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「フィクションについて考えさせられる本」3選 FIKAのブックトーク#4

こんにちは、FIKAです。
毎回1つのテーマで数冊の本を紹介しています。

今回のテーマは「フィクションについて考えさせられる本」。
フィクションの力は時に人を救い、時に人を苦しめます。その素晴らしさと怖さを語る本を3冊紹介したいと思います。




「木挽町のあだ討ち」 永井紗耶子

2023年上半期の直木賞受賞作ですが、正直読む前は「あだ討ち物の時代小説?今どき?」とあまり食指が動きませんでした。
でも読んでみたら冒頭から引き込まれる素晴らしい作品でした!

全六幕がすべて「語り」というスタイルになっていて、いろんな語り手が木挽町で起こったあだ討ちについて語ります。

ある雪の夜、菊之助という美しい若侍が父の仇である男を討ち果たしました。その一部始終や、菊之助の生い立ちや人間関係、さらには語り手自身の人生までもが、聞き手に促されるまま次々に語られていきます。

読み進めるうちに読者は
「なぜこの聞き手はあだ討ちの背景を執拗に語らせるのだろう?」
「なぜ語り手の人生についてまで聞くのだろう?」
「そもそもこの聞き手は一体誰なのだろう?」
と疑問を覚えます。

その答えや菊之助があだ討ちをするに至った事情など全てが明らかになった時、思わず感嘆の声を上げました。これは単なるあだ討ち話じゃない!社会の理不尽さにフィクションの力で立ち向かおうとする反骨と抵抗の物語だったのです!

ネタバレするのでこれ以上は言えませんが、
「あだ討ち」という先入観に囚われず、ぜひ多くの人に読んでほしい素晴らしい作品です。



「アイリス」 雛倉さりえ

「木挽町のあだ討ち」がフィクションの力を肯定する本だとしたら、この「アイリス」はそれとは逆に、フィクションの呪いに囚われた人々の物語です。

かつて子役で「アイリス」という映画に出演した瞳介は、その後役者として成功できず高校を卒業する前に芸能界を引退します。
一方、妹役で共演した浮遊子はその後も次々と映画に出演し今や女優として確固たる地位を築いています。
でも二人とも「アイリス」が忘れられず、ずるずるとした関係を続けています。
そして「アイリス」を撮影した監督の漆谷もまたこの映画に囚われていました。

この物語の中で、フィクションとの距離の取り方は人によって様々です。
浮遊子のようにフィクションの中でしか生きられない人、漆谷のようにフィクションを作ることにしか興味のない人、そして自分の気に入ったフィクションをコンテンツとして消費しつくそうとする一般人かや乃。

そのどれもが、普通の人として生きたい瞳介とは相容れません。才能の無さに絶望し、普通の人にもなれず、過去の栄光を消費される苦しみに耐えきれず、瞳介はフィクションの中でしたたかに生きていく浮遊子と漆谷に一矢報いようとするのですが…

現実を呑み込むようなフィクションの魔力に翻弄される人々の悲喜劇をぜひ読んでみて下さい。



「文・堺雅人」 堺雅人

タイトル通り、堺雅人が自らの俳優人生について語ったエッセイです。

堺雅人は高校時代、進学校でガリガリ勉強して将来は官僚になるつもりが、国立大学(多分東大)に落ちて入った早稲田大で演劇サークルにのめり込んだあげく俳優になったそうです。

このエッセイを読むと彼の頭の良さがよく分かります。文章は上手いし、語彙も豊富で、感性も豊かです。俳優としてフィクションと向き合う日々の中で感じた何気ないことを書いてるだけなのに面白い。「演じる」ということをきちんと言語化しています。

「俳優」は役を与えられたら「自分」というフィルターを通してアウトプットするのが仕事です。自分を無にして全てを一旦受けとめるという姿勢は、そのまま堺雅人自身の生き方に通じているような気がしました。

2013年刊行なので「半沢直樹」前夜の堺雅人がどんな日々を過ごしていたのかがよく分かります。いろんな役も演っていてその話もとても面白かったです。



以上、3冊の本を紹介しました。
いやー、「フィクション」って本当に面白いですね。

読んで下さってありがとうございました。

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