世界の結婚と家族のカタチ VOL.2多様な家族のカタチを受け止める寛容な国――オランダ<後編>
注目の国々の結婚、ひいては家族のカタチについて、現地の事情に詳しい方々へのインタビューなどを通してご紹介していく「世界の結婚と家族のカタチ」。VOL.2では2回に分けてオランダにフォーカス。前編の日蘭の国際結婚カップルに引き続き、後編ではシングル・ファーザーと、その住まいの一室を借りるシングル女性へのインタビュー結果をご紹介する。
【インタビュー2】
トルコ人のシングル・ファーザーに聞く、離婚後の共同親権の在り方と息子との暮らし
オランダにおける2人目のインタビューは、トルコ人男性のアイディン・カットさん。2年前に離婚して一人息子の共同親権者となったアイディンさんに、共同親権の在り方と、シングル・ファーザーとしての息子さんとの暮らしについて語っていただいた。
■3年前に離婚、一人息子の共同親権者となる
――まずは自己紹介をお願いいたします。
アイディン:トルコ出身の41歳です。アムステルダムで銀行のリスク・マネージャーとして働いています。イスタンブールで育ち、大学卒業後、修士を取るために渡米し、4年間にわたり勉強しました。その最後の年に米国人である元妻と出会い、付き合っていたのですが、その後、オランダに仕事を見つけて移住し、半年後に彼女がやって来ました。彼女とは2009年から同棲していたのですが、2014年にこの家を買って、2015年に結婚しました。2016年には息子が生まれたのですが、5年後の2021年には離婚することになりました。
離婚して以降、元妻と私はほぼ半々で息子と同居しています。オランダでは子どもがいる夫婦が離婚するに当たっては、「離婚同意書(divorce agreement)」と合わせて、「子どもにかかわる同意書(parental agreement)*」を作成することが求められます。後者は子どもと過ごす時間をどのようにシェアするかについての取り決めを行うものです。私たちの場合、息子と過ごす時間については、お互いの仕事のスケジュールを共有すると共に、そこにほかの要素を加味して合意を形成、裁判所に提出しました。
一方で、費用分担については、オランダでは子どもが12歳になるまでは最低限の費用を父母が折半することが望ましいとされています。こうした中、私たちは伝統的な「child support」と「partner support 」を併用しています。「child support」は、子どもが双方の家に住む上での最低限の費用をカバーするもので、子どもが21歳になるまで継続します。このほか私は元妻に、子どもが12歳になるまで、用途不問の「partner support 」を提供しています。元妻はこれを住居費に充てているようです。
結婚していた当時、私たちは今の私の住居で同居していたのですが、この家には私が住むことを決めると共に、この家の一室をほかの人に貸すことによりもたらされる収益を彼女に支払い、そのお金を使って彼女は別の家を購入することになりました。
大切なポイントは、息子と過ごす時間を折半するという私たちの約束は、私たちが離婚したからではなく、息子のために取り交わされているということです。そこで私たちは、今なお、家族の延長のような営みを続けています。私たちはまず、息子をこの家の近隣で育てることを決め、元妻はこの近所に新居を購入しました。ですから息子は、コミュニティも学校も変わることなく2つの家を行き来しており、彼の視点に立てば、それまでは1軒だった家が2軒になっただけで、生活がそれほど大きくは変化していないと思います。
元妻とは週に1回ぐらい一緒に散歩したり、あるいは電話やオンライン・ミーティングで連絡を取り合いながら、息子がどのような日々を過ごしていたかをシェアしたり、前夜は遅かったので今夜は早く寝かせてほしいといった注意事項を伝えたり、子どもが好きな料理メニューを見つけた時にはレシピを共有するなど、子どもに関するさまざまな情報をシェアしています。特に私たちは、お互いの関係性が最悪な状況になる前に離婚をポジティブに捉えて、関係性を再構築することを選んだため、結婚していた時と同じようにお互いを尊重しながら、息子も含めて全員がポジティブに日々を過ごせていると感じています。そして10歳にもなれば、息子は自転車で双方の家と学校の間を自分で行き来できるようになるでしょうから、彼の世界も広がっていくと思われます。
