ウクライナと教条主義問題
ウクライナ進攻問題について考える時、どうしても自分の頭には、中世がもたらした教条主義の弊害こそが遠因ではないかという思いがもたげる。ロシアの地では昔からユダヤ人が殊更に迫害を受けて来た歴史があり、これは対岸の火事ではなかった。なぜならばユダヤ人のジェイコブ・ヘンリー・シフ氏が、日露戦争時に日本に多額の支援をしていたという事実がある。氏はユダヤ人の社会的地位向上の為の支援であったという主旨を述べているが、金融貸借ビジネスはキリスト教の教義において卑しむべき行為とされ、それら教義的なドグマのせいで昔から金融などを営むユダヤ人は迫害の日々を送って来た。中世キリスト教の腐敗は、その創始者イエスの理念とは程遠く学術的に体系付けられてゆく割には、権威主義・教条主義に陥ったのは皆も知るところである。多かれ少なかれ、組織というものは時間が経つと理念より教義が優先されたり、それを運営する人間の欲望つまり名声や社会的地位、あるいは金銭や承認欲求の為に腐敗していく事も別段あり得ない話ではない。ともかくユダヤ人への迫害と、そのカウンター、つまり経済的報復としてロシアはユダヤ人資本オリガルヒの台頭という流れになっていったのではないのだろうか。ウクライナはとりわけオリガルヒ政権や汚職が蔓延し、マイダン革命という武力デモ、つまり暴力という手段で最終的にヤヌコビッチを逐電させるに至った。西側の報道ではこのマイダン革命はさも民主的な運動による勝利のように報じているが、武力行使があった事は紛れもない事実である。国民投票では親ロシア派の支持が多かったという話もあるが、それは逆に東側の画策ではないかと言われている。いずれにせよウクライナがNATOに加盟するとロシアには当然都合が悪い。地政学的にのど元にあたる土地であるし、NATOに加盟されるとそれこそオリガルヒの思うがままになる。世間ではなぜか報じられる機会がとことん少なかったが、現アメリカ大統領の息子ハンター・バイデンは2014年にウクライナ最大手の天然ガス会社ブリスマ・ホールディングスの取締役に就任している。要するにオリガルヒの取締役になったというのである。これを利権政治と言わずに何と言えば良いのだろうか。思えばかつてイラク戦争の時にもラムズフェルドというネオコンつまり軍事複合体の利権をむさぼる人間によって、戦争は焚きつけられた。面白い事に当時話題になった少女の証言「ナイラ証言」も完全なでっち上げである事が露見したし、大量兵器は発見に至らなかったし、化学兵器で民間人を虐殺したという証拠も曖昧になった状態で戦争に突入している。それなのに世論は当時の米大統領やラムズフェルドに対してまるで非難の声を上げなかった。ではだからと言ってロシアのやった事を擁護したいのかといえば、全くそんな気はない。ただ一番言いたいのは古くは教会でのさばっていた貴族的な宗教者らがもたらしてきた迫害こそが遠因ではないのかという事だ。日本人は昔の流れをあまり考える教育を受けていない。年号や起こった事件の名前ばかり記憶するように教育はされているが、過去の事は水に流せば良いものだと考えてしまいがちである。だから未だに日中戦争の折に傀儡政権を立てて中国に侵略した事を、今も中国の人々が憤っているという事実に気が付いていない人が多い。忘れたから、古い話だからもう関係ないというのは日本の文化や考え方に過ぎず、世界では必ずしもそうではない。イスラエルに至っては二千年前にあった国の再興という話だ。そうやって歴史的な流れを俯瞰して見て行くと結局は、それらの原因を作ったのは「民族主義」や「教条主義」なのであって、その行為や考え方や歴史を糾弾し、それが起きぬように啓蒙する事こそが本質的なものの考え方ではないのだろうか。単純に「プーチンは侵略者だ」というものでは人類の根本的な問題解決には至らない。だから昔の智者は言った。「誰が見ても分かるようなものが見えるから目が良いという事はなく、誰が考えても分かるような事を考えつくのが賢いとは言い難い」と。ロックフェラー氏やゼネラルモーターズの代表などに取材をしていたある作家が、悪魔との会話という設定で書いた書籍がある。悪魔は「何も考えない人間は支配が簡単だ」と質問者に種明かしをする場面がある。逆に「自分で呻吟する人間は私でも支配は出来ない」と自分の弱点を述べている。現在はより事の真相をより深く検索する事で知る事が出来る時代になった。こういう時代だからこそ悪魔に支配される事のない生き方が大事であり、「世間が大多数そう考えているから」という理由でそれに追従したり、安直にそう教わったからという考えない生き方をしていては、本当の成熟した民主主義を育てる事が難しいのではないかと思う。
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