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1人の少女に創製・投与された核酸医薬

今日は日経バイオテクに掲載されていた記事を紹介したいと思います。日経バイオテクは新しい知識を得るために購読していますが、日経バイオテクを読んで感動したのは初めてだと思います。
タイトルは

『1人の少女に創製・投与された核酸医薬、希少疾患のビジネスモデル模索する母親』
執筆は久保田氏。

これはMilaという少女とその母親Juliaさんのお話しです。

Milaさんが6歳の時にバッテン病と診断されました。Milaさんのタイプのバッテン病で生き延びた患者さんはこれまで1人も居ないそうです。そして医師の予想通り6歳から7歳になる1年間で、
・一歩も歩けなくなり、
・口からものを食べれなくなり、
・発作がどんどん増えてきた
そうです。

Milaさんの母親であるJuliaさんはBoston Children’s Hospital の研究チームを通じて米食品医薬品局(FDA)にMilaさんの病状が急速に悪化していることを伝え、未承認の核酸医薬を使った臨床試験が行えるように働きかけました。

この核酸医薬はMilasenと名付けられました。既に脊髄性筋萎縮症(SMA)の小児患者に対し承認されている「スピランザ」(=ヌシネルセン)と同じ骨格を持つアンチセンス核酸でスプライシングを制御する機能を持ちます。

スピランザは当時は唯一、髄腔内注射で脳に到達するアンチセンス核酸で、非常に成功した治療薬と考えられていました。実際にSMAの小児患者で2歳で亡くなると言われていた小児患者が6歳、7歳になっても走り回っているような成功例が知られていました。Mila さんから採取した細胞を用いた実験でMilasenが良く作用したデータが得られ、このデータもFDAに送られました。

Milaさんは7歳の時からMilasenの投薬を受け始めました。治療が始まってすぐに発作がほぼ消え、完全ではないものの口から食べられるようになり、また、床に弟と一緒に座ることもできるようになったそうです。

しかしながら、投与を開始した時点で既に進行してしまった病気には勝てず、2021年2月にMilaさんは10歳で亡くなってしまいました。

JuliaさんはMilaさんが受けることができた個別化医療を他の小児患者も受けられるようにするにはどうしたら良いかを模索しています。

希少疾患の支援団体であるGlobal Genesのデータによると、希少疾患の小児患者の10人に3人は5歳未満で亡くなるとのこと。ひと昔前は、そのような患者を検査して原因遺伝子の異常を見つけ出すことも治療することも出来なかったが、今では検査法が確立され、希望すれば出生時に検出することが可能になっている。また、対象者がごく僅かであっても治療薬を設計する技術自体は確立されている。

しかし、そうした患者が実際に治療にアクセスできるかは運次第だと言います。患者数がある程度多い疾患の患者であれば、その疾患の治療薬を開発する製薬企業が存在するでしょう。

あるいは非常に意志の強い母親や父親、あるいは研究者や医師と出会えれば、そのような治療に辿りつけるかも知れない。例えばMilasenを創製したBoston Children’s Hospital のTimothy Yu博士は医師として専門家を募り、1人の小児患者のために1,000ページもの文書を作成し、規制当局に提出し、Milaさんは治療を受けることができるようになりました。

Juliaさんは、より多くの患者が個別化医療を受けることができるようになるには、一つ目の条件として規制のパスウェイを変える必要があると考えています。具体的には、現状では特定の希少疾患に対応する特定の核酸医薬ごとに毎回立ち止まって規制当局が承認することが必要ですが、そうではなく、プロセスベースで承認が得られるようにすることが必要だと考えています。

もう一つの条件は費用面についてです。Julia さんは治療薬を保険適用できるように変えていく必要があると考え、2020年にEveryOne Medicinesというスタートアップを設立し、学会や産業界を巻き込んだモデルの構築に邁進しているそうです。

既にFDAは重篤で予後不良な患者に限定し、1人あるいは数人の個別の患者に対して非商業目的で核酸医薬を開発して臨床試験を実施するためのガイダンス案を発表しています。また、日本や欧州でも、同様の枠組みで治療をするための検討が始まっているそうです。

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/100400036/032800022/

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