私自身は、シングル・ファーザーであることには強みもあると思っています。というのは、私が元妻と一緒に暮らしていた当時、息子とのコミュニケーションは母親を介在させた、あるいは意識したやりとりに終始していましたが、今は子どもと真正面から向き合ってコミュニケーションできているからです。特にトルコにおいて父親は、日本でもそうでしょうが、主にお金を稼ぐ役回りだと認識されがちで、日々の生活の中で子どもと語り合う機会は限られている。こうした中、自分は妻と別れることで、結果、子どもと直接向き合い、より強固な関係を育むことができていると思っています。
*アイディンさんと元妻の「子どもに関わる同意書(parental agreement)」の中の「Parenting Plan(子育てプラン)」には、全9ページに渡り、住居・パスポートの管理、送り迎え・(息子との)コンタクト・日常のケア・法的責任などの分担方法、両親間の学校や医療などに関する連絡・相談、両親の関係性、両親以外の家族との関係性、このプランの評価・紛争時の対応、プランの改定などにかかわる9条に加え、息子がそれぞれの家で過ごす時間についての曜日ごと・休日ごとなどの詳細なスケジュール、息子のパーソナル・ケアやスポーツ・お稽古事に関する役割分担などが事細かに記載され、最後に両親のサインが施されている。
■自身の経験を踏まえた新しい家族のカタチへの視点
――新しい家族のカタチということでは、オランダはいち早く同性婚を法制化したことでも知られていますが、同性カップルについてはどのように考えておられますか?
アイディン:私は同性カップルが異性間のカップルと同じような形で家族を構成したいと思うのであれば、法律でこれを禁じるべきではないと思います。結婚するにせよ、離婚するにせよ、誰もが同じ権利を持つべきだと考えています。世の中には、片親と子ども、祖父母と孫などいろいろな家族があるのですから、「家族とは異性間の夫婦とその子どものみ」と規定する必要はないと思います。
――日本においては、同性婚も法制化されていなければ、家族はこうあるべきといった既成概念に今なお囚われているところがあります。また、日本は移民の受け入れにも消極的で、社会の多様性という点では先進国の中でも遅れを取っていると思います。そうした中、お話をお伺いして、オランダでは家族の多様化が進んでいることを痛感させられました。
アイディン:私がオランダにやって来た当時は、トルコも日本と同じような状態でした。子ども達は大きくなって仕事をもつと、親元から独立し、パートナーを見つけて結婚する。私の場合はトルコに戻りたくなかったのでオランダで仕事を見つけ、そこで元妻との同棲生活を始め、その後、子どもをもうけるに当たって、結婚に踏み切りました。私たちはアメリカ人とトルコ人のカップルですが、子どもをもちたいと思っていたので、仮に将来、離婚することになったとしても、子どもをもつ多くのオランダ人カップルと同様の選択をした方が良いと考えたのです。
しかし、社会が大きく変わる中、結婚の在り方は見直されていくべきだと思います。もちろん、自分たちの子どもに責任を持つことは必要ですが、必ずしも結婚という形にこだわらなくても良いのかもしれません。そもそも結婚とは、ある時を境に突然、生涯のパートナー1人を選ぶわけですから、なかなか難易度が高いと思います。しかもそのパートナーは、恋愛のパートナーであったり、性的関係のパートナーであったり、お金のパートナーであったり、住居のパートナーであったり、さまざまな側面を持つわけで、それらについて、同じ一人の相手と一気に、しかも長期にわたる約束をするのは容易なことではないからです。
――将来、婚姻制度はなくなると思いますか?
アイディン:すぐになくなることはないでしょう。しかし、時代が大きく変化する中、今では「私は生涯、あなたと人生を共にします」とはなかなか言いにくく、たとえば「子どもが10歳になるまではあなたと一緒にいます」とか、「向こう5年間はあなたとこうしたパートナーシップを維持するように努めます」といった期間限定、機能限定での関係性にかかわる契約を結ぶのが適切なのではないでしょうか。今では誰も、10年後の未来を正確に予測することができないのですから。
――さまざまな家族のカタチがあることのマイナス面については、何かお気づきのことはありますか?
