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「自分だけ生理がまだ」な、少女であり少年だった頃

25歳を過ぎたころから日常をじわじわ侵略してきていたPMSを軽減するために、1ヶ月前からピルを飲み始めた。主に気分の落ち込みとイライラを抑えるのが目的だったけど、ちょうどこの1ヶ月はコロナ騒ぎで仕事に影響が出たり、感染拡大や自粛のニュースを見て勝手に不安になったりしていたので、あまり効果を感じられてはいない。まだ1ヶ月なので、あと2シートくらいは様子を見るようにと、今日お医者さんに言われたところだ。

体感ここ1〜2年、「生理の辛さを知って欲しい」という訴えは毎日Twitterでもnoteでも見られる。『生理ちゃん』という漫画が流行って映画化もされた。最近ではお笑い芸人のバービーさんが、生理ナプキンの使い方について解説した動画をYouTubeにアップしていた。

こういった情報発信のおかげで生理に対する知識を、男性やこれから生理を迎える女の子たちが得られるのは本当に素晴らしいことだ。事実、わたしもPMSという現象のことや、それがピルで軽減できるという情報に出会うことができた。

皆さんが発信している通り、個人差はあれど生理前は大変な目にあう。意味もなく食欲は増すし、ふくらはぎが痛いほど浮腫むし、朝も昼もとにかく眠くて会社に行きたくないし、ちょっとテンパってる後輩を見てるだけでなぜかイライラするし、帰り道でそんな小さなことでイライラしてしまう自分が嫌になって風呂に入る元気すら無くす。

生理が始まっても、下着はダサくて蒸れるし、腹は痛むし(わたしは下痢っぽくなるタイプ)、お気に入りの小さい鞄にはナプキンポーチが入らないし、痛み止めは安くないし、シーツやバスマットを汚さないか不安だし、大好きなアロママッサージも生理中は予約できない。

ろくな目に合わないが、それでもわたしは、毎月生理が来るたびに「ああ、よかった」という安心にも喜びにも似た感情が湧いてくる。

それはたぶん、初潮を迎えるのが遅かったことに起因していると思う。

「生理 早く来る方法」で毎日検索してた

中学1年生の冬、女子だけを集めてスキー合宿の説明会が開かれた。女子だけを集めた時点で察してはいたが、要するに持ち物に生理ナプキンを忘れるな、という話だった。

家に帰ったわたしは、トイレの吊り棚からロリエのロゴが入った袋をスキーバッグに突っ込みながら泣いた。小学校5年生のときに、これまた女子だけ集めた性教育の授業で配られたもので、中には生理用品のサンプルと冊子、それに母が「いつか必要になるからね」と嬉しそうに準備してくれていたサニタリーショーツが入っていた。背が伸びてもうサイズが合っていなかったと思う。

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(花王公式サイト:https://www.kao.co.jp/laurier/karada/kyouiku/より)

この袋を手にしてからもう3年も経つというのに、生理はまだ始まっていなかった。予兆だという“おりもの”も始まっていないし、胸もぺったんこでまだブラジャーを持っていなかった。泣きながら、スキー合宿の入浴時間に子供っぽい下着と胸の平べったさがバレない方法について一生懸命考えた。

中1のころのわたしの、生理に対する執着は異常だった。仲の良かった友人たちがみんな発育の良い女の子ばかりだったので、余計に焦っていたのだ。

生理が始まる日常生活の過ごし方や食べ物、胸が大きくなるマッサージや筋トレ、「黄色いハンカチを持ち歩け」などというおまじないの域に達していることまで、だいたい試した。

体育の授業でプールがある月は、しまむらで買ったちゃちな水着用パッドを入れて胸の平たさをごまかし、生理が始まっていないことがバレないようにダミーとして1回は見学した。友達と連れ立ってトイレに行くときは使いもしないポーチを持っていった。個室の中でナプキンの外袋をカサカサさせる音を立てて生理偽装をするわたしは虚無だった。虚無すぎてキョムキョムプリンになりそうだった。

しまいには、生理が始まる夢を定期的に見るようになった。夢から覚めると急いで下着を脱ぎ、さらりと綺麗なままのクロッチを見てガックリと肩を落とした。

「ハナちゃん」というロリエの子供向け性教育サイトのキャラクターは心の友で、毎日パソコンでアクセスしては、お悩み相談室で「生理が始まらないくて困っている」という投稿を目を皿のようにして探した。

「成長には個人差があるから、焦らなくて大丈夫!」
「生理になったら、大変なことも多いんだよ!」

なんて、友達も、お母さんも、ハナちゃんも、内科検診の先生も、みんなニコニコ笑って慰めてくれるのだ。おまけに、生理の苦しみを味合わなくて済んでるなんて羨ましいよ、なんて目で見てくる。

うるっっせェ!!どいつもこいつも適当なこと言いやがって!!!こっちは一日も早く生理になりてぇんだよぉ!!!!いいから方法を教えろよ!!!!!

