■ビビリな退魔師と無表情な清掃員
朝。手入れのされていない鬱蒼と生い茂る柳と観葉樹に覆われた大きな洋館の前で自分は人と待ち合わせていた。
洋館からはほんのりとした冷気と腐臭のような匂いが漂ってきており、いかにも何かいますと言いたげな雰囲気をバチバチに漂わせている。
憂鬱だ。
程なくして四平坂総合本舗というロゴの入った作業着を着込んだ無表情な清掃員が近くの駐車場の方からやってきた。
「四平坂総合本舗清掃課の新倉です。よろしくお願いします」
新倉と名乗る人間は清掃業者らしく作業着と作業帽に身を包んでいる。
「あ、ども。雨月です。今日はよろしくお願いします」
対する自分はジーンズにTシャツというかなりラフな格好をしており、作業着を着込んだ新倉とは対照的である。
「では、今日の作業手順の確認をさせていただきますね」
「はいはい」
新倉が清掃用具の入った大きなカバンからタブレットを取り出す。
「本日の業務はこの家屋の清掃とお祓いです。私が清掃、雨月さんは家屋内のお祓いをお願いします」
自分はその道ではそれなりに名の知れた退魔師だ。胡散臭い職業ではあるが、一応はちゃんとした組合があってそこに所属し、生計を立てられる程度には稼いでいる。
「まずは玄関の清掃と、盛り塩の設置、ですか? あと、清掃には特殊洗剤を使う、で、あってますか?」
「ああ、ここの持ち主に頼まれてるやつですかね。盛り塩は持ってきてますんでこっちでやります」
「わかりました。その後は簡単な廊下部分の清掃と、1階のキッチン、トイレ、風呂場の水回りですね。で、最後に2階の書斎。順番は今の通りで問題ありませんか?」
表情のなさに違わず、新倉は淡々と今日のスケジュールを確認していく。
これだけビジネスライクであれば自分としても仕事がしやすい。
「了解です。お祓いは、清掃の前がいいですかね?」
「どちらでも構いませんよ。ゴミ屋敷を掃除するわけではないですし」
「じゃあ新倉さんに合わせますよ」
「そうですか。ではお願いします」
お互いぺこりと一礼し、やることをやるべく行動を開始する。
自分は玄関に設置されている盛り塩を取り替えるべく、かがんで皿を取ろうとする。
その瞬間皿にこんもり盛られていた普通の塩が、デロリと溶けてヘドロと化す。
「ヒュッ……」
いきなりこういうことをするのはやめてほしい。心の準備ができてないんですよこっちは。
それなりに腕の立つ退魔師であるという自負はある。あるんだけど、他の退魔師に比べるとちょっと、ほんのちょっとそういうのに耐性がないというか。
いきなりウェルカムヘドロとかやめてほしい。心の幼女が泣き出すだろ!