アイディン:マイナス面が云々というより、家族の関係性で発生したマイナス面を補うために、自分たちでさまざまな家族のカタチを模索し、ポジティブに暮らすことが大切なのではないでしょうか。カップルがその関係性に問題を抱えているのであれば、離婚もひとつの選択肢ですが、抱えている問題を解決して結婚を維持することもできるかもしれません。長期にわたり婚姻関係を継続する最大の理由は、本質的には愛し合っていることかもしれませんが、現実的には経済的な面も大きいのではないでしょうか? もしも経済的に余裕があるなら、例えば結婚しながら家を2軒、構えることで、ストレスを軽減する方法もあるかもしれません。
――最後に、再婚については、どのように考えていらっしゃいますか?
アイディン:今の段階では、私は息子とは家族だという意識があり、毎日が愛情で十分満たされているため、そのような選択肢の必要性を感じていません。また、もしも私がほかの女性と暮らすことになると、息子が複雑な環境に置かれ阻害されたような気持ちになるのではと懸念しています。しかし、今後、彼が成長して私の手を離れて誰かと新たにパートナーシップを構築したいと感じる日が来たならば、その時には考えるかもしれません。
――貴重なお話をありがとうございました。アイディンさんが離婚された後も、お子さんのことをいちばんに考え、良い関係を育んでおられることが痛いほどわかりました。
【インタビュー3】
日本人のシングル女性に聞く、オランダでの多様な暮らしと日本社会への眼差し
オランダにおける4人目のインタビューは、オランダに移住して4年になる日本人の田口歩さん。オランダでのシングル・ライフを選択した背景と、その多様な暮らしぶり、そして日本の結婚や家族への視点をお伺いした。
■日本国内でさまざまな暮らしを経験した後、渡蘭後は4年間で6回の引っ越しを断行
――まずは自己紹介をお願いできますか?
田口:私は日本で生まれ育ち、教育系出版社や化粧品会社に勤務した後、フリーランスとして独立しました。4年前にオランダに単身で移住し、アムステルダムに住んでいます。現在はビジネス・コンサルタント、メンタル・コーチとして働いており、日本企業の海外進出支援や、親との関係に悩む30~40代女性向けのメンタル・ヘルス・プログラムを提供しています。シングルで子どもはいません。
――日本のご家族から離れ、単身オランダに移住された背景は?
田口:私は生まれてから約20年間は、親の仕事の都合で社宅に住んでおり、万が一の時に両親以外に頼れる人が周りにたくさんいる状態に慣れ親しんでいました。また、アメリカ交換留学時代はルームメイトと暮らし、日本では北欧発の多世代共同住宅であるコレクティブハウスに8年間、住んでいたこともあります。私はそこで子どもがいる家族や夫婦、独身者、未亡人など0~88歳までの大人約40人、子ども約10人と暮らしていました。そこで学んだのは、血縁の有無にかかわらず、他者と価値観が異なることでの不都合を引き受ける覚悟さえあれば、心地良い関係性は自分たちで築いていけるということです。このように日本の伝統的な家族とはかけ離れた生活を長年してきたので、オランダに移住した今なお、さまざまな人たちと楽しく暮らすことができているのだと思います。
――オランダに移住されてからは、どんな日々を過ごされていたのでしょうか?
田口:オランダに移住してからの4年間で、計6回の引っ越しをして、それぞれ異なる暮らしを体験してきました。
まず1軒目は、アムステルダム中心地にある、大家さんご夫妻と5人の女性が住むシェアハウスに約1年間暮らしました。ここはルームメイトが30~50代の女性だったこともあり、落ち着けて、とても居心地がよかったのですが、日本への一時帰国の際に、大家さんが私のクローゼットを勝手に開けるようになり、プライバシーを尊重したく退去に至りました。