完全にイカれていた。ドン引きしていながらも見放さずにいてくれた友人には感謝しかない。

トチ狂った少年、爆誕。

来る日も来る日も生理になる夢を見続けることに疲れた中学1年の終わり頃から、わたしはついに「自分は男」宣言を始めた。

「自分は男」とは言っても、できることなんて全然なかった。結局、髪をウルフカットにしたこと、私服からスカートを廃したこと、声をちょっと低くすること、友達といるときは一人称を「俺」にすること以外、大したことはできなかったように思う。結局のところ、制服はスカートとリボンだし、体育の授業は女子と受けるし、夏が来ればプールの授業だって出なければならなかった。

そうしているうちに、友達がまた大人びていく。下着はどんどん進化していくし、制服は可愛く着崩すし、持ち物はどんどん女っぽくなるし、話題はファッションやジャニーズや恋愛のことばかり。

一方わたしは、流行りのドラマも見なければ、雑誌を買ったこともなければ、ソックタッチの一本だって持っていなかった。ノートをポスカでデコレーションすることも、ディズニーのメモ帳で可愛い手紙を折ることもなかった。しなかったというよりも、体が女になっていない自分が、女として振る舞うことを、まるで悪いことのように感じて、できなかった。

よく、「女として成熟していく自分の身体を受け入れられなかった」という話をnoteの記事でも見かけるけど、わたしはまるで逆だった。そう、わたしは、一日も早く女になりたくてなりたくて仕方がないのに、ちっともついてこない体を受け入れられなかったのだ。

まわりが女として成長すればするほど、反比例するように、わたしは女性的な行動を避けるようになる。女子中学生の成長速度たるや凄まじく、ものの数ヶ月で、すっかりまわりの話題についていけない孤独な人間ができあがっていた。

幸い、孤独なのは精神だけで、物理的には友人も多く孤独ではなかったし、そんなわたしを面白がってくれる友人にも恵まれた。これもまた、感謝しかない。

生理、到来。凱旋の赤飯。

忘れもしない、中学2年の夏休み、8月10日のお昼のこと。夏季講習へ出かける前に家のトイレで、わたしは拳を高く突き上げていた。

生理が来た日のイメージトレーニングだけは伊達に積んでいなかったので、処理は冷静・的確かつ完璧にこなすことができた。母親にすぐさま報告し、自分から赤飯を炊いてくれとリクエストした。

生理に関する記事や意見文で、「お母さんが赤飯を炊いて恥ずかしかった。いまだにトラウマ」という話をよく見かけるが、念願の生理を迎えた当のわたしは、父の目なんぞどうでも良かった。もう1週間でも1ヶ月でも赤飯を出して欲しいと思ったし、なんなら「本物の女」というタスキを肩から掛けて凱旋パレードがしたいとすら思った。

ハナちゃんや友人や内科の先生たちがわたしをぐるりと取り囲み、エヴァンゲリオンの最終回の謎シーンのように「おめでとう」の拍手を送ってくれる妄想をするなどして喜びに打ち震えたのだった。

どうだ!!!どうだ!!!わたしだって、生理になったんだぞ!!!みんな祝ってくれぇぇぇぇぇ!!!!!

第二次性徴という戦争に見事勝利したわたしは、胸を張って向かった夏季講習で、友人たちに「男である発言は今日を持って取り下げる」と声高に宣言したのだった。

第二次性徴戦争の後日談

あっさりと幕を下ろしたこの一連の第二次性徴戦争、生理がようやっと始まってくれたおかげで女らしく振る舞うことに罪悪感こそ覚えなくなったとはいえ、サボった分、既にまわりの女の子たちから何周も離されている状況だった。

高校・大学に進んでもファッションはいまひとつ垢抜けず、メイクもスキンケアも下手くそ、おデブちゃんではないものの体型にも気を使えていなかった。

27歳の今でも、まわりの女性より垢抜けていないのではないかという不安が、心の何処かに常にある気がする。一生懸命働いたお金をヘアケアや脱毛や歯列矯正やファッションレンタルなどにせっせと課金しているが、自分磨きが好きというよりも、無意識の内に女としての周回遅れを巻き返そうとしているのかもしれない。

