幸福否定の研究-7【一般的に見られる愛情否定-2】

*この記事は、2012年~2013年にかけてウェブスペース En-Sophに掲載された記事の転載です。

【幸福否定の研究とは?】
勉強するために机に向かおうとすると、掃除などの他の事をしたくなったり、娯楽に耽りたくなる。自分の進歩に関係する事は、実行することが難しく、“時間潰し”は何時間でも苦もなくできてしまう。
自らを“幸福にしよう”、"進歩、成長させよう”と思う反面、"幸福”や“進歩”
から遠ざける行動をとってしまう、人間の心のしくみに関する研究の紹介。

幸福否定の一つに、親密な人間関係をつくれないという症状があります。

はっきりと"人間関係が苦手"という意識を持っている場合もありますが、表面的な人間関係を繰り返し、本人の自覚がない場合もあります。恋愛関係を繰り返すというのも、一見人間関係に問題がないように見えますが、親密な関係をつくれない、という意味では本質的には同じ問題を抱えている事になります。

幸福否定が解消せず、表面的な人間関係を繰り返すか。幸福否定が薄らぎ深い人間関係をつくれるようになるか。その例として、ある女性の話が載っています(心の研究室「恋愛感情と愛情」

その女性は恋愛経験がなく、自分は女性としての魅力がないと思いこんでいましたが、心理療法が進み、ある男性を好きになり告白します。しばらく多少の駆け引きのような状態が続いた後、交際はできないと断られる事になります。

その返事を受けてショックを受けたのですが、通常の痛手の他に幸福否定による症状がないかを調べたところ(注1)”相手が自分のことを、遊び感覚でつきあう軽い相手としてではなく、真剣な交際の対象として考えてくれていたこと”の嬉しさの否定もあることがわかったようです。

そしてそのことが明らかになるにつれ、本人も本当に好きでもない異性と気軽に付き合うべきではないという信念を持っていた事に思い至る事になり、

異性と簡単に交際が始められる人たちの場合には、互いにそれほど好きな相手ではないからこそ、さしたる抵抗もなく、気軽に交際が始められるということなのではないか、そのため、交際がある程度続いて愛情が深まる段階になると、そこで抵抗が起こって、あわてて遠ざかるということなのではないか。したがって、相手を次々と替えてゆくような、“恋愛経験”が豊富な人たちであってもやはり、本当に好きな相手とは、交際を始めること自体が難しいのではないか。
心の研究室サイト "恋愛感情と愛情"

という事に気がつかされるようになります。

長さの関係で詳細は省略しますが、恋愛経験が豊富かどうかや、文化の違い(アメリカでの調査を参考)を問わず、本当に好きな相手に接すると、抵抗に直面した時の反応(過度の緊張状態、気弱になる、どうにかなりそう、など)がでるようです。

このようなハードル(近づくだけででる"反応”や、倦怠期など)を乗り越えていく事が愛情を深めるという事になり、本当の意味での自信に繋がっていきます。逆にハードルを避ける結果としてできる人間関係が恋愛豊富や愛人という事になります。

愛情がどのようなものかがわかってくると、なぜ、恋愛豊富でオシャレな独身者よりも、旦那さんの悪口ばかり言っているオバサンのほうが精神的に安定しているのか、また、長年に渡る介護や看病などが続けられる人間関係とはどのようなものかがわかってきます。

愛情に関しても、自分の本当の喜びになる事には抵抗に直面する事になり、幸福否定の症状が出やすく、恋愛豊富や愛人のような表面的な関係を続けている分には、困難も少ない代わり、本当の意味での深い人間関係を築いたり、それによって本人が自信を持つという事もないという事になります。

以上、一般的にも観察できる例として、【愛情に関する幸福否定】について書かせて頂きました。今回も要約、引用ばかりになりましたが(注2)病気の治療に関する事よりは身近に経験することではないでしょうか。

筆者が幸福否定に興味を持つに至った経緯(病気を改善を拒否する患者さん達)、一般的に見られる幸福否定としての、愛情否定の話が終わったので、次回以降は、笠原氏の"幸福否定"の発見と心理療法の確立までの経緯の紹介に移りたいと思います。

(続く)

注1:実際の心理療法では、通常の痛手としてのショックなのか、幸福否定の症状なのかを時間をかけて詳しく調べています。
この女性の場合は、通常の痛手(交際を断られたショック)と、幸福否定の症状(相手が自分の事を軽い相手ではなく、真剣に考えてくれたこと)が混在していたようですが、通常の痛手は治療の対象にはならず時間の経過を待つしかありません。幸福否定の症状は、原因がはっきりすると解消します。

注2: 全文が 心の研究室 "恋愛感情と愛情" の要約。重要な部分は、全文引用。恋愛豊富な独身者のほうが不安定、というくだりは筆者の経験によるものです。

文:ファミリー矯正院 心理療法室/ 渡辺 俊介

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