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アクアマン【映画感想】

 こちらの記事に興味を持って頂きありがとうございます。まずネタバレなしの感想はこちらです。

■どんな映画?

  • 「DCエクステンデッド・ユニバース」作品群の一作。ジャスティス・リーグの一員であるアクアマンの単独主役作品。物語としての繋がりはあるようだが単独でも楽しめる。

  • ヒーロー映画の枠組みに収まらない多様なジャンルの要素を詰め込んだ、豪快かつ王道の娯楽映画。

■良いところ

  • ダイナミックなアクションだけではなく、海洋冒険など様々なジャンルの要素を盛り込んだ事による間口の広さ。

  • CGをフル活用した世界観描写と、アクアマンを始めとした魅力的なキャラクター、そして王道で見事な着地を見せるストーリー。

■良くないところ

  • 序盤はやや退屈。また全体的に荒唐無稽なのは否めず、これに適応できないと陳腐に感じてしまうかもしれない。

  • アクションシーンは良いとこもあるが目立って悪いところがある。

■あらすじ

 ある嵐の晩。灯台守のトムは海岸に流れ着いた不思議な雰囲気の女性を救う。海底の王国アトランティスの王女と名乗り水槽の金魚を平らげるその女性アトランナに驚きつつもトムは彼女との絆を育み、二人の間にはアーサーという子どもが生まれるまでに至る。
 しかし、元々政略結婚から逃れ地上へ来たアトランナは、彼女を連れ戻そうとするアトランティス人に追われており、夫と子どもに危害が加わることを恐れた彼女は再会を約束しつつも故郷との交渉の為に海へと戻ることを選択するが、彼女が帰ってくることはなかった。
 それから数十年の時が経ち、アーサーが地上の人々から「アクアマン」と呼ばれるようになった頃、当代のアトランティス王にしてアーサーの異父弟オームは地上からの先制攻撃を口実に地上への侵攻を計画。その足がかりとして海底に住む7つの国からの承認を求めるが、全ては海の王者の座を狙う彼の自作自演であった。
 故郷アトランティスと地上文明の衝突という最悪の結果を避けるため、7つの国の一つゼベルの王女メラの頼みを受けたアーサーは、海の王たる証である伝説のトライデントを探す旅に出るが、彼の前にオーム、そして打倒アクアマンに執念を燃やす海賊ケインが立ちふさがる。

■感想など

 先に白状しておくと、DCEU関連作品は「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」までしか観ていない。一応「スーサイド・スクワッド」二作や「ピースメーカー」は見ているんだけど、そのくらいの知識しかないことを踏まえてお読みください。ちなみになんでそこまでしか見ていないかというと、BvsSが当時あんまり好きになれなかったってのが主な要因。
 あともう一つ白状するけど、「ブラック・パンサー:ワカンダフォーエバー」におけるネイモア関連の描写について考えをまとめる参考として本作を視聴したかったというのもある。単純な優劣はつけられるものじゃないが、同じ海を舞台とするヒーローということで比較し参考にするくらいは(あまり露悪的な書き方さえしなければ)してもいいと思うからね。
 だから本当に本作のエンターテイメント性というか娯楽としての面白さには驚かされた。これめっちゃ面白いじゃん!なんで誰も教えてくれなかったの!?という冗談はさておき、ただでさえ、ジャスティス・リーグ関連は追っていなかったし、どうもジェイソン・モモア演じるアクアマンの姿格好や海底に沈む超文明のきらびやかさが、どっかのマイティなサーファーくんと被っていて、その点でも少し敬遠していたのだと思っている。

 確かに、ある王国の王座を狙い野心に燃える弟と、地上の人々との共存を願うマッチョな兄の激突という点でも似ているとは思うのだが、その点を制作側も分かっていたのか差別化のために多様なジャンルの要素が盛り込まれていて、まずこれが本作の良いところの一つ。

 本作の物語の主軸は、アクアマンがトライデントを手に入れるまでの冒険の中で、王にふさわしい者になるまでの道程だと思うけど、そのために様々な国やロケーションを巡り隠された秘宝に繋がる謎を紐解いていくという流れが「インディ・ジョーンズ」あるいは「パイレーツ・オブ・カリビアン」のような冒険ものを彷彿とさせていた。
 しかもただ冒険もののエッセンスを加えるのではなく、地上の文化を野蛮と考える海底の王女が陸の豊かさに触れて態度を軟化させるという展開にも繋がっていて合理的に作られている印象を受けた。更に言うと、超人が主人公とは言え秘宝の番人の怪物に追われるシーンも冒険ものらしい展開だよね。個人的にはモンスターパニックっぽいなとも思ったけど。「お次はなんだ?」
そしてその先に待つのが地球に残る最後の秘境とでも言わんばかりの摩訶不思議なロケーションで、この場所にもただ秘宝の在り処という以上の物語の根本に関わるギミックが用意されていたりと、本当に合理的で退屈させない工夫がされている。