幼女には優しくしろって教わらなかったか教わるわけないだろってちくしょう。
冷や汗をかきながらヘドロを小さいゴミ袋に入れると、なんともし難い腐臭が収まった。
自分が新しいお清めの塩を設置している短い間に、新倉はシューズボックスを水拭きして、床のタイルを掃いていく。
うちの組合のエライヒトが作った特製の浄化洗剤を使ってもらっているが、うっすらとこびりついた瘴気の汚れがきれいに拭き取られていくのが見える。
玄関の掃除と盛り塩が終わったので、新倉を先頭に自分たちは洋館の中へと足を踏み入れる。
「新倉さんはここの清掃はじめてどのくらいで?」
「1年くらいですね。もともとは別の清掃業者が現在の持ち主に依頼されていたみたいなんですが、みんな1ヶ月程度でやめちゃったとかで、今はウチでやってる感じですね」
自分の問いかけに答えながら、新倉は慣れた手付きで鍵をあけ、扉を全開にする。
一瞬、なんとも言い難い腐臭が鼻をかすめるが、新倉はマスクをしているのか平気そうな顔だ。
「なんでも、掃除しているときに変な音がするとか、清掃時に髪の毛を引っ張られたとか、不思議な理由でやめられてるそうで」
ものの見事な怪現象である、遭遇した人たちのメンタルはちゃんとケアされたんだろうか。
「新倉さんはそういうの平気なんです?」
「ゴミ屋敷を清掃してればいくらでもそういうことありますからねえ。なんとも」
少し考える素振りをしたものの、新倉はこともなげに言ってのける。淡々と話を進めていく様子を見て取るに、いわゆるホラー的なものとは縁遠いように思えた。
縁遠いぶん鈍いんだろう。たぶんあのウェルカムヘドロも遭遇こそしたものの『なんか悪くなっちゃたんだろうなー』みたいに軽く考えている気がする。
「ははぁ。そういうことならなんで自分みたいな払い屋を?」
「今のこの家の持ち主の意向とは聞いてます。定期報告の際にさっき雨月さんが処分した黒いゴミの話をしたら課長が真っ青になって依頼主に連絡しまして」
「不安になっちゃったんですかね。依頼主の人、今ここ住んでないんでしょ?」
「そう聞いてます。代々受け継いだ洋館だそうですけど、まあ遠方にいるのに自分で管理するのも大変でしょうし」
はははと、感情がこもってるようなそうでないような笑い声をあげて風呂場に乗り込んでいく。
1階の水回り付近はびっくりするほど何事もなく終わった。
風呂やトイレなんてそれこそ怪現象カーニバルだというのに。本当にびっくりするほど何もなかった。
一応、簡単にむにゃむにゃと祝詞を唱えると、換気のために開けた窓から清浄な空気が流れ込み、そのままドアを通って1階の廊下を吹き抜けていく。
水場は性質上どうしても怪現象パーリィナイ! になりやすいんだけど、窓とドア、換気扇の位置でそういうものがとどまりにくいのかもしれない。
「案外早く終わりましたね」
「毎回防カビ剤も塗布してますし、使う人もいないですからね。さ、次は2階です」
「了解です」
手早く水回り用の掃除用具を片付けて、玄関においていた2階の清掃用具と交換する。
ぎしりぎしりと古い故に軋む階段を登る。2階はなんとなくだが1階よりも瘴気が濃い。
2階は書斎が1部屋とメインの寝室が1部屋と、ゲストルームが2部屋と聞いている。
ゲストルーム2部屋と寝室は前回掃除をしたそうで、今回は掃除は除外。お祓いだけをやることになっている。
ゲストルームを開けると、瘴気溜まりのようなものこそあったものの、それ以外はなんの変哲もない部屋だった。
余計な家具とかもないので、広々としているのもあるだろう。
もう一室のゲストルームもついでに寝室も同じような感じで、簡単なお祓いで事足りた。
最後は書斎だ。
「そういえば、近所の方にきいたんですが、夜な夜な笑い声が聞こえるらしいんですよね。ちょうどこの書斎のある辺りを通ると聞こえるとか」
書斎のドアの前に立つと、新倉がいきなり怖いことを言い出す。
「えっ……」
今なんでその話したの。する必要あった?
何も知らずにオープンザドア―して笑い声の持ち主といきなりエンカウントするよりマシだとはおもいますけど!?!??!
バン!
「うぉっ……」
書斎だという室内から何かを叩く音がする。
怖い話をしてたのもあり、過剰に反応してしまった。
「乾燥してきたんですかねえ」
自分が過剰反応だったとしたとしても、あまりにも動じない新倉にちょっと恐ろしみを感じる。
「いやあのいまのどう考えても……」
「ただの家鳴りじゃないですか。少し換気したから、どこか軋んで音がしたんでしょう。古い家だとよくある話ですよ」
「えぇー……」
どう考えても自分たち以外の何かがどこかのドアだか壁だかを思いっきり叩いた音にしか聞こえなかったんだけど……
「キュッキュって鳴る廊下と一緒です。まぁ、昔は家に住み着いた餓鬼だか幽霊だかがいたずらで鳴らしてるなんて言われていたみたいですけど」
「急に怖い話するのやめて!」
「実害はないですから安心してください」
主に自分のメンタルに実害があるんですけど!!!
