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舌打ちが止まらない夜

私には親友3人がいて私を入れて
いわゆる仲良し4人組だ。

もうもうすぐで30年ぐらいの付き合いだ。
その1人の親友の妹が胃がんになった。
胃を全摘するしかないとの見解だった。

そして手術の日。
朝一からの手術で夕方になっても
なかなか親友から連絡がない。
やっと来たLINEがきた。
気持ち焦り手元が狂う。
落としそうになりながらスマホを取って
LINEを開いた。

結果は胃は全摘したが胃から癌細胞が
飛び出してたらしい。
尚且つ、規定ミリ数には満たなかったが
リンパに転移が見られてたと。
これから抗がん剤治療になるらしい。
転移してた事によりステージ2から
ステージ4になったみたいだ。

LINEの文章を何度も繰り返して読む。
胃を全摘も大変な事だけど、
全摘すれば1年後とかには普通の生活が
出来ると聞いていた。
まさか、抗がん剤治療になるなんて
予測していなかった。
怖くて予測しなかったのか。
もう今になってはよくわからない。

もう1人の親友から個別でLINEがきた。
「涙が止まらない。なんでよ。」

私は涙は出なかった。
その代わりに舌打ちが出た。
何度も何度も抗がん剤治療になる、転移の
LINEを目で追って読んでまた舌打ち。
悲しさより、怒りだった。

私は自分の結婚式の2か月前に
父親を肝臓癌で亡くしている。
4年前は母親は乳がんになり両乳房を全摘した。
その後も抗がん剤治療、
現在はホルモン療法中だ。
祖母も祖父も癌だ。
いわゆる完全に癌家系なのだろう。
癌が少し親友達より身近にあった。

親友の妹がこれからあの抗がん剤治療で
戦うと思うと舌打ちしかない。
癌が腹立って腹立って仕方ない。
涙なんて一滴も出ない。
家の中の家事をしながらあの子の事を
癌の事を考えてまた舌打ち。
何ならずっと舌打ちしてる。
パパと息子が不在なのが良かった。

親友の妹は手術室からグルグルの電気毛布で包まられてもガタガタと震えてたそうだ。
名前を呼ぶとうっすらと目を開けてこちらを
家族を見たそうだ。

私は思うのだ。
この手術室から出て来てまだ全身麻酔が完全に切れていない意識で、家族や身内に呼ばれてた時に
うっすら目を開けるのは反射神経とかではなくて、生きる本能なんだと。

父の時も母の時も手術から出て来た時に
家族は名前を呼んだ。
瞼が痙攣しててゆっくりゆっくり目を開ける。
虚ろな目ではあるけれど
目を開けるのは「生きる」「生きたい」と
いう本能の表れではないだろうか。

生きる目的や感覚は人それぞれ違う。
小さいな頃からの夢を叶えたい人。たくさんのお金を稼ぎたくて働いてる人。趣味を楽しんでる人。ただ毎日を一生懸命生きる人。一生懸命生きない人。どうでもいいやと思ってる人。特に夢もないけど毎日楽しく過ごしてる人。
本当に人それぞれ。

でも自分のたった1つの命がかかった状況に立たされた時に人が「生きる」「生きたい」
と感じて1つだけの自分の命を生かそうとする
原動力になるのはやっぱり「人」だと私は思う。
自分を想ってくれてる誰かのため。
自分が想ってる人のため。
心配なあの人ため。
心配してくれてるあの人のため。

最後、結局は「人」なんだと思う。

#エッセイ #本能#胃がん#生きる

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