 ただ、こういった物語のギミックを活かすための説明に序盤の多くの時間を割いていて、最初の15分程度はやや退屈だったのは否めない。個人的には映画に入り込めるかは最初の10分にかかっていると思っているので、ちょっと勿体無いと思った。
 トムとアトランナの出会いというのは大事なシーンではあるけど、潜水艦のシーンを先にしてアクションとブラックマンタの因縁の始まりから描くというのもありだったのかな。そうすれば海賊の親子という点とアーサーとトムの親子という点をスムーズに結べるような気がする。ただ、アクアマンのモノローグから入るにはああするしかないかなぁ。
 そしてもう一つ、本作の全体、というかDC関連作品の殆どにも共通していることでもあるんだけど、コミックのアイコニックなものを忠実に実写化しようとしているせいなのか、割りと荒唐無稽な描写も多くて、これを許容できるかで評価は変わってきそう。

 ちょっと話がそれるけど、本作を始めとしたDCEU作品とMCU作品を分ける一つの考え方として、こちらは「ファンタジー」であちらは「サイエンス・フィクション」という風に見てみるのは面白いと思う。
 ソーの一作目で「俺は科学と魔法が同じ意味を持つ世界からやってきた」という旨の台詞があるけど、その通りMCUにおいては荒唐無稽に思われる出来事でも、大抵は何らかのロジックが存在していて、明確に「魔法」と言われるものすら鍛錬と座学で体系的に習得できるようになっているんだよね。
 一方のDCではこのロジックがない。とは言わないけど、あまり深く説明することはせず「そういう種族、あるいは能力だから」とシンプルに片付けることが多いように思う。良い悪いで単純に区別できるものではないけど、これが荒唐無稽に感じてしまう理由の一つなのかも。

 ただ、本作の場合これが明確に良い方向に働いている面もある。その一つが水中の描写だと思っていて、本作の水中世界は「光源が少なくても色彩を豊かに捉えられる」というアトランティス人の目から見た世界になっているので、本来は暗いはずの海の中でさえはっきりとものが見えるし、色彩もかなり豊かになっている。こういう描写に関しては、色々と理屈をつけるより勢いに任せて観客に見せてしまうというのも大いにありだと思う。
 最初に挙げた「ブラック・パンサー:ワカンダフォーエバー」のタロカン帝国の描写は基本的に暗い世界はそのまま薄暗く、登場人物の持つ光源でスポットライトを当てたり、深海の中に太陽を技術的に作り上げることで照らし出すということをしていたね。
 比較してみると懐中電灯で照らし見るのと、サーモグラフィティカメラを覗くことくらい違う表現になっていると思う。正直、本作を視聴する前の印象では熱帯の鮮やかな海だけが舞台なのかと思っていたから意外だったし、こういう意味で予想を裏切ってくれる映画は結構好き。

 CGをフル活用した水中の描写はすばらしい幻想世界を作り上げているというのはここまでで触れたけど、本作は舞台だけではなくそこで動く登場人物や、ストーリー自体もすごくいい印象だった。
 まず登場人物に関してだけど、最初に登場するアーサーの両親から始まって、酒場で絡んでくるバイカー、最後に登場するバカでかい怪物まで割りと好人物ばかりなんだよね。特に、ストロングで粗暴な印象をあたえる一方で、口を開くと育ちの良さというか人の良さがにじみ出るアクアマンことアーサーのキャラクターは本当に良くできている。
 最初の海賊親子とのシーンで、助けを求める相手を見殺しにするのはちょっとどうかとも思ったけど、他の生き残りを優先するというフォローがされていたし、本人もブラックマンタとの戦いの後で思い返して深く後悔する様子も見せ、そもそも出自から本当に王座に自分が就いてもいいものかと悩みつつもやるときはしっかりと決める。という感じで娯楽映画の主人公としてはケチのつけようがない造形だったと思う。