「ふえぇ怖いよぉ……ってウッソだろおい。いま怖い話したばっかだろなんでそんなためらいないの!?」
心の幼女が大暴れしている自分をよそに、新倉は遠慮も何もなく建付けの悪いドアを力を込めて開ける。
「所詮近所の人の噂話ですよ。だいたい、笑い声がするのは夜の話で今は真っ昼間なんですから怖がる必要はないです」
ずかずかと遠慮なく新倉は中に入る。
所属している清掃課でも一番の鈍い社員。と依頼を受けた際に課長さんから説明されたのをほんのりと思い出す。
心の幼女がぴえんぱおんしてる自分のことなどいざしらず、手際よく清掃の準備をはじめている。
「うへぁ」
書斎の中は他の室内と違い、異様なまでに空気が澱んで薄暗い。
その上、ゲストルームや寝室、廊下よりもあからさまに室温が低い。
ついでにいえば天井や部屋のすみっこに形容しがたい呪われた沼のような雰囲気を醸し出すドロリンチョとした何かがうごうごと蠢いている。
自分の経験的にここには明らかに何か怖いものがいますよと全力全開で主張する雰囲気だ。
「どうにもこの書斎、何処かから風が入り込んでるみたいで夏でもうっすらと寒いんです」
「隙間風ね、隙間風……」
猛暑通り越して酷暑なんて言われる現代日本の真夏の締め切った部屋が、隙間風程度で寒くなるわけあるかい。
「ホラー漫画なんかだとよくあるのは書斎の何処かから地下室につながる通路があったりするんですよね。呪いの人形なんかが隠されてたりして」
「ヒィン……」
「漫画の話ですよ。そもそもここ2階ですしね」
隠し通路とかあって地下に直通してるとかは考えないんすね……
「うぅ。とりあえずなんか気味悪いんで一回お祓いしちゃいますね」
書斎の中心に立つと、むにゃむにゃと祝詞をとなえる。
が、空気の澱みも薄暗さも変わらない。
やっぱりここにウェルカムヘドロやドロリンチョの原因となるなにかが潜んでいそうだ。
「ここ、汚れるの早いんですよね。ゲストルームはそんなに掃除しないんですけど、ここは毎回掃除する必要があるんです」
「なんでしょーね……」
部屋の中はなんだかよくわからないドロリンチョした魍魎がそこかしこに蠢いている。
幸運なことに新倉にはそれが見えていないらしい。一般人っぽい新倉にうっかり見えてしまったらそれこそ正気度チェックが必要になりそうだから、見えなくてもいいんだけど。
「どうしました?」
「あー、いやうん。なんか湿っぽいなって」
「やっぱりそう思います? 換気も乾拭きもきちんとやってるんですけど、隙間風が湿気も運ぶのかどうしても湿気っぽいんですよね」
やれやれと言わんばかりに新倉はため息をつく。
いやうん、多分そこかしこでうごうごしてるドロリンチョのせいだと思うな。
うごうごしているドロリンチョを新倉は気にもとめずに伸縮ワイパーにマイクロファイバータオルを取り付け、天井を拭き始める。
ワイパーの行く先を視線で追っていくと目には天井にこびりつく無数の手が見えていた。
特製の浄化洗剤が染み込んだタオルが汚れと一緒に拭き取られたそばからあの世に強制的に召されていく。
……のだが、拭かれたそばから瘴気の汚れも消えていくが再び瘴気が湧き上がる。
それを横目に、自分は机に放置されていたいかにも怪しい気配のする本を手に取る。手に取った瞬間から、もやもやとした黒く澱んだモヤが手を包んでいく。
一瞬、背筋から血の気が引く感覚がしたものの、こうして見えてしまえば大したことはない。
「はらたまーきよたまー」
気合の入ってなさそうな声ではあるが、こういうのは気持ちなのだ。払うぞという気概が伴ってれば大体のものは払える。
じゅわ、となにかが焼ける音と小さな断末魔が耳に届いた。
やっぱりどこかに親玉がいるんだろうなぁ……やだなー、机の引き出し開けたらコンニチワしてきそう。
親玉の存在を確信してしまい、一気に気分がしんなりとしてくる。
「雨月さん」
「ヒョア!」
見えもしない親玉にビビり散らかしていると、後ろから新倉に声をかけられて変な声が出た。
「大丈夫ですか」
「はい! はいなんでしょう!」
「そこの本棚の隙間から風が漏れてるみたいで、壁に亀裂でも入ってるのかもしれないのでチェックしたいんです」
「あぁー……はいはい、本棚動かすんですね」
あーうん、わかった。わかっちゃった。雨月ちゃんってば、てぇんさいね。
あの本棚の下だか壁だかになんかいるフラグじゃん!!!
