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読書note: 2023年振り返り<泉鏡花編①>



2023年後半は、夏にたまたま訪れた金沢の泉鏡花記念館がきっかけで、すっかり泉鏡花にはまってしまいました。お隣の柳宗理記念デザイン研究所に行ったついでだったのですが、中庭を進むとウサギの穴に落ちていくように、記念館の入口に吸い込まれていきました🐰 

泉鏡花記念館🐰
左側のコンクリートのビルが柳宗理記念デザイン研究所です。

📖『露宿』

ちょうど関東大震災に被災した時のルポ『露宿』の企画展示中で、当時の新聞・資料、被災した地域の地図などが展示されていたのですが、『露宿』に描かれた人々や街の様子、公園で不安な一夜を過ごした時のことなど、克明かつ鏡花らしい幻想的な描写もあり、なかなか面白かったです。
他にも常設展示での遺愛品(楽屋着やキセル、そしてウサギの飾りが付いたステッキ・・・!)、小村雪岱・装丁の美しい鏡花本など、すっかり魅了されてしまいました。


📘『義血侠血』

帰宅後、志賀直哉がエッセイに書いていた『化銀杏』が収録されている『外科室・海城発電』を購入、衝撃を受けたのでした。。。まず、文語で書かれたその文章に(笑)。学生時代、古文は余り得意ではありませんでしたが、文法を思い出しつつ読み進めていくと、意外にも明治以降のお話で、家父長制の旧い男性中心の社会で虐げられた女性たちへの眼差しや、軍隊や警官たちの暴力や傲慢さに対する嫌悪は、とても明治の人とは思えないほど現代的。また、古い言葉遣いが醸し出す、幽玄で古典演劇的な雰囲気に、すっかり引き込まれていきました。

特に『義血侠血』は悲劇ながら、ロマンチックで煌めくものを感じます。20代の頃の作品で、師匠の尾崎紅葉が添削しているそうなので、文章は後のスタイルとは大分異なりますが、世界観は引き継がれていると思います。天神橋のたもとで月明かりの下、白糸と欣也の2人が邂逅する運命的なシーンでの表現が凄いです。

「涼しき眼と凛々しき眼とは、無量の意を含みて相合えり。渠(かれ)らは無言の数秒の間に、不能語、不可説なる至微至妙の霊語を交えたりき。渠らが十年語りて尽くすべからざる心底の磅礴(ほうはく)は、実にこの瞬息において神会黙契(しんかいもっけい)されけるなり。」

磅礴:混じり合って一つになること。
神会黙契:言葉を使わずに、互いに意思が通じること。

『義血侠血』(明治27年)

『義血侠血』は後に『滝の白糸』というタイトルで、劇や映画になっています。(登場人物とラストが少し変更されて、若干人情もの寄りの話になっています)こちらの無声映画、澤登翠さんの活弁で映画館で見ることができたのですが、自分の芸一本で身を立てる、頼り甲斐がありつつも、いじらしい白糸の姿はとても魅力的で、女優さん(入江たか子)の美しい演技と相まって、素敵でした。


浅野川沿いにある「滝の白糸」像


📘『ちくま日本文学011 泉鏡花』

その次に手にしたのが、ちくま文庫のアンソロジー。ここに収められた作品は、時代が下って文語ではなく口語(言文一致体)で書かれてるので、だいぶ読みやすくなっています。『高野聖』『歌行灯』『天守物語』『湯島の境内』といった、有名どころの作品がまとめて収められていて、怪談もの・花柳ものに限らず色々な毛色の作品が楽しめます。初めて鏡花を読む人にもおすすめです。

私が好きなのは金沢の卯辰山へのお墓参りをモチーフにした、可愛らしい、というかどこか少年少女漫画のような、ファンタジックなゴーストストーリーの『縁結び』。後年の作品ほど肩の力が抜けて、突飛な展開は余りなくなりますが(割と「お約束」の展開が多いと思います)、ユーモアのセンスであったり、登場人物たちへの温かな目線が感じられて心地良いです。(大正時代以降の随筆や旅行記もユーモアに溢れていて面白いです)


徳田秋声記念館の横の梅ノ橋より撮影。
向かいが天神橋、左手に見えているのが卯辰山だと思われます。



自然主義文学などに押されて苦しい時期を過ごした後、「古いままでいい」と吹っ切れて(ある意味開き直って)、自分のスタイルを追求するようになってからの作品は、懐かしいモチーフとめくるめく万華鏡のような白日夢の世界を、のびのびと描いていて、読んでいても面白いです。
(鏡花編②へ続きます)



◎元日の能登半島地震にて、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。
能登地方だけでなく、金沢や隣県の富山、新潟でも大きな被害があったということで、今回の地震の規模の大きさに衝撃を受けています。
1日も早いライフラインの復旧、街の復興をお祈りしています。


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