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しあわせな音

鳥の高く澄んだ鳴き声が真っ青な空からおりてきて、子供たちの笑い声の近くに溶け込んだ。

自転車のタイヤが砂利を踏み込む音が左から右に通り過ぎる。乗り手は幼子だろう。

草木が風に吹かれ、さわさわと歌う。

私も歌い出す。ハミングよりももっと小さな声で。私だけに聞こえる音。

誰かがこっちに近づいてくる。

サク、サク、サク。

一定のリズムで、少しずつ大きくなる足音。

あなただね。

あなたは私の横に座って、私の手の上に冷たい何かを乗せた。

「サイダーだよ」

一番心地よい声。私を安心させてくれるあなたの声に炭酸が香る。

「何味のサイダーなの?」
「ゆずだよ」

私の手のなかで缶の蓋がパチンと響いた。

「ありがとう」
「うん、冷たいから飲んでみ」
「うん」

口元にゆずサイダーをあてて、一口飲む。

ゴクリという音が私の身体のなかを駆け巡る。

「冷たくておいしい。ゆず味だね」
「ゆっくり飲んでいいよ。急ぐとキーンってなるからね」

私はうなずいて一口ずつ喉に入れた。

「飲み終わったら、白鳥ボートに乗ろうか。池の奥にある桜がきれいだから見せたいな」
「うん、行きたい」

たぶんいま、あなたはうれしそうに笑ってるだろうね。見えなくても分かるよ。

最後の一口を飲み終わって立ち上がると、あなたがすぐに手を繋いでくれた。

たくさんのしあわせな音が聞こえる。

世界は今日も穏やかなんだね。

「桜がね、ほとんど満開だよ。濃いピンクの桜と白い桜がまじりあってるすごくきれいな桜なんだ」
「うんうん、素敵だね」

白鳥ボートであなたはいっぱい教えてくれるだろう。桜を詩のように美しく描写して。その詩を私は心で描く。キラキラした陽の光をまぶたに感じながら。



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