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#50 反則

抗えない。中山さんを好きという気持ちから逃げることができない。どうしてなんだろう。中山さんの何がそんなに私を魅了してやまないんだろう。こんなに苦しいのに、こんなに愛しい。

早朝のオフィスのエレベータに二人で乗った。今日は白木課長が飛び込んでくることはなくて、たった二人だけの時間と空間。8階までの短い時間だけど、二人になれるのがすごく嬉しい。素直に認めるしかない。

でも中山さんの空気を感じながらそばでドキドキしてるだけなんてもったいなくて、中山さんを見つめたくなった。誰もいないんだから見つめてもいいよね。

そう思って横に並ぶ中山さんのほうを向こうとした瞬間、中山さんが私の手をぎゅっと握りしめてくれた。びっくりして体が反応してしまって恥ずかしい。手を繋がれたまま3階、4階とエレベータの表示が上がっていく。この時間だと途中で止まることはあまりないから、あとほんの少しこの幸せな時間が続く。5階、6階、ああもう少しだ。

そして7階に変わったとき、中山さんが私の耳元で囁いた。

「今夜、会いたい」

突然の誘いに驚いて頬が熱くなる。

エレベータが8階に止まると二人同時に手を離し、降りたら私は中山さんと離れて休憩室のほうに向かった。このままだとオフィスには入れない。

だって中山さん、この誘い方は反則だよ。何度もデートしてきたけど、二人の夜も過ごしたけど、そんなふうに自分からはっきりと会いたいって言ってくれたことなかったよね。私ばっかり好きで、私ばっかり会いたくて、私ばっかりすぎるってずっと思ってたけど、そうじゃないんだ。私に会いたいって思ってくれてるんだ。

もう泣きそうだ。

耳まで熱い。

夜が待てないよ。



694文字

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第1話はこちらです。

どの回も短めです。よかったら「中山さん」と「さやか」の恋を最初から追ってみてください。さやかの切ない思いがたくさんあふれています。

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