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ミニマリストの雑談②小説『成瀬は天下を取りに行く』感想編

『君たちはどう生きるか』の映画レビューを書いてからなんと半年以上もたってしまいました。


夏の暑さはとっくに過ぎてますし、ミニマリストなので、よくある「2023年買ってよかったもの○選」みたいなのも、今書くのはなんか違うかなあと思いますので、時系列気にせず自分のペースで書いていこうと思います。


一言だけ言うと、2023年は人生で最も仕事が忙しかった歳でした。
働き方改革なんてどこに眠っているのか、そんな感じで日々過ごしています。これについてはいつか書こうと思っています。


①ちゃんと読みましたよ※多少のネタばれ注意



というわけで、そんな過重労働環境の中読破した『成瀬は天下を取りに行く』の感想です。表紙最高ですよね。


まず大前提ですが、僕はあまり小説を読みません。


かつては意識高い系と呼ばれる類の人種だったので、ビジネス書や啓発本にはそこそこ精通していますが、小説と呼べるようなものを最後に読んだのは、(これもビジネス書っぽいですが)『海賊と呼ばれた男』が単行本で出たころにすぐに買って読んだ記憶しかないです。


百田尚樹の思想云々はいったんおいておきまして、『海賊と呼ばれた男』の小説自体はとても面白く、とりわけ国岡鐵造が小さい会社から世界を脅かす企業に成長する過程を読んでいた当時、身震いが止まらなかった記憶があります。
こんな人物が日本にも実在していたんだなあ、と。


『海賊と呼ばれた男』もそうですが、僕はヒューマンドラマが好きです。こうした作品の描かれ方の多くは、「他の人物から見た主人公」という視点での描かれ方が多いですが、『成瀬は天下を取りに行く』に関しても、基本は滋賀県大津市出身の女の子「成瀬あかり」の一つ一つの行動をどういう視点で見ているのか、という描かれ方になっています。


②主人公「成瀬あかり」とは


ここで成瀬あかりが、どういう人物かを簡単に要約してみます。
同級生からの成瀬は、

・足が速い
・絵が上手い
・歌が上手い
・頭がいい


こんな感じで捉えられています。ここまでは、よくある架空ではあるあるなハイスペ設定です。しかし変わった経歴では


・天才シャボン玉少女として地元TV局に取り上げられる(小学生)
・お笑いコンビを組み、M-1大会に出場(中学生)
・大津市のけん玉チャンピオン(中学生)
・かるた部で全国大会に出場(高校生)


なんか色んな事してます。


普通の主人公なら、このどれか一つ取り上げるだけで、漫画一冊分かけそうです。
この多動性の源泉となる活力はどこから来るのか、それこそがこの小説の大トロであったりします。



③なぜ成瀬に惹かれる読者が多いのか



成瀬を一言で表すなら、「一貫した信念を持ち、今を生きている等身大の女の子」でしょうか。


彼女の特徴の一つに「会話の口調」があります。
同級生の友人だけではなく、両親、歳上の警察官や知らない大人にまで、誰に対しても話し方が同じで、「だ」「である」調で話しています。
敬語で話している姿はほぼありません。
※続刊で、アルバイトでの成瀬が描かれますが、そこではいわゆる敬語が入った接客用語を話している描写があります。


また、成瀬は作中で何度か「人生の目標は?」という質問に「二百歳まで生きる」と言っています。
例えば、友人が成瀬と同じように二百歳まで生きる、と言っている人がいたとして、一般的な感覚では「無理だろ」「馬鹿じゃないか」とかそう思うに違いないです。

ですが成瀬は本気です。
そのために、毎朝5時に起きてランニングをし、21時には就寝するルーティンを一貫して行っています。


そして何より、「二百歳まで生きる」という壮大なビジョンを達成するために、多動性を持って新しいことに挑戦すること、それこそが彼女のアイデンティティでもあり、行動の源泉となっています。

成瀬は何か新しいことを始める時、小中学校の友人でありかつ、漫才コンビ
の相方でもある島崎に「〇〇を極めようと思う」と宣言します。


「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う。」

『成瀬は天下を取りに行く(宮島 美奈著)』


小説の最初の一文目です。この一言に成瀬のすべてが詰まっているようにすら思えます。


そして発言を契機に、驚異的な行動を島崎と一緒に僕たちは見ていくことになるのです。

成瀬自身は、たくさんの種を蒔いてどれか一つでも花が開けばいいというスタンスですが、
きっと多くの読者は島崎と同じで、成瀬の生きざまを最後まで見届けたいな、応援したいな、そんな気持ちにさせてくれます。

④生きづらい世の中だからこそ、成瀬の生き方は眩しく見える


今も昔も、お金や仕事、結婚などあらゆることに対して、周りからの目線やバイアス、過去の経験などから、生きづらい世の中だと感じることは多いです。
何も老後2000万円問題、ロシアのウクライナ侵攻、米中情勢とか、そういう話をしたいのではなく、もっと身近な、「今日の夜飯何にしようかな」「明日着る服何にしようかな」くらいな、もっと身近な話です。


成瀬の行動を見て「自分はこういう人になれなかったな」とか思う人もいると思います。
もしかしたらちょっとした嫉妬心まで出てくるかもしれません。

高校生編で、中高が同じ同級生の子が出てきます。

その子は周囲から変わっている成瀬とは正反対に、縮毛矯正やダイエットのために甘いものを食べないなど、明らかに「周り」を気にしながら生きています。

しかし、当の成瀬は高校生になった日に「本当に髪の毛は1cmずつ伸びるのか」を検証するために坊主にしています。「周り」を気にしていたらこんなことはできません。

その同級生の子は、成瀬に冷たく当たってしまう場面が何度か書かれますが、それは自由に生きている成瀬を見たことに対する嫉妬であるとも言えるでしょう。



僕の人生を変えたと言ってもいい本である、『嫌われる勇気(岸見一郎・古賀史健 共著)』で「課題の分離」という考え方があります。

簡単に言うと、

「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」

『嫌われる勇気(岸見一郎・古賀史健 共著)』

ということです。

成瀬の行動一つ一つから、この「課題の分離」ができている事が見えてきます。


生きづらい世の中だからこそ、成瀬のような等身大で生きている人は眩しく見えます。

現実世界で成瀬のような人がいたら嫉妬をせずに応援をする。
「課題の分離」ができるような大人でありたいと改めて思わせてくれた、そんな小説でした。



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