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淫魔屋敷・拾壱話

〜とある港町〜

異国との南蛮貿易が盛んな街では、物資や食料の他に「人間」の取引も行われていた。

今、一人の十代くらいの女子が、ガタイの大きな白人によって船に連れ込まれようとしていた。

「やめておくんな!あたしは外国なんて行きたくないんだ!」女子

「ワタクシ、オマエカッタ。スペインモッテイク。ハヨ、ノレ!」バテレン宣教師

「誰が行くもんか!離せー!」女子

宣教師と女の子が揉み合いをしていると、何事かと周りに人だかりが出来てきた。

「ナニヲミテイル!ファッキンジャップ!」バテレン

様子を見に集まった町の人々は、白人に怒鳴られスゴスゴと退散していく。
誰も女子を助けようとすることもなく、我関せずと言う具合に…

だが、一人後ろの方から馬に乗って近づいてくる若く凛とした女形が声をかけてきた。

「GOODMorning,World!この船はどの国へ行くんだい?」馬乗り

「スペインダケド…ダレ?オマエ?」バテレン

「私かい?わたしは流しの三味線引きだよ」馬乗り

「ジャパニーズベース?イラナイ、サレ!」バテレン

「冷たい事言わないでおくれよ〜、このクソバテレン。ヒヅメで踏むよ〜」馬乗り

そう言うと、馬乗りは愛馬「ネネ」を白人に体当りさせ女の子を引きはがした。

「ゴメン〜ぶつかっちゃった〜」馬乗り

「ナニヲスル!」バテレン

白人は腰から短銃を取出し、馬乗りに銃口を向けようとした。

「危な〜い!ネネ踏んじゃえ!」馬乗り

「ヒヒ〜ン!」ネネ(馬)

「ガエッ!…ウエッ…ググ…」バテレン

無惨に踏みつけられたバテレンは、一瞬にして虫の息である。

「おい、糞宣教師。この子を金で買ったとか言ってたね。人間は物じゃないから取引不成立ってことで連れて行くからね!」馬乗り

騒ぎを聞きつけ、白人の仲間が船から女子達を捕らえようと降りてくる。

「ヤバい!お嬢ちゃん乗って!」馬乗り

「はい!オネェちゃん」女子

「オイ!マテー!ヒトサライ!」白人達

馬乗りは女子をネネに乗せ、その場から颯爽と走り出した。

風のように走る疾風の脚さばきは、港を抜け、街を横切り、野道を駆け抜け、誰も追いつけない速さで魔の手から逃げきった。

「ここまで来れば大丈夫かな?」馬乗り

「オネェちゃん、ありがとう」女子

「そういえば、お嬢ちゃんはお名前なんて言うんだい?」馬乗り

「アタシ、天音っていうの」天音

「おー!私は音子。同じ「音」って字が入ってるね〜!」音子

「本当だぁ〜!」天音

「天音ちゃん、おウチはどこかな?」音子

「おウチ…もうない。お父もお母もいない…」天音

「…そうか。……お腹は減ってない?」音子

「バァバの団子食べたいな…」天音

「ん〜…そのバァバはどこにいるんだい?」音子

「江戸ってとこ…」天音

「江戸かぁ〜……」音子

乗り掛かった船……から助けた関係。
ここから江戸まで少し距離がある。

でも、このとき音子もネネも団子が食べたくなってきていた。


〜とある小江戸街〜

商店が立ち並ぶ小川沿いの一件の茶屋。

一人で店を切盛りする老婆は、忙しなく働いていた。
お客さんが来てはお茶を入れ、炭火で焼いた自慢の団子は街中でも評判の一品となっていた。
そんな、昼下がりの小さな茶屋で、その場に似つかわしくない怒号が飛び交っていた。

