”あいまい”な言葉が世界を広げてゆく
大好きだったカフェが先日、閉店した。
北欧風のインテリアが可愛い、10人はいるか入らないかの、小さなカフェ。わたしはそこのフィルタードリップコーヒーと、ニューヨークチーズケーキが気に入って、2週に1度通っていたのだ。閉店してからあっという間に1ヶ月が経ち、その場所は檜が似合う小料理屋にすっかり変わってしまった。通い始めてから半年足らず、本当にあっという間だった。
◇
初めてお店へ行ったとき、いかにもドリップが上手そうなマスターは、「浅煎りと深煎り、どちらに?」と聞いてきた。ああしまった、と思った。 コーヒーは好きなのだが、「“カフェ”という空間で飲むコーヒー」が好きなだけで、煎り方を考えた事なんて一度も無かったのだ。
(エスプレッソは濃いめのやつで、アメリカンコーヒーはちょっと薄め、みたいな濃い薄い以外にも、深い浅いなんてのがあるの!うーん、深いと苦いのかな?ええい、わからん!聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥.......!)
と2秒で腹をくくって、「あんまり詳しくないので教えてください」と言うと、濃いめや苦みが強いのが好きなら深煎りだと、簡単に教えてくれた。わたしはありがたく、深煎りを頼んだ。
そうして運ばれてきた、チーズケーキと深煎りのドリップコーヒー。テーブルに置かれた時点で、既にとっても良い香り。ファミマのコーヒーも、ドトールのコーヒーも、スタバのコーヒーも大好きだが、コーヒーの香りをゆっくり味わって吸い込んだのは初めてだった。
家で淹れるのとは明らかに違うそのおいしさが、煎りの深さによるものなのかは、正直分からなかった。もしかすると、単純にマスターのドリップが上手なのかもしれないし、豆の鮮度なんかが違うのかもしれない。そのすべてなような気もする。
深い浅いの感覚はすぐにつかめそうにないけど、とりあえず何かが違って、大変おいしい。それ以来、対照実験がごとく、チーズケーキと深煎り/浅煎りコーヒーを試すステキな週末が、閉店を迎えるまで、半年ほど続いていた。
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違いが分かること、違いを分かろうとすることで世界が広がっていく
そういう、曖昧で、わからないままにしてるものって、きっとまだまだある。
・ベイクドチーズケーキとニューヨークチーズケーキの違い
(ベイクド)オーブンで普通に焼く
(ニューヨーク)天板に湯を張って湯煎焼きする
・おしることぜんざい
(関西圏)こしあん→おしるこ、粒あん→ぜんざい
(関東圏)汁気がある→おしるこ、ない→ぜんざい
・ハッシュドビーフとハヤシライスの違いも謎
(ハッシュド)ベースがドミグラスソース
(ハヤシ) ベースがトマトソース
・中条あやみと小松菜奈
目がくりっとしてハーフっぽいほうが、中条あやみ
・柿(かき)と杮(こけら)という漢字
フォントによるみたいだけど、旁(つくり)が微妙に違う!
noteのフォントだとわからない。
調べればすぐに答えが出て、簡単に判別する方法もあるのだ。わからなくたって困らないけれど、わからなくたって死にはしないけど、チーズケーキをチーズケーキとしか見られないより、これはニューヨークだとか、ベイクドだとか分かった方が、きっと楽しいのだろうなと思う。調べて知るだけでも、結構楽しいのだから。
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“あいまい”な違いが、会話を生んでいる
そして、世の中にはコーヒーの深い浅いのように、違いを“感じる”ことは出来るけど、その違いが何なのか、はっきりと言語化したり数値化したりできないものもある。
・ワインの重い/軽い
なんとなくカッコイイので"重い"とか、フルボディとかを選びがち。
・日本酒の甘い/辛い
わかるような、わからないような。
これは甘いかな?と思ったら「わあ、辛口だ」と言われたりする。
・カレーとかでよく言う"コク"
なんだろう、“こってり感”みたいなものかなと思っている。
食べ物の話ばっかりなのはご愛嬌。こんなにハッキリしていないのに、わたしたちの生活にすっかり溶け込んでいる言葉もたくさんあるのだ。
きっと科学的に分析すれば、コクだって甘辛だって透明感だって、スイカの糖度みたいに数値化できるのだろうけれど、わたしはあえて”あいまい”なままにしておきたいかなと思う。
「うん、これは甘いなあ」
「いやいや、辛い方じゃない?」
「なら、このまえ飲んだ日本酒と比べたら...」
こんなふうに、互いの感性をすりあわせる機会なんて、日常には思ったほど多くないのだから。
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