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雨と人生

駅から出て歩きだした瞬間に、雨が降ってきた。

はじめは一瞬だけパラパラと落ちてきて、数秒もしないうちに雨が強まった。回れ右して慌てて駅に戻る。

バシャバシャと激しい音が辺りに響いて、地面に跳ね返った雨が足先にかかった。だからもう少し足を引っ込めた。

駅向かいの家の庭に鮮やかに咲いている紫陽花が目に止まる。紫陽花は突然の雨を喜ぶように揺れていた。紫陽花にとっては恵みの雨だ。

傘を持たない私はしばらく動けない。

揺れる紫陽花と、湿り気を帯びた6月の曇り空を交互に見た。駅から出てきた人は順に空を見上げてから、傘を開いて歩き出す。

私はまだ歩き出せない。

まるで自分の人生と同じだなってふと思った。みんなは進めるのに私は進めない。ひとり取り残される。

雨は降り続く。

なんとなく、なんとなくだけど、嫌だと思った。

傘がなくて歩き出せない自分と、人生をうまく進めない自分を重ねてしまう自分が嫌だ。

そう思うと自然と足が前に出た。

でも濡れる覚悟を決めたわけじゃない。覚悟するんじゃなくて、雨を楽しむ自分になりたい。

そう心に弾みをつけて勢いよく歩き出したら、すぐにサーッと雨が弱まった。

バシャバシャがパラパラに戻り、鳥の鳴き声が空に響く。

まるで応援されているような気持ちになって、踊るように歩いた。

だけど橋を渡っている途中でまた雨が強くなった。

私は雨に打たれながら考える。

そっか、雨なんて、強くなったり弱くなったりするものだ。

自分の人生を雨と重ねるなんて嫌だとさっきは思ったけど、やっぱり似てるね。ふったりやんだりだもんな。

私はしっかり歩き続けた。



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