関節脱臼の相談が増えています。
以前にも何度かお伝えしていますが、冬生まれの赤ちゃんは股関節脱臼の派生率が高いです。

見ておわかりのように明らかな傾向があります。これを見ると、股関節脱臼の発生原因が遺伝や骨格の影響よりも、環境因子が大きいことがあります。環境が原因であれば予防可能なはずです。予防医療の中で、股関節脱臼の予防を進めていくことには価値があると思っています。


今日は股関節脱臼の治療方法についてお伝えします。
以前『股関節脱臼の治し方』というタイトルで、手術方法について記事を書きました。見たことない方はこちらもどうぞ↓

今回は持続的牽引法=FACT(通称)という私たちの病院で行っている方法をお伝えします。

originalの方法を記載した論文はこちらからダウンロードできます。


FACTとは

持続的開排位牽引法(Flexion-Abduction Continuous Traction: FACT)のことです。

脱臼して、股関節から骨頭が抜けているのを、ゆっくり引っ張って元に戻そうという方法です。股関節脱臼はそれまでリーメンビューゲルという装具を装着し、整復率80%程度、骨頭壊死率15%程度という成績が一般的でしたが、このFACTによって、整復率ほぼ100%、合併症の発生が1%と成績が格段に向上しました。

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要は安全に問題なく治せるということです。

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こんな感じで引っ張っています。股関節脱臼は開排制限といって、脚の開きが悪くなります。反対と比べて30度程度開きが悪くなるのですが、牽引することで、ここまで綺麗に開くことができます。

この方法のミソは包帯の巻き方になるので、熟練した看護師さんの腕の見せ所になります。

【豆知識】
経験がある方は分かっていただけると思いますが、肩の脱臼と同じ様に、引っ張って骨頭を関節の鉛直線上に持ってくることで、筋肉の力で整復されるのです。

FACTの欠点

どんな良い方法でもやはり欠点があります。

入院が長くなることです。


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この表を見て下さい。第4段階に入るまでが入院での治療です。全ての治療を終えるまで、1ヵ月程度かかります。

その間、ほとんどの例でお母さんが付きっきりで入院していたりします。兄弟がいる家庭では家族への負担がかなり大きくなります。

また、ずっとベッドの上で牽引していることになるので運動発達の遅れも気になります。この点を解決しなければ本当の意味で最良の方法とは言えません。

FACTの新しい試み

どんなに良い方法でも時代に合わせて変わっていかなければ過去のものです。欠点に対してなんとか改善できないかを常に考えています。

最近ではリハビリテーションの考え方を活かしています。股関節の開排制限は筋の拘縮によるものであることは分かっています。拘縮が改善しやすい運動や動作を行うことで牽引期間の短縮を狙っています。

また、運動発達のため、休憩時間や巻き直しの際に理学療法を導入しています。

このやり方は自分たちの施設独自のものであり、今後さらに症例を増やして効果について検討していきます。


股関節脱臼の治療の今後の展開

これまで見ていただいた様に、FACTも完璧ではありません。しかしこの方法は日本独自に開発されたものであり、さらに良いものにして日本の素晴らしい医療を世界に示せるきっかけになると思います。

さらに、股関節脱臼の治療は整復して終わりではないことも覚えておく必要があります。

臼蓋形成不全と言って、股関節の骨の成長が遅れてしまうことが必発になります。改善されない場合は小学生前後で骨盤の骨切術がすすめられています。

手術を少なくするには予防医療と、新しい知見が必要になります。
できれば外来で同じ様な治療ができる様になれば良いなと思います。

病院では積極的な予防医療や新しい治療は難しいので、これからは小児整形外科クリニックがその役割を担ってくると思います。

中川将吾
小児整形外科専門ドクター

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