Web小説発掘記 その185 千夜一夜の転生英雄譚 ― 織物職人バタルと不死身の魔人 ― 作者 入鹿なつ様

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前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。

あらすじ

織物職人の長男バタルには、身に覚えのない別の人生の記憶があった。

《かしこまりました。 “ シディ ” 》

記憶の中にある死の直前に聞いた、誰とも知らぬ女性の声。

その正体を求めて暮らしていたある日、町に巨大な鳥が襲来し、妹ファナンが連れ去られてしまった。
自身も重傷を負ったバタルは、空飛ぶ絨毯を操る金髪の青年魔法使いジャワードに命を救われる。

「ぼくの顔が珍しいかい」
「……白人(アフランジ)も、本物の魔法使いも、初めて見た」

バタルはジャワードを供とし、妹ファナンを探す旅に出る。

行く手を阻む、四十人の盗賊に、人食い巨人。
困難な旅の中、出会ったのは伝説の大魔法使いスライマンが残した不死身の魔人たち。

「わたくしはスライマンが作りし指輪の魔人。下僕(しもべ)となり、願いを三つ叶えます」

繋がっていく、記憶の謎。
妹の行方を追い、辿り着く真実。
スライマンの魔人に導かれ、若者は悪へと立ち向かう。


魔人と絆を結ぶ、アラビアン転生冒険活劇。

これは、乙女がいまわの戯れに語りし、名もなき勇者の物語。

ストーリーと見所

アラビアンナイトの異世界を舞台にした異世界転生ファンタジー小説。
筆者はアラビアとエジプトの違いもよくわかってないが、まぁ大丈夫だろう。ラムセスⅡ世がエジプトでサラディンがアラビアだろ?(Civ脳)

と、そんな与太は置いておくとして、物語の入りはもうアラビアンナイト……的な話としては完璧と言っていいだろう。これがしかも後の伏線となっており、それが回収されるときの鳥肌と言ったらもう……!!

とまぁ、興奮のあまり色々と語りそうになってしまったがその辺りは本編をどうぞと言った感じで。

お話としては最初にも語った通り、アラビアンな世界観のファンタジー小説となっている。現実ではなく、あくまでもそんな雰囲気が舞台の世界で、魔法などもあったりする。

各所でそう言った世界観を表現するための描写がされており、作者さんの技術が高いのもあってかエキゾチックな雰囲気に存分に浸ることができた。

ちなみに内容としてはライトノベルと言うよりは文芸方面に近い。さりとてそこまで堅苦しくもなく、所謂ライト文芸と言うやつなのだろうか?とにかくそんな感じ。

ストーリーは街を襲ったロック鳥に妹を攫われた主人公が助け出すために街を文字通り飛び出して、その途中で出会った魔法使いや道具に封じ込められた魔人達と旅をする。そしてロック鳥が街を襲うなどして暴れているその裏に隠された真実に辿り着いて……。

ロック鳥ね。うん、ドラクエモンスターズでお世話になったわ。

と言った感じのストーリーになっている。各種道具に秘められた魔人達もそれぞれ三つの願いを叶えてくれたりと、実にアラビアンナイトなテイストになっていたその辺りはかなり凝っている。

千夜一夜物語になぞらえたようなエピソードも数多く用意されており、知っていればなおのこと楽しむことができるだろう。

とは言っても専門知識が必要かと言われるとそんなこともなく、割とライトなそれ系の物語……筆者は見たことがないが恐らくはディズニー作品などをある程度見ていればわかるような有名なお話が多い。

ちなみに筆者はディズニーはあまり見ないが、その代わりにドラビアンナイトを履修しているので抜かりはなかった。

物語として特筆するべき点としては、文章の上手さと伏線だろうか。

さりげなく張られた伏線が多く、回収される場面で「おっ!」と思わせてくれるような仕掛けが目立つ。また文章に関しては描写力は抜群、そこに関しては後でちょっと苦言もあるのだが、基本的にはいい方に作用している。