2軒目は、インドネシア人の友人がシェアハウスを退去する際、その後釜として入居し、5ヶ月間暮らしました。中国人女性、日本人女性とそのパートナーであるオーストラリア人男性との共同生活で、性格的にも暮らし方も相性が良かったのですが、ロックダウン中に真上の部屋で改装が始まり、在宅勤務ができないほど騒音が大きくなったことから、退去に至りました。
3軒目は、私が所属するシェアオフィスから近い、新築・3階建ての一軒家で、20代の男性3人と1年間同居しました。ここは在宅勤務には支障がなかったものの、同居人が20代だけに、夜遅くまでパーティをしたり、マリファナを吸ったりしていたので、その騒音が気になり、退去に至りました。
4軒目は、おしゃれで広大な3LDKで、6ヶ月間の一人暮らしをすることになりました。当時、シェアオフィス会員の友人が、家族で海外に長期滞在するため、3LDKの自宅に家賃を払って住み、観葉植物や郵便物の管理もしてくれる信頼できる人を探していたのが入居のきっかけです。久しぶりに一人暮らしの良さを満喫しましたが、他者からもたらされる学びには少し欠けていたかもしれません。
5軒目は、アムステルダム内では住居が見つからず、ハーレムにある3階建ての一軒家の3階で、バス・トイレとキッチンが併設されているワンルームで暮らすことになりました。そこでは、中東系の敬虔なイスラム教徒の大家さんご夫婦が、生後3ヶ月の赤ちゃんと共に1階と2階で暮らし、私は玄関を共用していました。赤ちゃんは愛らしく、大家さんご家族も私のコロナ療養中に親切にサポートしてくださったりしたのですが、深夜のお祈りや赤ちゃんの夜泣きの声が部屋まで聞こえ始め、深い睡眠が取りづらくなったことと、日本への一時帰国が重なり、4ヶ月で退去しました。
■結婚しても、しなくても、人はどんなカタチでも幸せになれる
ーー6軒目が現在のお住まいですね。
田口:そうです。大家さんのアイディンは私が所属しているシェアオフィスの元会員で、別の現会員から「アイディンがルームメイトを探し中」と紹介を受けたのがきっかけです。彼がとても信頼できる人であること、静かで立地が良いこと、そしてシェアオフィスの近隣で信頼できる人たちと暮らしを築いていきたいという思いから、2022年の10月に入居し、安心してお互いを尊重できる居心地の良い暮らしを1年近くさせてもらっています。
中でも、私の暮らしの豊かさに一番繋がっているのは、ルームメイトでありながら、シングル・ファーザーとその息子が暮らす家に入居したことで、第三者として子どもの養育にかかわれている点です。私は元々、教育に関心があり、教育系出版社に勤めたり、オランダでも日本語補習授業校で講師を担ったりしてきましたが、今回はトルコとアメリカのミックスで、しかも両親の祖国とは異なる国で育つ、私と血縁関係のない子どもと生活を共にするという貴重な経験ができています。これは、アイディンの「息子が多様性の中で信頼できる人たちに囲まれながら成長していける環境を作りたい」という考え方があってのことです。
私もアイディンと同じく、生活を通して多様な人々と深くかかわることが自分の世界を豊かにしてくれると考えて、日本でもコレクティブハウスで暮らしてきたので、外国でも親子の暮らしにかかわれることは、とても勉強になっています。アイディンの息子には、今は父親との時間を大事にしてもらいたいので、私は間接的なかかわり方、例えば、息子と一緒にジブリの映画を見ながらお留守番をするなどに注力しています。彼が日本やアジアに興味を持ち始めた時には私が教えてあげられると良いですが、今は私の作る日本食を喜んで食べてくれるのはアイディンで、息子は私のボロネーゼ・パスタにしか興味はなさそうです(苦笑)。とはいえ、皆が多様な価値観を持ち寄り、健康で楽しく、安心して暮らせれば、それ以上の幸せはないと思っています。
ーー日本とオランダでは、結婚に関する考え方がかなり異なるのでしょうか?
