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世界の結婚と家族のカタチ VOL.2: 多様な家族のカタチを受け止める寛容な国ーーオランダ<前編>

注目の国々の結婚、ひいては家族のカタチについて、現地の事情に詳しい方々へのインタビューなどを通してご紹介していく「世界の結婚と家族のカタチ」。VOL.2では、前回のデンマークに引き続き、世界で初めて同性婚を法制化したオランダにフォーカス。オランダ在住の計4名へのインタビュー結果を、筆者がこの夏に行った現地取材結果を交えてリポートする。

【オランダにおける結婚&パートナーシップ制度】


パリから列車で3時間ちょっとのオランダの首都、アムステルダム中央駅に降り立つと、目の前には広大なアイ湾が横たわり、たくさんの船が行き来しているのが目に飛び込んできた。オランダというと、風車やチューリップを想起する方が多いと思うが、2001年に世界で初めて同性婚を法制化したほか、移民の受け入れに積極的な国としても知られるオランダは、まさに生物学的な性別を超えた、そして国境を越えた、さまざまな家族のカタチを受け止める寛容な国でもある。

同性愛者であることを理由に迫害された人々を追悼する同性愛記念碑。
アムステルダム中央にあり、毎年恒例のアムステルダムゲイパレードの出発点ともなるという

現在、オランダにおけるパートナー間の契約には、結婚に加えて、登録パートナーシップ、同棲の3つの形があり、そのいずれもが異性間・同性間にかかわらず、適用可能だという。このうち結婚と登録パートナーシップにはさまざまな権利・義務が伴うことにおいて大きな違いはないが、結婚の場合は離婚に当たって裁判所での手続きが必要なのに対して、登録パートナーシップの場合は未成年の子どもがいなければその必要はないなど、細かい部分でいくつかの違いがあるとのこと。

一方で同棲は、単なる同居の契約で、デフォルトでは別れた時の慰謝料や相続権も伴わないが、カップルの状況に応じて契約範囲を広げていくこともできる。さらに、結婚や登録パートナーシップでは自動的に共同親権が認められるのに対し、同棲では母親のみが親権者となり、男性が正式に父親になるためには子どもを認知し、母親との共同親権を登録する手続きが求められるそうだ。

今回、インタビューにご協力いただいた4名によると、同棲の契約は、住宅ローンを組むに当たって同居を証明する銀行手続きをスムーズにするために行うカップルが多いとのこと。その後は必要に応じて契約の範囲を拡大したり、登録パートナーシップ契約に移行したり、あるいは、最初から登録パートナーシップ契約を結ぶカップルもいるそうだ。結婚については、子どもができてからこれに踏み切るカップルが多いとのことで、カップルは3つの選択肢の中から希望の契約形態を選んだり、時間経過に伴いこれを変化させたりしながら、その時々の自分たちの生活に最適化しているようだ。

図表は、オランダにおける婚姻数と登録パートナーシップ数の推移を示したものだが、2022年には婚姻が7万608件であるのに対して、登録パートナーシップは2万4,128件となっており、1960年代・1970年代には、1970年の12万3,631件をピークに婚姻に踏み切るカップルが多かったものの、1980年代以降、その数は減少しているとのこと。ちなみに登録パートナーシップは1998年から開始され、2014年以降、法的には結婚とほぼ変わらない制度になったことで、その利用者数を大きく伸ばしているそうだ。

オランダにおける婚姻数と登録パートナーシップ数

【インタビュー1】
日蘭の国際結婚カップルに聞く、オランダにおける結婚と家族のカタチ


オランダにおける1組目のインタビューは、オランダ人男性のマーク・ストレンバーグさんと日本人女性の中川朋美さんご夫婦。お二人のお子さんと共にアムステルダムに住むお二人に、日々の生活目線から、同国におけるカップルの暮らしと、日本との違いを語っていただいた。

■日本で出会い、遠距離恋愛を経て結婚へ

――まずは自己紹介をお願いいたします。
中川:埼玉県で生まれ育ち、高校卒業後は4年間米国の大学に留学、会計学の学位を取りました。帰国後は会計担当として外資系の企業に3年間にわたり勤務。その後、1年ぐらいかけて世界各国を回り、帰国後はキャリア・チェンジをして、PR会社を2社経験しました。2社目では海外のクライアントを担当、英語も使えれば自分が得意とするコミュニケーション領域の仕事ということで計5~6年間、勤めました。その間に、現在の夫と出会い、オランダへの移住を決めたことで会社を退職。以降はフリーランスでPRや翻訳、原稿執筆などの仕事に携わっています。今は、この秋に小学校1年生と2年生になる2人の子どもの面倒を見ながら、仕事を継続しています。

ストロレンバーグ:私は今年で48歳になります。オランダで生まれ、11歳の時にフランスに渡り、再びオランダに戻り、仕事のスキルを学んだ上で、現在は政府系の組織で、従業員の福利厚生に関するITの仕事をしています。

