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主観的健康観と健康に及ぼす影響

健康経営に関するお役立ち情報をお届けする「健康経営のすすめ」は、健康経営支援ツール"FairWork survey"をご提供する株式会社フェアワークが運営しています。

1_はじめに

ウェルビーイング(よりよく生きる)という概念が世界的な広がりをみせています。日本でも深刻な高齢化が進むにつれ、病気治療よりも病気予防に重きが置かれるようになってきました。今回のコラムでは 「主観的健康感と健康に及ぼす影響」 についてお伝えするとともに 「これからの健康教育の在り方」 についてお伝えします。

2_主観的健康感とは

主観的健康感とは、客観的で比較可能な指標ではなく、自分自身が自己評価する主観的な尺度のことです。例えば「持病があっても健康的である」「異常数値だが元気」といった価値観を肯定し、それが真実に寿命を延ばすことを証明するために研究などで用いられている尺度を意味します。

医師や専門家の客観的な「健康」と自分自身が捉える主観的な「健康」には違いがあることを社会的に広めていく必要があります。特筆すべきは医療データにおける客観的な健康には、社会的な健康が抜け落ちている可能性があることでしょう。

世界保健機関(WHO)は、憲章前文において健康を以下のように定義しています。

“健康とは単に病気でない、虚弱でないというのみならず、身体的、精神的そして社会的に完全に良好な状態を指す”
(厚生労働省HP内『健康日本21総論』掲載訳)

これは1946年WHOにより定義されたものですが、ウェルビーイングの礎となる考え方です。第二次世界大戦の終焉頃より、持病の有無と健康はイコールではないこと、社会的な活動も健康感を構成する大切な要素であることが既に提唱されていたのです。

それから欧米などで、健康感と死亡率などについての関連を見出すための研究が本格的になされるようになりました。

3_主観的健康感と健康

では、主観的健康感と死亡率などについての関連を調査した研究例を紹介します。

比較的初期に行われたものだと、Kaplanらによる、カリフォルニア州アラメダでの研究があります。約7,000人を対象ととした、1965年から1974年までの9年間にわたる追跡調査で、多重ロジステック解析を用いた研究です。「健康ではない」と答えた群は「健康である」と答えた群に対して、男性2倍・女性5倍の死亡比率であったと報告しました。主観的健康感が生命予後と強い関連があることを結論づけました。(Kaplan GA, Camacho T,1983)

同じく初期に、Singerらによるマンハッタンでの20年間の追跡調査が行われています。この研究でも、主観的健康感が生命予後を予測する重要指標になると結論づけました。(Singer E, Garfinkel R, Cohon SM,1976)

日本での代表的な研究では、藤田らによる東京都・静岡県・鳥取県での3,580人を対象とした追跡調査(藤田利治,籏野脩一,1990)、芳賀らによる秋田県での1,096人を対象とした追跡調査(芳賀博,柴田博,上田満雄,1991)などがあり、いずれも主観的健康感が死亡リスクに影響を与えると結論づけています。

このような結果から、検査結果などの客観的指標では表にでない健康情報を、主観的健康感によって把握・予測することが可能になると期待されています。

4_これからの健康教育の在り方とは

主観的健康感が、健康と関連することが分かってきたことにより、この主観的健康感を高めるための社会的な動きの一つとして、健康教育の進化があります。専門家主導から本人主導へとその在り方が変わってきているのです。

◇専門家主導から本人主導へ

専門家による価値観による、一方的な指導を脱し、本人が主体性を持って ”自分の健康は自分で守る” という意識を持てるよう支援していくのがこれからの健康教育の在り方だといわれています。

そのためには「本人による選択と責任」を専門家と本人が相互に理解することが重要。本来ならば、健康推進の社会的背景とは関係なく、もともと個人が実践していくものであって欲しいところです。しかしながら現実として、日本は特に西洋医学第一主義という背景もあり、罹患したら治療という流れが定着してしまっています。今後、本人主導に重きが変わることで、治療よりも予防が当然に行われる時代になることが期待されます。

◇健康指導から健康支援へ

今後の健康教育の在り方とは、専門家主導ではなく本人主導であることです。たとえば、禁煙や禁酒を一方的に約束させるような健康指導ではなく、節煙・節酒という選択肢を提示し本人が自己決定することを支援するといった形態です。

また、インフォームド・コンセントを重視することもこれまで以上に求められるでしょう。インフォームド・コンセントとは、本人が医師から医療行為についての説明・選択肢を十分に受けた上で、納得して治療を受けることをいいます。

病気の治療を最優先にするという従来の考え方から、QOL(生活の質)を維持向上するには何を選択するのかを考えることが専門家の新たな役割となっています。

5_セルフケアの必要性


セルフケア能力を高めるために、成熟型社会にマッチした健康教育が求められます。これまでの成長型社会では、個人の状況に関係なく、集団として平均的な健康があれば良いという見方でした。これからは「個人」の健康が重要視されます。

個人の健康が集まってこそ本物の健康的な集団となり、社会全体が元気になるという見方です。超高齢化社会では皆が相互に支え合うことが必要であり、そのためには一人一人のセフルケアが第一歩となります。

◇セルフケアとは

セルフケアは、身体的健康・精神的健康・社会的健康ができるだけ良質なものとなるよう、本人が実践する「自分で自分の健康を守る行動」を意味します。その行動には一般的には以下のようなものがあります。

・睡眠の確保
・食生活
・運動
・外出
・コミュニケーション
などが挙げられます。

不足しがちな要素を専門家からアドバイスを受け、自分に合ったスタイルで実践していくことが理想的なセルフケアだといえるでしょう。

◇本人の意思とセルフケア

では、従来の”指示的指導”と、期待される”助言的支援”を比較してみましょう。

〈状況例〉定年退職後、趣味であるお菓子教室に通い、地域の仲間ができた頃、検査により糖質を控えた方が良いとされた。


「教室を継続することを決めたのだから、徒歩でなるべく通おう。」
「足腰が弱らないように日頃からもっと歩く量を増やそう。」
「家での食事は、糖質を分解する栄養を摂れるよう栄養士さんに相談してみよう。」
このように自分自身が意思を抱くことで、良質なセルフケアにつながります。

セルフケアは専門家と自分自身が、持病の状況やQOLを共有することで適切に進めていくことができます。知識を共有した上で、本人が行動を選択し、その責任を持てるよう専門家が支援することで成り立つ健康教育の一つなのです。

6_まとめ

ウェルビーイングを具現化するための、医療体制や福祉環境が整備されつつあります。持病など一部のネガティブ要素が、日々の暮らしを全て不健康なものにするわけではありません。この事を専門家と個人がそれぞれ認知することが、厳しい時代をより良く生き抜くためのファーストステップとなるでしょう。

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