田口:日本では「結婚=幸福、離婚=不幸」と思っている方も少なくないようですが、アイディンと元奥さんを見ていると、「制度は自分を幸せにするためのサポートツールであり、自分を幸せにする主体は自分である」という考え方が、彼らを幸せにしていると感じます。だからこそ、関係が悪化する前に離婚を選択するという賢明な判断をし、新しい家族のカタチを自分たちで築き上げ、共同親権の下、息子はこの高級住宅地の2軒の家を行き来しながら豊かな暮らしをしている。一言で表すと「離婚することで生活がより豊かになっている」と思います。
一方、日本では離婚することで「以前よりも家族の生活がより豊かになる」ケースは少ないのではないでしょうか。日本は共同親権ではなく単独親権であることから、経済力に乏しい母親が親権を持つことが多く、その結果、子どもが貧困に陥るというパターンが繰り返されているように思います。つまり、子供の貧困は親権者の資質のせいではなく、単独親権という制度によってもたらされているように見えるのです。
本来、親権というのは「親側の権利」というよりも、弱者である子供が適切に守られ、養育されるための「親の義務」であり、親同士が「嫌いだから離婚後はかかわりたくない」という感情論で、片方が養育義務を放棄して良いものではないと、個人的には考えています。だからオランダでは、例え夫婦同士がどれだけ感情的にこじれて離婚しても、子供が受けられる養育支援を維持するために、離婚後もお互いに協力して養育する義務を「共同親権」を通じて課せられていると思うし、だからこそ、オランダの子供は「世界で一番幸せ」なのかもしれません。
アイディン家族が、このように豊かで新しい家族のカタチを築けているのは、「個々の幸せは自分自身で作り上げ、それをサポートするのが婚姻を含めたさまざまな制度である」という考え方を、彼らだけでなく、オランダという国が支援しているからではないかと思います。20年も前から同性婚が認められ、パートナーシップの在り方にも、結婚を含めて3つの選択肢がある。しかし、日本には、結婚か離婚以外に切り札がない。つまり、日本では制度によって人の幸せが制限されているように見えますし、かたや国民にも「自分の幸せを自分で作るために、この制度が必要だ」と、国側に提案する人たちが、まだまだ少ない印象があります。
オランダでは、「自分を幸せにするのは自分」だから「対話を通じてより良い関係を築くこと」が重視されていると感じます。アイディンと元奥さんが現在の関係を築けているのも、こうした価値観に立脚し、どの制度を利用し、どのような取り決めをすれば良いかを、逃げずにとことん突き詰めて話し合ってきた賜物だと思います。結婚してもしなくても、自分の幸せを自分で切り開くと決めて行動すれば、どんな形でも幸せになれる。私がアイディンとその息子と暮らしていちばん良かったのは、このことを日々、感じられていることです。
――オランダに移住して4年とのことですが、日本との価値観の違いについては、どのように感じていらっしゃいますか?
田口:個人的意見ですが、家族のあり方に限らず、日本とオランダは、国民性に横たわる価値観がかなり異なるように思います。日本では、「結婚すれば、子供を持てば、お金もちになれば、幸せになれる」といったように、「限られた依存先に自分を幸せにしてもらう」のを待つ受動的な人たちが比較的多い印象ですが、オランダでは、「自分がどうありたくて、それを実現するにはどんな法制度が必要なのか」と自分が目指す姿を実現するために能動的に動く人たちが多いことで、国が作られている印象を持っています。日本は「変わらないことに対し、耐え忍ぶ努力」をする一方で、オランダは「変わることに対し、困難を引き受ける努力」をするように思うので、婚姻制度も含めた社会変化を起こすには、まずは各自で「自分はどうありたいのか」を突き詰める必要があると思います。
私は多国籍なシェアオフィスに所属し、子供が世界一幸せな国での社会生活を営むためにオランダ移住を選択しましたが、今年の夏は全治3ヶ月の骨折をしたにもかかわらず、アイディンを始め、シェアオフィス・メンバーが毎日食事や通院のサポートをしてくれて、血縁関係のない多国籍のコミュニティに大いに助けられました。今回、家族もいない外国で骨折という最悪な状況を幸せに乗り切れた経験から、人間は、血縁や婚姻などによる限られた家族ではなく、多くの人たちに少しずつ支えられることで、より自立できると感じました。ですので、今後もコミュニティを大切にしながら、この地でできる限り長く幸せに暮らして行きたいと思っています。
――示唆に富んだお話をありがとうございました。オランダでのアグレッシブな暮らしぶりに舌を巻くと同時に、日本とオランダの幸福に関する考え方の違いについてのお話は、とても興味深くお伺いしました。
(取材・原稿執筆:西村道子)
【インタビューを終えて】
本連載第2回目のオランダは、前編にも記した通り、生物学的な性別や国境を越えた、さまざまな家族のカタチを受け止める寛容な国。そのインタビューにおいて、意図したわけではないのに、日蘭の国際結婚カップル、トルコ国籍のシングル・ファーザー、日本国籍のシングル女性とまさにその多様性を反映した方々のご協力が得られたのは、とてもラッキーなことでした。これにより、オランダにおける多様な家族のカタチをさまざまな視点からお伺いできたのはもちろん、日本における家族がいかに既成概念に囚われたものであるかを突きつけられることにもなりました。今回のインタビューは、日本における家族の在り方はもちろん、私たち一人一人の生き方を見直す上でも、さまざまなヒントをもたらしてくれるのではないでしょうか。