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シンポジウム「一般医療における家族支援」報告(日本家族療法学会第39回淡路島大会)

日本の家族療法を牽引する学術団体「日本家族療法学会」の学術大会が9月16日から18日にかけて淡路島にて開催されました。

ファミラボ運営顧問である若林英樹医師と運営メンバーである河田祥吾医師が大会企画シンポジウム「一般医療における家族支援」(2022年9月17日開催)に登壇しました。若林医師・河田医師の報告より紹介します。

シンポジウムの概要

学会長児島達美先生の司会で、4人の医師から各分野での家族支援の取り組みについてシンポジウムが行われました。私と河田祥吾先生からは、総合診療・家庭医療における家族支援の視点、研修プログラムの特長、家族支援を行った事例について発表しました。

清水良輔先生は皮膚科クリニックでの全職員を挙げての家族支援チームを立ち上げた取組を紹介されました。治療抵抗性のアトピー性皮膚炎の若い男性、ステロイド使用をめぐっての父親とのコミュニケーションの変化に伴い症状が改善した事例は非常に示唆に富んでいました。

西健太郎先生は、療養型病院における家族支援の取組を発表されました。入院時に家族についての情報を得るだけでなく、「本人が喜ぶことは何でしょうか?」などの話をすることで、本人と家族の思いをつなげ、支援することができるというとても興味深い発表がされました。疎遠の家族との再会に繋がった事例など、実例を交えながらお話いただき、印象的でした。

若林医師の発表・報告

私の発表では、まず総合診療・家庭医療はどんな診療科で、なぜ家族支援が重要なのかについてお話しました。総合診療医は患者だけでなく家族、地域も丸ごとみて、医療だけではなく予防から介護まで支援する役割を持ちます。

そこで多くの健康問題は家族と強く関連しているために、家族をみる必要があるということを示しました。2つ目に、総合診療医が家族をみるときの視点として、バイオサイコソーシャルモデルと、家族ライフサイクルを活用していることをお話しました。3つ目に、家族支援の実例として、家族が賢明に介護すればするほど本人が反抗、興奮する自験例と、プライマリ・ケアにおけるひきこもり患者の診療状況の調査結果を紹介しました。最期に、今後の家族志向のプライマリ・ケアの実現化の形として、米国のコラボレーティブケアモデルを参考に、日本でも家族療法家と総合診療医が協働して診療とトレーニングができるシステムを創ることを提唱しました。

ディスカッションでは、一般医療において家族支援をする上での、時間的あるいはコスト的な限界、スペシャリストが重視される中でジェネラリスト養成に関わる医学教育上の課題、また、実際に臨床の場で家族を呼ぶときに気を付けている点、などについて議論が盛り上がりました。

プライマリ・ケア医と家族療法家が相互的につながることの重要性を改めて認識しました。これからお互いの分野が有機的にタッグを組んで、家族支援を盛り上げていけるように頑張っていこうと決意を新たにすることができた素晴らしい機会となりました。

河田医師の発表・報告

若林先生による家庭医療・総合診療の役割と家族志向ケアの重要性についてのご発表とリンクする形で、「家庭医養成における家族志向ケアの教育と実践」というタイトルで、家庭医養成プログラムで家族を視野に入れた診療をどのように実践し、教育を行っているかをお伝えしてきました。

シンポジウムでは、その他に、皮膚科の先生より皮膚科診療における家族療法的介入(アトピー事例に対する感動するくらい見事な家族療法で、患者である男性のコメントが秀逸でした)と、療養病棟における家族面接(最期を迎えるであろう場に至るまでの個人を巡る家族の物語の聴取に対する熱意に感服)が提示されました。

目の前の患者さんを、家族というシステムの視点から捉えていくのは、いずれのセッティングでも有用な視点であると実感しました。
同時に、診療の時間的問題(と診療報酬の問題)が、医療機関で家族志向ケアを充実させていくためには共通の課題として指摘されました。

2022年の日本プライマリ・ケア連合学会学術集会で、河田の参加しているメンタルヘルス委員会では、家庭医のメンタルヘルス診療の教育について提言を提出しました(近日公開予定)。今回のシンポジウムが、その提言項目の1つである「メンタルヘルス専門職との診療および教育における協働」への足掛かりとなればと期待して、今後も継続的に関わりを持っていきたいと考えています。

以上、若林医師・河田医師それぞれによるシンポジウムの報告でした。

プライマリ・ケアの現場ではたくさんの家族の相談ごとが持ち込まれ、また家族との関係性が健康や病気に影響を与えていると感じる場面は少なくありません。家族志向のケアに関心を持つプライマリ・ケア医が、家族療法家ともっと協働できるよう、家族療法学会はじめアカデミックな活動を今後も続けて参りたいと思います。

来年度の家族療法学会学術大会は福岡で開催予定です。家族や家族支援について様々な学びが得られると思いますので、関心ある方はぜひご参加ください!

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執筆:若林英樹(三重大学総合診療部/亀山地域医療学講座)
   河田祥吾(亀田ファミリークリニック館山)
編集:宮本侑達(ひまわりクリニック)/田中道徳(岡山家庭医療センター)

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