運命のゲーム
結婚してもう10年が過ぎた。
10年も経てばどこも同じようなものだと思うけど、私と夫の間には恋のような感情はなくなり会話も必要最低限しかしなくなっている。ただ親として子供を囲むだけの共同生活に、不満はないけど刺激もない。
私はそんな日常が退屈で、ある日、文章を書き始めた。文章を投稿するサイト「note」に、日記のような短い文章を投稿し始めたのだ。
それから4ヶ月、その間にいろいろな人の文章を読んだ。
noteには魅力的な文章を書く男性もたくさんいて、どんな人だろうって想像するようになった。柔らかくて知的な文章を読むと、とても魅力的な男性をイメージして憧れるような気分になった。
文章って顔が見えないから現実のその人の何倍も美化されてしまうんだろう。文章のレベルが高いと魅力はその分、増加する。noteは文章の世界で、文章の優劣が書き手の魅力に直結するんだ。
夕食の席で私は夫を見た。実は夫はとても博識で文章力も高い。かつてはそんな夫がすごく魅力的で誇らしく見えたのに、今は魅力を感じない。夫は何も変わらないのに、いつからそうなってしまったんだろう。
そんなふうに考えながら、じっと夫を見つめているうちに、noteを使ったおもしろそうなゲームがふと頭に浮かんできた。退屈な日常に刺激を加えるゲームで、うまくいけば夫をもう一度、魅力的に感じられるゲームになる。
夜に子供を寝かしつけたあとで私は夫にゲームをしないかと持ちかけた。
ルールはこの4つ。
・夫もnoteに登録して文章を書く。
・お互いにnoteでの名前を明かさず、お互いを文章から探し出す。
・半年後に当てっこをする。
・見事に当てた方は、外れた方に何でも頼み事をすることができる。
そして夫は一つ返事でゲームに乗ってきた。
でも私はそのとき、何も知らなかった。夫が勝ったときに、まさかあんな頼み事をしようと考えていたなんて、これっぽっちも気づいていなかったんだ。
【続く】
「逆噴射小説大賞2019」というコンテスト用に書きました。長い小説の導入部でいかに読者に興味を持ってもらうかのコンテストのようです。
ただ「パルプ小説」というのがどういう小説なのか調べましたがどうしても掴めず、この文章を応募していいのか決めかねました。
投稿されている方の文章を見る限りでは、サスペンスやホラーなど『世にも奇妙な物語』的なストーリーを指すのかな。私はそういうのではなくて、いつも書いているような小説の導入部をカットした仕上がりになっています。
せっかく書いたので投稿することにしました。夫の「あんな頼み事」って何だろうね。
お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