――お二人が結婚されるまでの経緯は?
中川:PR会社に勤めていた時に共通の知人を介して夫と出会い、遠距離恋愛をしていたのですが、既にお互いに30代になっていたこともあり、結婚することを決めました。彼は当時、既に家を持ってローンを払っていたし、日本語ができないので日本で仕事をすることもできないということで、2人でオランダに住むことを決め、私が会社を退職することにしたのです。

――オランダでは結婚に加えて、登録パートナーシップ、同棲の3つの共同生活にかかわる形態があるそうですね。
ストロレンバーグ:はい。私たちは最初は登録パートナーシップを選択していたのですが、子どもができたことに伴い、結婚に踏み切りました。私は以前に付き合っていた女性と同棲の契約を結んでいたので、共同生活にかかわるオランダの仕組みを3つとも経験したことになります。<笑>

――オランダでは同性婚も認められていますね。
ストロレンバーグ:もちろんです。先ほどお話しした3つの選択肢は、同性婚も異性婚と変わるところはありません。2001年に同性婚が法律で認められた時には、宗教上の理由で異論を唱える人たちはいましたが、すでに1980年代から、都市部では同性間のカップルが受け入れられていたので、結婚という形式が整ったというだけで、大騒ぎになるようなことはありませんでした。

中川:私たちを引き合わせてくれた友人は同性愛者なのですが、彼はそもそも宗教心の強い地方の出身なので、両親は認めてくれても、これを理由に兄弟と仲違いしてしまったそうです。このように、地域や人によって認識に違いがあるのかもしれませんが、アムステルダムの息子の学校に通う子ども達の両親には、女性同士のカップルもいれば、初めは異性愛者だったものの離婚して同性愛者になった人もいます。

またオランダには、Bewust Ongehuwde Moeder(主体的に非婚を選択した母親)というシングルマザーのコミュニティがあって、子どもは欲しいけれどもパートナーはいらないという女性たちがお互いに情報交換したり、助け合ったりしています。私の友人の中にも、双子の女の子とその弟の3人の子どもを抱えているにもかかわらず、両親やベビーシッター、このコミュニティのサポートを得て、出張などもこなしながら、きちんと子育てしているお母さんがいます。それも1人だけの話ではありません。

――なぜオランダ社会はそうした点で進んでいるのでしょうか? 
ストロレンバーグ:オランダは「柱状社会(ピラー・ソサイエティ)」と言われ、以前は宗派やイデオロギー別に分割された社会の縦割り構造がありました。しかし、人々が教会の力があまりに強いことにうんざりして、1960~1970年代にはこうした社会構造が衰退し、1980年代にフェミニズムやLGBTQ、環境問題、反原発などさまざまな団体が一気にムーブメントを起こしたことで、社会が再形成されたのです。

かつては宗派ごとに専門特化されたテレビ&ラジオ放送が力を持っていれば、宗教心の強い地域に住んでいた私の両親によれば、子どもをもうけるのが遅かったことで、「どうして子どもを作らないんだ」と教会の神父さんが家までやって来たりすることもあったそうです。そうした中、当時のオランダ社会には不満が鬱積していたのではないでしょうか。今でも教会の影響力は多少はありますが、かつてとは大きく異なります。今、振り返ると、なかなかおもしろい時代だったと言えるかも知れません。

――結婚のプロセスはどのようになっていますか?
ストロレンバーグ:市役所で職員が立ち会い、カップルと証人が同席の上で結婚式を行うという形が一般的です。

中川:市役所で挙式した後、教会で結婚式をするカップルもいます。私たちは日本で婚姻届を提出し、それをオランダ語に訳して国際結婚の手続きをしたので、日本では家族で食事ぐらいはしたものの、オランダでは結婚式は挙げていません。

――姓については、どのようにされていますか?
中川:オランダでは、夫婦の姓は同姓でも別姓でもOKで、カップル双方の名字を並べることもできます。私の場合、名字は変えていませんが、子ども達は夫の姓になっています。日本の戸籍では、私の戸籍に彼が入っている形です。ちなみにオランダには、日本の戸籍のような仕組みはありませんが、国民の情報はすべてデータベース化され、ソーシャル・セキュリティ番号(BSN番号)で医療や保険などの情報と紐付けられています。

マーク・ストロレンバーグ&中川朋美ご夫妻

■家族のライフスタイルと、日本の家族への眼差し

――ご家族のライフスタイルは?
ストロレンバーグ:共働きです。オランダではフルタイムでもパートタイムでも同等の権利が与えられているので、夫婦共にパートタイマーとして働いている人々が多いですね。これは余暇を楽しむことに重点が置かれているからなのですが、EU諸国の中でもオランダに特有の傾向と言えます。1980年代に失業者が増加した時に1人分の仕事を細分化してより多くの人々が働けるようにしたこと、残業の規制が厳しいことも影響しているかもしれません。

