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まさかこんなことになるなんて。

私はnoteユーザー4年目の小説家です。毎日1本短編小説を書いて投稿していて、自分で言うのもなんですがフォロワーが560人というnoteではちょっと名の通ったクリエイターです。

2019年も頑張ろうと思って創作活動に励んでいるとフォロワーの一人である「R-990six」さんから私にこんなコメントが届きました。

野村音さん、いつも読ませてもらっています。今日はあなたに真偽を確かめたいことがあります。あなたの書かれた『雷雲とスニーカー』の物語ですが、あれは私が書いた小説の盗作ではないでしょうか。何度読み直しても私の創作物とそっくりで真似されたとしか思えず気分を非常に害しています。

私はとても驚きました。盗作なんてそんなとんでもないことを私はした覚えはありません。慌てて返信しました。

R-990sixさん、すごく驚いています。私は盗作した覚えは全くありません。誰かの書いたものを盗むような、小説家としてありえない恥ずべき行為を私は絶対にしていません。もしよろしければあなた様のどの作品と私の『雷雲とスニーカー』がそっくりなのかを教えていただけませんか?

その返信を書いてすぐに私はR-990sixさんのページを辿りました。一体どの小説が私の作品と似ているのかを確かめようと必死になりました。R-990sixさんも毎日短編小説を投稿されている人でnote歴は私より長く5年目になっているクリエイターなので過去の投稿は1800くらいある計算です。

最新のものから1つずつ開き3時間ぶっとおしで探してみましたが『雷雲とスニーカー』に似ているストーリーが見つかりません。頭がクラクラしてきて気持ちも悪くなってきました。ひたすら集中してコンピュータにかじりついているので目もおかしくなってきました。

するとR-990sixさんからの返信が入りました。

私の書いた『スニーカーと羊雲』です。2015年11月9日に投稿しています。

あまりにも似ているタイトルに私は変な汗が出てきました。私が『雷雲とスニーカー』を投稿したのが2018年8月20日なので、もし内容が酷似しているとしたら投稿の時期を考えると私が盗作したと言われてしまってもおかしくありません。急いでR-990sixさんの『スニーカーと羊雲』を探します。

ありました。確かに『スニーカーと羊雲』というタイトルの短編小説がR-990sixさんが言う通りの日付に投稿されていました。はやる気持ちでタイトルをクリックして投稿を開きました。

背筋が凍りつきました。

本当にそっくりなんです。主人公が9歳の少年で、父親を早くに亡くして寂しい思いを抱えているという家庭環境が同じです。父親からもらったもう履けなくなったスニーカーをリュックに入れて空いっぱいに広がる雲を探しに旅に出るという基本ストーリーもそっくりです。私の小説では雷雲を探しに行くので夏ですが、羊雲は秋なので季節の設定は異なりました。

でも読めば読むほど展開はそっくりで、盗作だと言われても何も言い返せないほど似ているんです。脇がじっとりと汗ばんでくるのを感じながら、すぐにまた返信しました。

R-990sixさん、『スニーカーと羊雲』を読ませていただきました。タイトルだけでなく内容までこれほど似ているとは本当に驚いています。なぜこんなに似たものになったのか私にも説明がつきませんが神に誓って私は盗作していません。信じてもらいたいです。

今度はすぐに返信が来ました。

でもあなたは私の『スニーカーと羊雲』に「スキ」をつけてくれていますから確かに読んだということになります。私の投稿が先なので私が盗作したわけではないことに疑いはありません。やはりあなたの盗作と考えてしかるべき状況です。有料化されているので、あなたほどのフォロワーをお持ちの有名な方であれば、すでにたくさんの読者が購入していると思います。盗作となるとその金額も私のものだということにならないでしょうか。あなたへの収入となるのは納得できません。

目の前が真っ暗になるのを感じました。確かに「スキ」をつけてしまっています。けれどまったく記憶に残っていません。日々noteで流れてくる大量の作品を私は読んでいます。しかもこれは3年以上前の作品です。最後まで読んだかも正直覚えていないし、タイトルだけで「スキ」をつけてしまった可能性もあります。

なんと答えたらいいんだろうと混乱している間にふと私のフォロワーの数が520人になっていることに気づきました。昨日は560人だったんです。ここ数ヶ月は数は右肩上がりだったので40人も減るということは異常なことです。体も頭も熱くなってくるのを感じました。

返信をどう書くかと考えるよりもフォロワーの数を確かめることに気を取られ始めました。510、500、430、390、ページを更新するたびに信じられないスピードで数が下がっていきます。目の前が真っ暗どころか真っ白になってきました。数は下げ止まりを知らないように300、280、210とカウントダウンしていきます。

私はとても混乱しました。このコメントのやり取りを見ているフォロワーが私の『雷雲とスニーカー』を盗作だと判断して一気にフォローの設定を解除していっているということです。私はツイッターでもフォロワーを800抱えている人間なので、そこでも騒がれているのかもしれません。

ともかく急ぎコメントを削除しようかと考えましたが、今の段階で削除をすると余計にややこしい気がします。やっぱり盗作だったのかと思われることになりそうです。

R-990sixさんのトップページを見てみました。驚くことにフォロワーの数が少しずつ増えています。R-990sixさんの『スニーカーと羊雲』への「スキ」の数も変化しています。40、50、70、100と。私の『雷雲とスニーカー』の「スキ」があちらの「スキ」へと吸い寄せられるかのように数字が見事に差し引きされていきました。

コメントへの返信を書こうとしてキーボードに置いている手が震え始めました。いつのまにか頰もこわばっています。フォロワーの数字はつい昨日までは温かい励ましの数だったのに、今は非難の声をあげながら私を見放していく恐ろしい塊にしか見えません。こんなに恐怖を感じるのは初めてでした。積み上げてきたもの、信じていたものがガラガラと崩れ落ち始めます。目の前の景色が歪み涙でぼやけました。怖くて怖くて、私はもう自分のページを更新できなくなりました。キーボードから手を離して、自分の胸の前で震える右手を震える左手で抱えました。

呆然と画面を眺めていると、静かに画面がスクロールし、note公式からメッセージが流れてきました。

お題企画「あなたの恐怖体験」お題企画「あなたの恐怖体験」お題企画「あなたの恐怖体験」お題企画「あなたの恐怖体験」お題企画「あなたの恐怖体験」お題企画「あなたの恐怖体験」お題企画「あなたの恐怖体験」お題企画「あなたの恐怖体験」お題企画「あなたの恐怖体験」

あなたが人生で感じた一番恐ろしかった恐怖体験を書いてみよう!


2890文字

#短編小説 #野村音 #恐怖 #note #盗作

この主人公につけた「野村音(のむら・おと)」という名前や、小説のタイトル『雷雲とスニーカー』『スニーカーと羊雲』もどこかで誰かがすでに使っているものかもしれません。ネットの世界は広いので自分の書いたものと誰かの書いたものが酷似することだってありえるなぁって思うと、ちょっと怖いですね。そんなことを考えながら書いた小説でした。



お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