彼女との会話(続)

「ねえ」

長かった夏が終わりを告げ、漸く秋を感じられるようになった今日この頃。僕は、彼女と御堂筋沿いを散歩していた。一時間ほど歩いて少し汗ばんだ肌に、冷たい風が心地良い。

「なに?」

「なんで、恋人って手繋ぐのかな」

僕は自分の掌を見た後、続けて彼女の右手へと視線を移した。なるほど。そういうことか。ほら、とこれみよがしに左手を差し出す。

「なに?」

怪訝そうな顔で、彼女が僕の手と顔を見比べる。あれ?

「いや、繋ぎたいってことだと思ったんだけど、違うの?」

「一言もそんなこと言ってないけど」

これは……照れ隠し……ではないな。本当に質問しただけみたいだ。ばつが悪いやら恥ずかしいやらで、僕は行き場を無くし空を切った手をさり気なく引っ込めた。

「ただのスキンシップじゃないの?」

「わざわざ外でやる必要あるの?」

彼女は、100メートルほど先を歩いているカップルを指差しながら続ける。

「当にあれがそう。家でやればいいじゃん」

「まあ、そうだけど」

「私の推理では、外で手を繋ぐことには二つの意味がある」

急にどうした。

「急にどうしたの?」

「まず一つ目が、威嚇。『これは自分の恋人です。だから手を出すなよ』っていう意味の」

僕を無視して、彼女は続ける。

「要は、子供がお気に入りの玩具をずっと手放さずに持っているような感じかな。少しでも目を離すと、奪られちゃうかもしれないじゃない。そういうやつ」

「かもね」

何と言っていいのか分からず、僕は生返事を返す。

「二つ目」

彼女はピースサインを僕の眼前に掲げる。

「恋人を逃さないために繋いでるの。例えるなら、鎖というか、手錠というか」

「なるほど」

なんというか、殺伐とした考え方だなぁ。好きだから。相手に触れたいから。だから繋いでる。それでいいと思うけど。

「だから、僕と手を繋ぐのが嫌だったの?」

「え?」

「いや、だって今まで繋いだこと無いじゃん」

「いや、それはまた別の理由」

「別の理由って?」

「いや、その……」

彼女は口ごもりながら、一瞬だけ横目で僕の手を見た。いやに歯切れが悪い。率直な彼女らしくない。これは……そういうことだよな?

なんだ。やっぱり、繋ぎたいけど恥ずかしがっているだけなんだな。可愛いとこあるじゃないか。

彼女の新たな一面を発見して、僕は嬉し

「手汗が気持ち悪い」

「……」

僕は悲しくなった。


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