特にあまり場面自体は多くはないが、細かい部分まで書き込まれながらもスピード感が失われていないアクションシーンに関しては本当に素晴らしい出来となっている。

またキャラクターに関してもしっかりとキャラ立ちがしており、話の長さの割にはそれなりの登場人物がいるがほぼ全員が強い印象を残せているのも魅力の一つ。

特に主人公は割とシンプルなキャラクターの造りでありながら、好感が持ちやすく物語に入り込みやすい要因の一つとなっている。

キャラクター紹介

バタル

物語の主人公。
実は異世界転生者。物語の途中ではそれは半ば忘れられた要素になっているが、最後の最後で効いてくる。そう来るとは思わないじゃん……!!

かなり好感が持てるいい男で、かなり理想的な主人公ムーブをしている。多少無鉄砲にも見えるがそのぐらいの方がかえって魅力的と言うものだろう。

物語の構成自体は割と女性向けなのだが、この男のキャラクター性だけで男性が読んでも面白い作品になっていると言っても過言ではない。
と、そのぐらいべた褒めしたくなる男。なんでだろうね?不思議!

まぁ、真面目にちょっと理由を語っておくとかなり馬鹿素直に主人公しているからだろう。

行動力があって、多少無茶をして心優しいと、王道を詰め込まれたようなキャラクターなのでとても読んでいて気持ちがいい。

ジャワード

魔法使いの青年。
序盤に主人公を助け、そこから同行者となる。

仲間になった早さとは裏腹にちょっと印象が薄い人物。

恐らく結構気合を入れて書かれているキャラクターではあるのだろうが、ちょっと伝わり切らなかったかなと言った印象。
その辺りに関しては読み手が物語に求めているものの関係と言った節もあるので、意見がわかれるところだろう。

個人的にはもっと色々して欲しかった感が強い。

まあ色々言ったがラストはかなり好き。

ゼーナ

物語のヒロイン。
指輪の魔人。

うむ……うむ(言葉は要らない)

が、しかし欲を言えば彼女と主人公のやり取りがもっと欲しかったかも知れない。(ただの欲望)

総評

評価点

丁寧且つ大胆な伏線や物語作りが印象的な小説。
最初は目立たず、そのまま消えそうになった要素が回収されたときは鳥肌ものである。

キャラクター紹介の点には敢えて書かなかったが、ラスボスも凄くよかった。特に名前が伏線になっていると気付いたときにはもう……!!

またキャラクターに関しても紹介した他にも魅力的な魔人達が登場する。時に二章の終盤に出てきたある人物からのワクワク感が凄い。

キャラクター同士の会話における台詞回しも上手く、キャラとしての強さを補強する要因となっている。

問題点

描写自体は上手いし綿密なのだが、ちょっとばかり細かすぎる部分があるのが難点。

基本的にキャラクターが登場して会話をしているときはテンポもよく楽しめるのだが、そうでないときは若干冗長気味。

そう言った理由もあって、面白い部分とダレる部分の落差が大きい。

上にも書いた通り戦闘シーンなどは本当に面白く書けているので若干の勿体なさを覚える。

最終評価 59点(Web小説としては充分な良作)

伏線を含めた丁寧に展開されるストーリー。そしてクライマックスではそれらがダイナミックに躍動することで、読んでいてかなりの興奮を覚えることができる良作ファンタジー。

筆者の見分が狭い所為もあるが、あまり読む機会のない世界観だがするりと入り込むことができた描写力もお見事。

異世界転生やアラビアンナイトなど、散りばめられた要素をしっかりと利用している物語の構成力もかなりのものがある。
ストーリーの雰囲気としてはやや女性向け寄りだが、冒険パートは男性が読んでいても充分に面白いと思えるレベル。

ファンタジーが好きなら、特に一風変わったファンタジーを求める人なら間違いなくハマれる小説。

所要時間はお余ぞ1時間30分ほど。

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