やだやだ動かすのやだやだ怖いよう。
「雨月さん?」
「ぴえっ、はい、今いきますはい!」
挙動不審の自分に首をかしげる新倉とは反対側につき、せーので本棚を動かす。
本棚を動かすと、ほこりと瘴気がぶわっと吹き出していく。
見えなかった場所には形容しがたいいかにも呪われていそうなぐちゃどろのもよもよがうごめいてる。
「うわ」
「流石にここまで掃除しなかったですからね。ちょっと拭いちゃいましょう」
新倉がバケツとワイパーを取りに本棚を離れる。
その隙に明らかにやばい気配を纏うそいつを退治しようと手を伸ばす、が。
もよもよの塊も自分がヤバイやつと気づいたのか、素早くうごめいて本棚の隙間から抜け出した。
「ちょ!」
もよもよの塊が向かった先は新倉のほうだ。新倉もずるりと這う音に気づいたのか、もよもよが蠢く場所に視線が向いている。視線が向いているということは見えるということ。
新倉のような鈍感な人間が視認できるということは、それなりに力のあるヤバイやつだということ。
まずい、新倉にはあのヤバイ塊を対処するような方法がない。
浄化洗剤が満たされたバケツに手を突っ込んでいるからすぐに大事にはならないだろうけど、危険なことに代わりはない。
焦る自分、もよもよに不思議そうな視線を向ける新倉。緊張が走る。
「うわ、なんですかこれ。本棚を動かしたときにでてきちゃったんでしょうか。邪魔なんで捨てますね」
「アッ」
先に動いたのは新倉だった。
自分が止める間もなく、新倉は近づいてくる瘴気漏れ出すもよもよとした塊を特製浄化洗剤がべったりついたゴム手袋でつかみあげる。
『ギギギイィーーーーーギギググギガーーーーー』
浄化洗剤まみれのゴム手袋に掴まれたこの世ならざるものの断末魔が鼓膜を震わせる。
断末魔はビリビリと空気を震わせ、窓ガラスや本棚がガタガタと揺れ始める。
「地震だ。ちょっとドア開けに行きますね」
地震と勘違いしたのか新倉はもよもよをつかんだまま、ドアの方へとかけよる。
その拍子にもよもよをつかんでいた手に力が入ったのだろう。
ぶちゅ。
にんにくチューブだかしょうがチューブだかを思いっきり潰したような音がした。
「ギュ……」
もよもよの塊が小さくうめいてただの泥のようなゴミの塊になったのがはっきりと見えた。
「ワ……ワァ……」
あまりにもあっけない終わりに、もはや小さくてなんかかわいい生き物みたいな声を上げるしかなかった。
もよもよが浄化されたと同時に揺れも収まった。
「地震おさまりましたね」
こうして、洋館の2階で蠢いていたドロリンチョの親玉は、何も知らない清掃員にあっけなく潰されて浄化されたのだった。
「うーん、わからないって強い」
「どうしました?」
「いや、こっちの話。ところで、本棚の後ろ、どうですかね?」
「ああそうですね。ええと……」
本棚に隠れていた壁と床を新倉が拭き上げにいく。
その間に自分は親玉のいなくなった書斎をぐるりと見回した。
さっきドロリンチョの親玉を潰したことで、心なしか書斎が明るく見える。
「うーん、壁にヒビとかが入ってるわけじゃなさそうです。なんだったんでしょうね」
「さ、さあ? 異常がなかったんだからいいじゃないですか」
「まぁそうですね」
「じゃあもう一回軽くお祓いして終わりにしましょうか」
「わかりました」
ぱぁん!
