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二度と観たくないけど、世界中の人に観てほしい映画の紹介#映画にまつわる思い出

あんなにも長く感じた映画はない。(実際2時間45分と長いのだが…)
退席者が続出した問題作「異端の鳥」(ペインテッドバード)思い出すだけで、今でも私の心を深く抉る胸糞悪い映画だ。

この映画は私にとって『映画』というものの価値観を変えた映画と言える。いや、もしかしたら、映画本来の価値に気付かせてくれたものなのかもしれない。
それまで私にとって、家で映画をみる事や映画館に行くことは『娯楽』の一部でしかなかった。旅行や遊園地に行くようなものであり、非日常の世界に浸り、日々のつまらない日常からの逃避行の手段だった。そのため、観る映画のジャンルもアクションやファンタジー、コメディーなどに限られていたし、見終わったとき、「あー楽しかった」と気持ちをスッキリさせてくれるようなものばかりを選り好みしていた。

それなのに、何故この映画を選んで観たのかというと、単純にポスターの上に書いてある、数々の「受賞」の文字と「話題作」「問題作」という評判だけで、映画館に足を運んでしまった。

『異端の鳥』
正直、15歳になった今でも周りの友人でこの映画を見たことのある人はいない。薦めても観ないと思う。でも、観てほしい。いや、世界中の人が見た方がいい。昨今、これだけ「ダイバーシティー」と騒がれている今だからこそ、この映画を一度見て、人間本来の本質、悪、利己主義、ナルシスト、異端者の排除、自分と違う者への嫌悪感、警戒心。簡単に「LGBDQ を受け入れろ」というが、そんな簡単な問題ではない。転校生、障がい者、異端者、新興宗教の子、「みんな仲良く」なんてできないのだ。だから、貧富の差が起こり、戦争が起こる、そんな、人間本来の持つ悪い心がひたすらと描かれる。

『異端の鳥』の概要は第二次大戦下の共産圏のある国(不明)。10歳ほどのユダヤ人の少年が片田舎の叔母の家に疎開することになる。10歳まで都会っ子で家族からも愛され教養のあるいわゆる良い少年だ。だが、ユダヤ人狩りを恐れた両親が、息子だけを逃がす。しかし、田舎の人々のユダヤ人差別は過酷で、少年は一言も口を利かなくなる。ユダヤ人とバレたら大変な目に遭うからだ。そこから、彼の過酷で悲惨で、地獄のような日々が始まる。どこの村に行っても彼は『異端児』とみなされ差別をされる。戦時下だから、というだけの問題ではすまされない。まだ、ソビエト連邦の時代、ヨーロッパとソビエトの間のどこの国ともいえない部族たちは、独自の村での言葉や文化を持ち、信仰を持つ。そんな村々を転々とする。そこには一欠片の優しさはない。

映画館の中にいる客層も違かった。普段なら、子供や学生、若いカップル、 家族連れなどがポップコーンを食べながら、お喋りをして和やかな雰囲気があるのに、そこは喋ってはいけない決まりでもあるかのように、ピリッと張り詰めた、重たい空気が漂っていた。まるで、今から大事な受験の試験でも始まるかのようだった。客層も年齢層が高めで、お一人様だったり、いかにも映画評論家のような真面目そうな人ばかりだった。私のような中学生はいなかった。R15指定だから当たり前かもしれないが、当時すでに高校生だった姉と行ったのですんなり入れてしまった。

※因みに、言い訳をするわけではなが、R15指定は倫映が『主題や題材の描写の刺激が強く、年少者には、理解力や判断力の面で不向きな内容が含まれている』として、見る側や劇場側に注意換気しているもので、破っても罰せられることはない。

映画も始まっていないのに、重苦しい空気に後退りしその場から逃げたくなった。実際、何か迷惑をかけた訳でもないのに、年配の男性に睨まれた。きっと「なんでこんなガキが見にきているんだ」と思ったに違いない。映画が始まってから終わるまで、まるで図書館にいるようなぐらい映画館の中は静まりかえっていた。終わった後も皆無言で映画館から出ていった。

よく映画を見た後にある「お土産感」みたいに有難いものではななく、ずっしりと重く錆びついた大きな重石を背中に背負わされた気分になった。
主人公の男の子がほぼ台詞がなく喋らない。喋ったらユダヤ人だと見つかるからだ。心優しい少年だった主人公も数年にわたる、過酷な労働と迫害と無慈悲なまでの周りからの扱いにどうにか順応して生き延びようとする必死な姿。初めはいつ殺されるかわからない恐怖に怯え、空腹と疲労に忍び、人間の嫉妬、妬み、怠惰、強欲、淫蕩…。そんな人間に囲まれ、いつしか少年が男へと成長していく。眉間には深い皺が刻まれ、目は鋭く、平気で人を殺せるようになる。

最後、どうにか生き延びた息子のところに父親が迎えに来るが、純粋で優しかった少年の面影はない。……そして、この物語は第一次世界大戦の終わりなのだ。最後の最後まで、希望を持たせない映画だった。

興行収入も大事だが、映画には「見なくてはいけない」「目を逸らせてはいけない」映画があることを知った作品だった。

#映画にまつわる思い出 #wowow #映画 #異端のカラス #ダイバシティー

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