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好きなのはどっち。

あ・・・目があった。

私はいつも行くカフェでお気に入りのホットケーキを食べていて、あなたもよくここで同じホットケーキを食べている。ここのホットケーキはふわふわで、甘さ控えめなのが私好み。私はあなたもこのホットケーキが好きなんだなって思ってひそかにあなたを見ていた。

どうしても見たい瞬間があったから。

あなたはかならず食べ終わった瞬間に少しだけ頬を緩めるんだよね。幸せそうな顔をする。おいしかったんだよね。その顔を見て私はなんだかほわっとする。

今日もそんなふうに斜め向こうに座ったあなたの食べ終わる瞬間を狙っていた。あと一口を気配で感じる。口にふくんで、飲み込んで、フォークを置くその一瞬にチラリと視線を流す。

そしたら今日は私とあなたの視線が絡まった。そう、目があっちゃった。

どうしよう。

慌てて自分のホットケーキに目線を下げる。ドキドキした。いつも内緒で見てたのがバレたかもしれない。

あなたが席を立って歩き始める。私のうしろ側にあるレジに向かってゆっくりやってくる。フォークにホットケーキを刺してみたけど何となく見られてる気がして恥ずかしくて口に運べない。心のなかでおどおどしてると、まさかあなたが私の前で立ち止まった。

どうしたらいいんだろう。顔をあげたほうがいいのかな。そんなふうに迷っていたらあなたが私に話しかけてきた。初めて聞くあなたの声は低くてやわらかだった。

「ここ、少しいいですか?」

反射的に私は顔をあげて、コクンと頷いた。

「いつもホットケーキを食べてますよね。好きですか?」

えっと、どう答えたらいいんだろう。ホットケーキが好きを「好きです」って言えばいいんだよね。別に普通の返事だよね。変な間があくのが怖くて慌てて言おうとした瞬間、あなたが言葉を続けた。

「いや、好きだから食べてるんですよね。変な質問してすみません」

そう言ってあなたは気まずそうな笑顔を私に向けた。私は頭をふるふると横に振った。

これはどういうことだろう。あなたはどうして私の前に突然座ったのかな。そういうことなのかな。心臓が高鳴る。

私はここであなたを見かけては小さな幸せを感じていた。恋だとは思ってなかったけど、このカフェに来るときの足取りは軽かったし心も弾んでいた。

でもいまこうやって向かい合わせに座って話をしてる自分の鼓動の速さは恋してるせいだよね。そう意識した瞬間、頬がみるみる赤くなるのを感じてどうにもならなくなる。

「僕は白状すると、実はあなたをひそかに見てたんです。あなたがメニューを指差して店員さんに注文するときのうれしそうな表情をね」

あなたのそんな告白にびっくりして、私はもう頬だけじゃなくて耳まで真っ赤になってしまった。

「一体どんなおいしい食べ物を注文したのかなって見てたらホットケーキだった。だから僕もホットケーキを頼んだんです。好きですよ」

いま好きって言ったよね?

それってホットケーキのことだよね?

だけど頭のなかでは「あなたが好きですよ」に聞こえちゃった私はすっごくあなたが好きらしい。


#短編小説 #掌編小説 #ホットケーキ #恋



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