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【つくるvol.3】Boil / 煮沸

必要な麦汁がケトルに抽出できたら、いよいよ煮沸です!
煮沸の時間、強度、ホップの添加などでビールの味わいは大きく変化します。煮沸の目的とポイントを解説します。

目的
麦汁の殺菌、ホップや副原料の添加による苦味・風味の添加、ホットブレイクによるタンパク質凝固の促進

効果的に煮沸を行うことで上記の目的を達成することができます。ではどのような煮沸が効果的でしょうか?それぞれの目的を達成するために必要な項目は以下のとおりです。

効果的な煮沸

麦汁の殺菌

煮沸は麦汁の殺菌の役割があります。またマッシング中に活性化させた酵素を完全に失活させます。

煮沸時間

煮沸の長さは目指す味わいによって様々ですが、どのビールでも基本的に60~90分以内の煮沸で上記の目的を達成できるでしょう。煮沸の強さは設備や加熱方法によって異なるので、時間に加えて煮沸率が重要になります。

煮沸率

煮沸率は蒸発する麦汁の量、例えば1000Lの麦汁が1時間後に900Lになったとしたら、煮沸率は10%となります。
伝統的には10-15%という高い煮沸率が一般的でしたが、個人的な経験では、ビールスタイルにもよりますが6-8%で十分かと思います。煮沸率が高ければ高いほどメイラード反応による着色、風味の増加と糖度の上昇があるため、より濃く強いビールを造る場合に高い煮沸率(=長い煮沸時間)が有効となります。
またピルスナーモルトを多く使用した場合、4%以下の煮沸率ではDMS(硫化ジメチル)というオフフレーバーが発生してしまう可能性があります。詳しくは下記の「オフフレーバーの揮発」で説明します。

煮沸のpH

煮沸後のpHは5.0~5.2がよいと言われ、これはホップのキャラクターを引き出し、着色を最小限に抑え、ホットブレイクの量を最大化することができます。pHは煮沸中に約0.3低下するので、これを踏まえると煮沸前のpHは5.3~5.5程度が適切と言えるでしょう。
この煮沸中のpHの低下はホップのα酸添加、メイラード反応、リン酸塩カルシウムの沈殿、タンパク質の凝集によって起こる。
ホップの苦味添加、という点においてはpHが高いと(~10)α酸の利用率は上がるが、必要以上の苦味・渋味がついてしまう。pHが低くなるほど(<5)利用率は下がる。

ホップによる苦味・風味の添加

煮沸中におけるホップの添加は一般的に大きく分けて苦味づけ(45分以上)、フレーバー(30分)、そしてアロマ(20分以下)に分けることができます。
苦味は煮沸中に添加したホップのα酸が加熱によりイソ化することで生成される。イソ化には約45分程度の煮沸が必要であるため、苦味をつけるためにはそれ以上の時間でホップを煮込む必要がある。ホップの香り成分はとても揮発しやすいのでアロマづけには20分(10分以下だとよりよい)の煮込み、その中間がフレーバー、といった3つとなる。ホップについては別途詳しく記載する予定。

最近はよりホップのキャラクターを際立たせたいので苦味づけ以外はすべてワールプール、という手法が多くなっている気がします。またマッシュホッピングによるチオール増強効果が期待されるイーストも増えてきて…とこの辺は話が脱線しまくるのでまた別の機会に。

ホットブレイクの促進(タンパク質凝固)

煮沸が始まると、表面にタンパク質からなる泡が発生、そして煮沸が進むとタンパク質とポリフェノールが結合し、より大きな塊となり沈殿する。これがホットブレイクです。これにより清澄度の向上、渋味低減などの効果が期待できる。
この反応が起こるまで煮沸開始から5~20分程度かかる。初期に発生する泡の吹きこぼれ(ボイルオーバー)には十分注意すること。

DMSの揮発

煮沸によって回避できるオフフレーバーの1つに、DMS(硫化ジメチル)が挙げられます。DMSはクリームコーン、コーンの缶詰、煮たキャベツ、ダークビールではトマトのような風味と表現されます。一部ビールではキャラクターとして許容されることもあるので、あったら必ずダメというわけではありません、日本の大手ビールでも感じることがあります。
DMSは製麦における発芽と乾燥時に生成されるSMM(S-メチルメチオニン)が原因となり、これが麦汁中で熱される(60℃以上)ことでDMSに変換されるというわけです。SMMは製麦時に麦芽が高温で乾燥されていない場合に多く含まれるため、特にピルスナーモルトを多く使う場合に注意が必要です。
DMSは煮沸によって揮発が可能であり、約40分で半減、120分でほぼ全て除去できると言われています。経験としては現代の優秀な麦芽では120分まで煮沸する必要はないと思いますが、徹底的にやりたい方はお試しあれ。

以上、簡単にまとめると
煮沸時間 / 60~90分
煮沸率 / 6-10%
煮沸pH / 前5.3-5.5 - 後5.0-5.2
ホップの添加 / 苦味づけ45分以上、フレーバー30分、アロマ20分以下
ホットブレイク / 開始5-20分で発生。タンパク質凝固により清澄度向上、渋味低減
DMSの揮発 / 煮沸45分で半減、120分で全滅、ピルスナーモルトを多く使う場合注意

このポイントを守れば効果的な煮沸となるでしょう!
あたりまえですが煮沸中のやけどには注意しましょう!!!

参考
John Palmer, How to Brew 4th Edition, Brewers Publications, 2017 - http://www.howtobrew.com/
Brew Your Own, The Principles of pH, https://byo.com/article/the-principles-of-ph/
Brew Your Own, Wort Boiling Science, https://byo.com/article/wort-boiling-homebrew-science/
Craft Beer & Brewing Magazine, The Oxford Companion to Beer definition of hot break, https://beerandbrewing.com/dictionary/aSbC3qutQd/
Craft Beer & Brewing Magazine, Hops Start to Finish, Scott Janish.com, How to Prevent DMS in Beer, 

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