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教えて吉田先生!これからの健康経営を考える! 3. 産業医って何をするの?

20回ほどのシリーズを予定しております「教えて吉田先生!これからの健康経営を考える」。第2回は「良い職場環境とは何ですか?」について語ってもらいました。第3回は「産業医って何をするの?」です。

インタビューは2020年4月6日に都内にて行われました。

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産業医とは?諸外国にもある制度なの?

――― 今まで吉田先生がやられてきていた産業医とはどのような職業ですか?

産業医の資格や業務は、日本では労働安全衛生法に規定されています。50人以上の事業所では嘱託産業医と言って原則として毎月職場巡視などを行う産業医を選任(契約)しなければならず、1,000人以上の事業所になると基本的に常勤で産業医を雇用(専属産業医)しなければなりません。

私が各事業所を訪問し、産業医面談でお会いする社員さんの殆どは、その職業人生で初めての産業医面談となりますので、役割を分かりやすく説明するために「従業員の皆さんに、健康に生き生きと働いてもらうためのお手伝いをするのが産業医です」とお伝えしています。

せっかくですので諸外国の制度もご紹介しましょう。少し古い資料ですが、いわゆる西側先進国とされてきたG7の中で比較すると、アメリカ・イギリス・カナダは、公的な産業医資格もなければ選任義務もありません。ヨーロッパのドイツ・フランス・イタリアの3カ国プラス日本はその逆で、企業規模に応じて、資格を持った産業医を選任しなければなりません。

諸外国の産業医及び産業保健サービス機関に関する制度(総括表)

ではアメリカ・イギリス・カナダでは産業医的な職能は不要なのかというとそのようなことはなくて、各国で労働安全衛生法に相当する法律が整備されており、民間企業が個別にEAP(従業員支援プログラム)や産業保健サービスを契約しています。

産業医の選任義務がない米国において、1980年代に経営心理学者のロバート・H・ローゼンが「社員が健康でいることこそが収益性に優れた企業を作る」とする「ヘルシー・カンパニー」という概念を提唱し、それが日本で言う「健康経営」のモデルとなったことは象徴的です。英米圏では日本のように産業医の選任義務がないぶん、各企業は従業員健康管理のメリットを認識しているからこそ自発的に産業保健の専門家を雇用しデータを蓄積しているわけで、産業保健関連の支出に対するコストパフォーマンス意識は、我が国と比べて相当に高いものと推測されます。

「普通のドクター」とはどう違うの?

――― 普通のドクターとの違いは何でしょうか?一般の読者の方がイメージしやすいのは通常の医師の仕事ですよね。

病気の方に、元通り社会参加してもらうために治療をするのが通常のドクターの業務と考えて良いと思います。例えば私が専門とする精神科の場合、気分障害と統合失調症が2大精神病と言われており、薬物療法や精神療法・生活指導などを通して、患者さんに会社や家庭や学校生活に戻っていただく支援をする。臨床活動に軸足を置き、患者さん個人やその方の所属する家族・地域を視野に入れた疫学的・公衆衛生的な観点で仕事をするドクターもいるでしょうし、私自身も臨床医としてはその視点は忘れないようにしたいところです。

その一方で、組織全体の生産性と紐付いた従業員の健康状態について考え、どのように生産性を上げ、かつ幸せに働いてもらうか、ということを考えていくのが産業医の仕事だと認識しています。また、産業医の場合は普通の臨床医とは違って治療行為には関わらないのが原則で、立ち位置は労働者側でもなく雇用側でもなく、中立的な立場で活動することになっています。

書類に向かうビジネスマン

これからの産業医の役割はどうなるの?

――― 最近、新型コロナウイルス感染症のこともありオンライン診療が広がるなど、医療の形も変わってきています。歴史を振り返って、今後、産業医という仕事はどのように変わっていくと思われますか。

世界的には、古くは軍医や、船に乗り込んで働く船医が、産業医の原型と言えるでしょう。ちなみに世界史上、最も著名な船医としては、イギリス海軍測量船ビーグル号の船医で、19世紀半ばに進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンが挙げられます。

我が国では明治維新以降の文明開化で近代的な軍隊を整備したり、工場が設立されたりで人びとが密集して仕事をするようになり、軍の戦力や工場の生産性を維持するために、現在で言う産業医の役割を担う医師が必要となりました。ですので日本の歴史上、今で言う産業医としての役割を担った有名人は、軍医総監であった森鴎外ということになりますね。

森鴎外の頃はマラリアや結核といった感染症対策、それに脚気などの栄養学の知識が求められていたのですが、第2次大戦を前に国家総動員体制を敷いた1938年、旧工場法において、今で言う産業医の職務が「工場医」として規定され、第2次大戦後は労働基準法や労働安全衛生法に引き継がれています。

戦後の高度成長期は、職場での事故や怪我、有害物質といった労働災害対策が中心でしたが、その後は生活習慣病やメタボ対策、近年ではメンタルヘルス不調やがん就労支援などがテーマになってきています。これからの人生100年時代、75歳くらいまでの就労が標準となる時代を迎えると、冗談抜きに「職場の認知症対策」が真剣に議論されるかも知れませんね。

近い未来の産業医の仕事ですが、現在も進行中であるITを活用した遠隔産業医業務や、一部の大企業では採用されている診療科ごとの専門分化への対応、中立的立場から従業員のライフステージに配慮しつつ企業の理念実現を支援する、という方向で専門性を発揮していくことが求められると思います。

ロンドン地下鉄?の朝

(聞き手:株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介)



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