あなたのポケット

ちっちゃくなったらたぶん、かわいくなる。だから私は親指サイズにちっちゃくなった。

ちっちゃいかわいいものが好きなあなたは、ちっちゃくなった私に手を差し伸べて「おいで」って手のひらを開いてくれるだろう。

その手の上に乗っていいよっていうことだから、私は一生懸命その手に登ろうとする。

ちっちゃくなってるから、少し大きなその手に登るのはわりと難しくて、ちょこちょこ足を上げてはうっかりすべりおちる。

なかなかうまく乗れない私を待ってるうちにあなたの手が閉じられてしまうんじゃないかと思うと、慌ててしまってまたすべったり。

そんな私を優しく見ていたあなたは、反対の手を使って私をちょいとつまんで、ちょんとあなたの手のひらに乗せてくれた。

あなたの手のぬくもりが私の体全体を包む。

優しく私を見つめてくれるあなたのまなざしが私の心も包む。

それから私が壊れないようにそっと手のひらを閉じながら、あなたは私を自分の胸ポケットに入れてくれた。

あなたが歩くたびに揺れるポケットのなかで、あなたの呼吸とあなたの心音を子守唄にして私は眠った。


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