生理が遅かったコンプレックスというのは、案外尾をひくものだなあと生理が来るたびにぼんやりと思うのだ。

生理が始まらなくて不安な女の子へ

もしこの記事を見つけ、ここまで読んでくれた人の中に、生理がまだ来なくて悩んでいる女の子がいるのなら、もう少しだけ読んでほしい。

不安だよね。

自信なくしたり、本当はダメなんだけど、友達を妬んじゃったり、成長の遅い体に生んだ親を恨んだりしちゃうことも、ぶっちゃけあるよね。

ネットで検索しまくっても、「いつか来るから大丈夫だ!ゆっくり待とうね❤️」みたいな能天気な気休めしか出てこなくて、なんか一周回って腹立たしいよね。

しかしながらね、残念ながらね、できることなんて、なにひとつないんだよ。

夜更かししないとか、ちゃんとバランス良く食べるとか、既にキミがさんざん調べて知ってることしか、できることはないの。早く来る方法も薬もおまじないも、残念ながらこの世にはない。悔しいけど、人の気も知らないで気休め言ってくる人たちの言う通り、ゆっくり待つしかないのだよ。悔しいね。

でもわたしは、「生理が来てないなんて、しんどくないなんて、羨ましいなー」なんてこと、何歳になっても、ぜったいぜったい思わない。だって、自分だけ生理がまだこない不安な気持ちを、今でもずっと覚えてるから。

そういうミカタというか同志が、この世のどっかにいるってだけで、ちょっとだけ安心してくれたら嬉しい。わたしが悩んでいた当時、こういう悩みについて真剣に発信している人なんて、いなかったから。

昔のわたしみたいに「女じゃない」宣言をして逃げたって良い。
「もう生理は来てる」って友達に嘘をついたって良いよ。
ただし、まだ生理になってない子を友達といっしょになって馬鹿にしたり見下したりするのだけはやめておいたほうが良い。そういうブーメランの自己嫌悪ってすごいからね。

自信を持てなんて言わない。
「焦るな」なんて言わない。
ただこれだけ、言っておく。
キミが今戦っている「第二次性徴戦争」が終わった後に即効で開戦する「生理戦争」の戦法は学んでおけ。

ちなみにわたしの心の友・ハナちゃんが活躍するロリエのサイトはまだまだ現役なので、もう飽きるほどアクセスしたかもしれないが初学者はここでまず勉強しよう。

他にも生理について詳しくまとめたサイトはたくさんあるし、生理のリアルについて語ってくれるYouTuberやTwitterユーザーも増えてきている。

学んだことはすぐには役に立たないかもしれない。なにせ、わたしも生理戦争が始まって10年くらいは「毎月股から血が流れ出るイベント」に過ぎなかった。痛さもほとんど感じなかったし、周りの人が言う食欲がどうとか浮腫がどうとか、そういう症状も一切感じなかった。だから、ピルがや漢方が生理前の症状に効果があるらしいということも、生理前のPMSに悩まされるようになってから知った。

もっと早くにリアルな生理の大変さと、医学的な対策を学んでおけば、イライラして周りの人に当たっちゃって自己嫌悪に陥ることもなかったし、ひとり暮らしの家具選びで無印良品の脚付きマットレスを買わなかった!!!

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コイツはたいへんシンプルでおしゃれなのだけれど、ナプキンの当て方や種類の選択をミスると、シーツを貫通してマットレスに経血シミがつく。もちろんマットレスは洗えない。防水パッドなど敷しいて対策しなければならない、危険なシロモノである。

……話が逸れた。

とにかく、生理が遅い、始まらなくて悩んでいる乙女たちよ。来ないものは仕方ない。諦めて、次の戦争に備えよう。

高校生になっても生理戦争が開戦しなかったら、そのときは病院へ行こう。婦人科は思ってるほど怖くないぞ。いきなり股を覗き込まれるとか器具を突っ込まれるとか、そういう乱暴なことはされない。不安ならお母さんやまわりの女性たちが通っている婦人科の評判を聞いたり口コミ検索をしたり、できるなら、電話して聞いてみたら良い。わたしはいい歳した処女だけど、婦人科検診を受けたいと先生にお話ししたら「性経験が無いならまずはエコー(お腹の上から超音波を当てる)検査をしようか」と提案してくれた。優しくて涙が出そうになったよ。

生理が始まっても気を緩めるなよ。そこから先も、戦争だから。でも、今度の戦争は少なくともひとりじゃない。親も友達も近所のお姉さんも学校の先生も、みんな閉経するまでは戦ってるし、戦いを終えた大先輩もたくさんいるのだから。

来ても来なくてもムカつく生理だけど、ずっと待ってたヤツだから、今も嫌いになれない。閉経するまであと何年かはわからないけど、そのとき、わたしはどう思うんだろう。嬉しいのか、悲しいのか、それとも達成感があるのか。

もしそのときまでnoteを続けていたら、閉経したことについてかいてみたいな。

いつか生理ちゃんで、こういう「生理がまだ来なくて辛い」みたいな人の話も書かれると良いなあ。

おしまい。



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