書斎の中央に立って精神統一し、大きく一回拍手をする。
拍子の音で空気が震え、音を中心に浄化されていく。
「お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様」
「ああそうだ。店長から仕事完了の写真を送れって言われているんでした。はいそこ立ってください」
「ん、ああはい」
新倉に言われるがまま、きれいに清掃された書斎机の前にたつ。
「はいとりまーす」
かしゃり。と、新倉の端末から軽い音がする。
「おっけーです。では、店長に送信するんで、写真の確認お願いします」
「はいはい」
「さて……」
新倉が写真を確認するべくアルバムを開く。確認のために自分も端末を覗き込んだ。
と、そこには写真に撮られなれていない所在なさ気な自分と、そのとなりには血の気の失せた肌、目の部分は暗く落ちくぼんだ、いかにもこの世のものとは思えな老紳士の幽霊がバッチリと写っていた。
ドロリンチョの親玉が新倉の手によって浄化されたことで、姿を表したらしい。
「おー、良く撮れてますねー」
写真に写り込んだ老人は退魔の仕事を受けた際に、洋館の持ち主という記載があった老人だろう。
老人は見えるタイプの人だったようで無害で小さなアヤカシたちの避難所になっていたこの洋館でうまく共存して余生を過ごしていた。
最後には自分もアヤカシとなり、仲良くなったアヤカシたちを住まわせて一緒に静かに暮らしている。というのがこの洋館の本来のあり方だ。
今の持ち主であるひ孫さんはそれを知ってこそいるものの、老人もアヤカシも見えないとかで住むにも不便。仕方ないので管理を四平坂総合本舗に任せて無人の洋館という体にしているとかなんとか。
しかし、どこからかやってきて住み着いてしまったドロリンチョの親玉のせいで老人とアヤカシは避難することを余儀なくされいた。
ひ孫さんの夢枕にたち、その状態をなんとかして欲しいと請われ、管理と清掃代行をしている四平坂総合本舗、そこからそういう事態に詳しいうちの組合に話が行った。
というのが自分が派遣された本当の経緯である。
撮るのうまいなーとおもいつつ、新倉を見やると、相変わらず無表情ではあったが、新倉の目だけがこの世のものとは思えないものを見るような視線を端末に向けている
実際にこの世のものではないものが端末に写り込んでいるので、当然といえば当然だが。
「新倉さん?」
……
…………
……………………
「むり」
長い長いの沈黙の後、新倉はそれだけ言い放って膝から崩れ落ちた。
「あー……」
怪談とかホラー映画は平気でも、実際に見るとだめな人っているよね。
そんな事を思いながら、動けなくなった新倉をなんとか引きずって四平坂総合本舗の社用車に乗せてやるのだった。
玄関先で洋館の持ち主であるこの世ならざる老人と、その他元からこの土地に住み着いているアヤカシの類が嬉しそうに手を降っているのには苦笑するしかなかったが。
怪現象を気にもとめず、最後まできちんと真面目に掃除を行う清掃員というのは彼らにとってずいぶんと好ましいものに写っているようだ。
後日。
「御用あらための時間だゴルァ!!!!!!」
仕事前に念のためと交換してあった通信アプリに、新倉から『無理』と、一言だけ書かれたメッセージ。
それに加え、血文字で書かれた御礼状と青白い肌の美女とも美男子ともつかない妙齢のこの世ならざるものが、バチバチにめかしこんだ姿が映る古臭い釣書の画像が端末に送られてきたため、血相を変えて例の洋館にカチコミをかける羽目になったのは、また別の話。
なーんで幽世の連中は気に入ったからって軽率に常世の人間に手を出そうとするのかね、まったく。
「了」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?