「おいっ!ババアー!なんだコノ茶は?!」ヤクザ者

「はい…どうかなされましたか?」老婆

「虫が入ってるじゃねぇか!おどれは俺に虫を飲ませようってのかっ?!」ヤクザ

「そんな…申し訳御座いません。すぐにお取替えさせていただきますので…」老婆

「冗談じゃねぇぞ!取り替えりゃ済むと思ってんのか、この耄碌婆が!」ヤクザ

「いえ、滅相も御座いません。コチラのお代金は結構で御座いますので…」老婆

「いやよ〜…聞くとこによると、お前さんとこ割りと繁盛してるそうじゃねぇか」ヤクザ

「とんでもございません…この物価高による不景気で首も回らないのが現実にございます…」老婆

「まぁよ…俺もアンタが誠意さえみせてくれりゃ、こんな怒鳴ったりしねぇーのよ」ヤクザ

「誠意…とは?」老婆

「まぁ、なんだ。俺が納得するだけの銭をよ、そっちが渡すってのが筋じゃねぇのかい?」ヤクザ

「…というと。おいくらお渡しすれば」老婆

「まあ〜さしずめ一両……痛ぇ!」ヤクザ

老婆相手にのたまっていたヤクザ者の口元に、何処からともなく小石が飛んできた。

「痛っつ〜…テメェか?俺に石投げやがったのは?!」ヤクザ

小さな茶屋にあらわれた、虚無僧にしてはいささか小綺麗な長髪の女形。

「おい!テメェ…聞いてんのか?!」ヤクザ

ヤクザの声を無視して、尺八を吹いている。

「(ボボボーボォ〜ボーボボォ〜)」虚無僧

「ただじゃおかねぇぞ…この野郎」ヤクザ

「アンタみたいな奴には、団子じゃなくて小石くらいがお似合いと思ってさ」虚無僧

「なんだと…」ヤクザ

「この店の団子は美味しいっていうからさ、アンタなんぞが食べるのは勿体ないのよ。」虚無僧

「黙って聞いてりゃ…ぶっ殺してやる!」ヤクザ

「え〜イヤだ〜…殺される前にオカッピキ呼ばないと〜
だーれーかー!!
たーすーけーてー!!!
こーろーさーれーるー!!!」虚無僧

「てっ…テメェ!大声出しやがって!
覚えてやがれよ!」ヤクザ

虚無僧が大声で助けを呼んだことで、焦ったヤクザ者はその場から立ち去ろうとした。

それを、虚無僧が刀を抜いて前に立ちふさがり、首元に刃を突きつけ静かにこう言った。

「ちょっと待ちなよ、お茶代置いていきな」虚無僧

「は?あ〜ん?」ヤクザ

「どうせ、せこい小銭稼ぎでもしようとしてたんだろ?ご老人が一人で頑張ってらっしゃる店を狙ってさ…」虚無僧

「ちっ…」ヤクザ

「大の男がみっともないね…お前が自分で茶に入れた虫よりも小さな虫ケラに見えるよ」虚無僧

「うるせぇ…女のくせに…」ヤクザ

「お前みたいなのは、この世に不必要だから今この場で斬り捨ててやろうか?」虚無僧

「茶代だけおいてきゃいいんだろ!」ヤクザ

「二度と来るな…それと、私は男だ」虚無僧

「わけわかんねぇ奴だな!ほらよ!」ヤクザ

小銭を投げ捨て、ヤクザ者は去って行った。

「もぉ〜…本当に虫ケラはお行儀が悪い!」虚無僧

地面に散らばった小銭を拾う虚無僧に老婆は声をかけた。

「お僧様!なんと申し訳ないことで…こんな老人を助けていただいて…ありがたや…ありがたや…」老婆

「えっ…ちょっと!やめて下さいな!私はココのお団子を食べにきただけなんですから」虚無僧

「そんな、かたじけのう御座います…団子なんぞいくらでも召し上がって下さい」老婆

「う〜ん…太っちゃうんで、とりあえずアンコ一本下さいなw」虚無僧

「どうぞ遠慮なさらず、たくさん召し上がって下さい!」老婆

老婆は、皿に目一杯積まれた大量の団子を虚無僧の前に差し出した。

「お〜…これは太る〜」虚無僧

「あの…お僧様。大変失礼かと思いますが、お名前をお伺いしても…」老婆

「私ですか?いや…名乗るほどの者じゃありませんので…」虚無僧

「そうですよね…お修行中の僧者の方にお名前などお聞きしては……」老婆

「莉々です。」莉々

「えっ…?莉々様…」老婆

「はい、それに僧者じゃなくて、これはコスプレです…」莉々

「コスプレ……?」老婆

団子マスターの老婆とコスプレおネェが話している小さな茶屋。

その光景を少し離れたところから、女の子と、三味線ベースおネェと、一匹の馬が見ていた。

「おばぁーーちゃーん!」天音

「……天音ちゃんかい?!」老婆

「会いたかった〜!」天音

「どうしてここに?……あなた方は?」老婆

天音は今まで自分の身におこった事を祖母に説明した。

「そうかい……そうゆうわけなんだね…」老婆

「うん…それで、このオネェちゃんに助けてもらったの。」天音

「ほんに、何から何まで…」老婆

「いえいえ、アタシもお団子食べたいな〜と思って来ちゃいましたのでw」音子

「なら、一緒に食べましょう。お馬さんにも…はい、どうぞ!」莉々

「ヒヒィ〜ン!」ネネ(馬)

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「困ったな、急に加代さんもいなくなっちゃって…麗子さんが三味線引きと尺八奏者を探して来いだなんて…」梅

梅は麗子に人探しを託され街を歩いていた。

「あっ、いい匂いがする〜!お団子だ!」梅

美味そうな団子の匂いにつられ、梅は茶屋へと足を踏み入れた。

「これはね、こうやって弾くの…」音子
(ベン!ベン!)

「へぇ〜、スゴーイ!私のはね、こうして吹くのよ…」莉々
(ボ〜〜!ボォー〜!)

「えっ…」梅

「軽く合わせてみようか!」音子

「うん!」莉々

(ベンベン!ボ〜〜♪♪)

「見つけちゃった……」梅


「お馬乗るの初めて?」音子
「うん!スゴーイ!」莉々
「ブロロ〜ロ〜」ネネ

続く…




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