中川:そうした中、パパとママは交代で学校に子どもを迎えに来ています。夫が週に4日、妻が週に3日働き、週に1日はパパデイ、2日はママデイ、残り2日は学童やデイケア、祖父母に頼むなどしている人が多いようです。デイケアは高額なので、毎日、利用するのは難しく、皆、あの手この手でやりくりしている格好です。先日、学校の担任の先生から、「今日は急病で欠席します。代替の先生が見つからなかったので、本日は休校にします。」と突然、当日の朝にメールが届いたことがありました。「もう出勤途上なんだけど・・・。」「みんなどうする?!」とネット上には焦った様子のメッセージが飛び交いましたが、そんな中で、「今日は僕が休みなのでどうしても選択肢がない人は数人ならお子さんを預かりますよ。」と申し出てくれる人もいれば、仕方なく職場に子どもを連れて行った人もいて、皆でどうにか難局をくぐり抜けた格好です。学校も学校ですが、この経験を通して、そうした止むを得ない事情による不都合が許容される社会なんだなということを痛感しました。

――家事や育児の分担についてはいかがでしょう?
ストロレンバーグ:家事や育児は皆、夫婦でシェアしているようです。家計という意味では、どちらかが家賃や光熱費などを持ち、もう一人が残りを持つというカップルもあります。先ほどご紹介したように女性の方が就労時間が少ないので、収入が少ないというケースもやや多いかもしれませんが、それはその人の選択の結果であって、差別ということではありません。
中川:私たちの場合、家事は得意な方がこなせば良いと思っています。掃除は一緒にするし、料理については、以前は料理が趣味の夫がほとんど作っていましたが、子どもができてからは、日本食を食べさせたいので、半々ぐらいになっています。夫は韓国料理も作れば、タイ料理、フランス料理、イタリア料理も作ってくれます。日本料理なら天ぷらを作ったり、餃子を皮から一緒に作ったりもします。生活に余裕があるというのは、そういうことなんですよね。

――オランダでは離婚や再婚も多いですか?
ストロレンバーグ:そうですね。お互い連れ子がいて一緒になるケースも多いですね。

中川:私の友人の子どもが3人いる女性は、子どもが2人いる男性と一緒になったのですが、子ども同士の折り合いが悪く、それぞれの元配偶者と調整して、自分の子どもがやって来る日とパートナーの子どもがやって来る日が重ならないようにスケジューリングしています。また、平日は水曜日を境に半々で子どもの面倒を見て、週末は交代制にしていたりするカップルもいます。週末にしかできないこともありますからね。

――それは大変ですね。
中川:大変かもしれませんが、フェアですよね。スケジュール面もありますが、毎日、家にいるわけではないのに子ども達の部屋を確保しておかなければならないなど、特に物理的な面が大変です。また別の友人は、夏休みが6週間あって、最初の2週間は自分と元夫の子どもと、現在の夫とその子どもの4人でイタリアに行ったのですが、その後、元夫が現在のパートナーとたまたまイタリアの別の場所に来ているので、現地で元夫との子どもを引き渡して、子どもはまるまる1ヶ月イタリアでバカンスを楽しんだという話も聞きました。

ストロレンバーグ:共同親権というのは、そういうことですよね。仮に離婚後に再婚したとしても、新たな配偶者は、自分が以前の結婚でもうけた子どもについて、法律的にはいかなる影響力も持たないのです。もしもその子どもを新たな夫婦の子どもにしたいのであれば、裁判所に行って手続きをしなくてはなりません。ただ、共同親権は子どもが18歳になるまでですね。

――日本の婚姻制度については、どのように受け止めていらっしゃいますか?
ストロレンバーグ:日本人と結婚した外国人男性から、離婚したら子どもに会わせてもらえないなどといった話を耳にしたことがありますが、それはオランダではあり得ない話ですね。

中川:私も自分の子どもをもってみて、結婚とか離婚は親が勝手にしたことで、子どもにとってはいつまでも親は親なので、それはフェアではないと思います。私のオランダの友人にも、結婚した相手に問題があり、離婚したという人もいますが、子どもをもうけた以上は常に関係性があり、どんなに問題があっても子どもにとっては親なのだと思います。そういう意味では、オランダはフェアな国だと思います。

日本でも最近、「毒親」や「アダルト・チルドレン」が話題になっていますが、親が介入しすぎて、子どもの機会を奪っているケースもけっこうあると思います。そういう意味では過保護というか、裏を返せば子どもの人権を尊重していない気がします。特にヨーロッパに住んで多様な家族を目の当たりにしてみると、親が離婚しようがしまいが、子どもは愛を注がれて順調に育っているんですね。一方で、放課後は塾に通わせて、私立中学に入れて・・・と教育熱心な日本の親たちを見ると、子どもにここまでさせて良いのかという疑問をもちます。

――同性婚についてはいかがですか?
中川:私はLGBTQの友人が多いこともあって、同等の権利が与えられないのは時代遅れだと思いますが、日本では国会議員の中にもびっくりするような発言をする人がいますよね。今はLGBTQがトレンドのように扱われている気がして、企業もPRにこれを使ったりしています。それで意識が高まるのは良いことですが、トレンドということではなく、もっと当たり前に認められて、皆がオープンに生活できる社会になれば良いと思います。

――ありがとうございます。とても参考になりました。

(取材・原稿執筆:西村道子)


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