 流石にヴィラン側も好人物ばかりというわけではないんだけど、件の海賊の息子で、オームとの手を結びアクアマンに立ち塞がるブラックマンタは、自業自得とはいえアクアマンによって父親が殺されるという強烈かつ、父親の為に戦うという点でアーサーと同じ動機づけがされているのも面白い。
 ただ、彼の父親が死んだ状況については、親父の手から手榴弾をもぎ取るとか、もう少し水が溜まってから魚雷を持ち上げるとか、何か棒として使えそうなものを探すとか、本気で助けたいなら幾らでもやりようはあった気もする。
 あるいは本人もそれを分かっているからこそ、自分のせいで父親が死んだことを受け入れられずアクアマンに責任転嫁しているのかもしれない。まぁ同情は一切出来ないんだけど、なんとなく理解は出来るという絶妙なキャラクターになっていると思うし、あの頭でっかちスーツを作る時のエンジニアシーンを見るとなんか嫌いになれない。あぁいう「絶対スタッフこれやりたかっただけだろ」って感じのシーン好きなんだよね。
 余談だけど、ブラックマンタが崖から落ちていくシーンのカメラワーク結構好き、スーツを着せたマネキンにアクションカムか何かくっつけて本当に落としてるのかねあれ、こういう力業な特撮は本当に大好き。

 良い舞台と好印象な登場人物が揃った本作、最後にストーリーはどうなのかという話になるけれど、これも単体の娯楽映画としてかなりいい進め方と着地をしてた。すごいのは、本作はメイン級のキャラクターは一人も死なないし、何かを失うこともないという点。
 まず個人的な意見としては、お話が壮大になればなるほど、誰か大切な人が亡くなったり、大事なものを失うという展開はあって然るべきだと思っていて、それがないとなんというか現実味がないような気がするんだよね。簡単に言うと「大いなる力には大いなる責任が伴う」ってやつ。
 本作はそれがないにも関わらず、というか死んだと思われていたアトランナが生きているというそれ以上の展開をお出ししてきたにも関わらず、ご都合主義っぽさだとか嫌味っぽさよりも先に、素直に生還していた事に驚きと嬉しいという感情があった。
 決戦においても、回想で描かれていた「幼い頃のアーサーに対して、師匠であるバルコが使った操る水を防御の戦法を、アーサーがオームに対して行う」という決着の付け方も、アーサーの成長を描く本作の展開の集大成と言える内容でよく出来ていたと思う。あの回想シーンを見ているから観客もバルコと一緒に心のなかでガッツポーズできるね。

 アクションシーンに関しては水を蹴り飛ばすかのような瞬間的な加速と、地上人以上のパワーを誇るアトランティス人たちの激突はダイナミックで見ごたえあるし、動きに合わせて細かに動く髪の毛や装飾品や、ブラックマンタスーツを崖から落としたり、水を使った戦闘など面白い部分も多々あるんだけど、ちょっと違和感を感じるようなものも多かった。
 具体的に言うとスローモーションに頼りすぎなんだと思う。高いところから着地をしてスローモーション、殴りかかってスローモーション、インパクトの直後にスローモーション、みたいな感じ。スローモーションは確かにいい視覚効果だとは思うけど、やりすぎるとくどい、この段落と同じくらいくどい。わかるよね?スローモーション!(ダメ押し)
 なんとなく「マトリックス」以降から「マン・オブ・スティール」の頃、つまり今となってはやや古い作品の影響を大きく受けている感じ。もちろん個人の好みではあるし、本作のCGの出来や水中が舞台の大半という設定を踏まえれば、アクアマンの世界ならではの動きを楽しめるという点で価値はあるのだけど、そういう良さよりもくどさが目についてしまった。

■まとめ

 ジャスティス・リーグの一員であるアクアマンを主人公に据えた本作は、プロットこそ超テクノロジーを持つ国の王座を巡り兄弟が対決するというやや既視感のあるものですが、様々なジャンルの雰囲気を取り込んだり、豊かなロケーションと凝ったCGで観客を飽きさせない力を持っています。
 ストーリーに関して、王道のプロットに加えて特徴豊かで好感の持てる登場人物たちも特徴の一つ。特にジェイソン・モモアが演じるアクアマンは見た目の印象だけでは図りきれない奥深さがあり、娯楽映画の主人公としては好印象です。
 難点としては「マン・オブ・スティール」から続く独特の戦闘シーンは本作でも健在で、これが好きかどうかで評価も分かれるかもしれません。個人的にはスローモーションが多すぎるように感じましたが、水中というシチュエーション特有の動きを楽しめるので悪い事ばかりではないです。
 一応「ジャスティス・リーグ」の関連作品ですが、他のヒーローの登場などもなく終始一貫アクアマンとアトランティス関連でお話が進んでいくし、物語自体もよく纏まっていて着地点も良かったです。クロスオーバー前提の作品も良いのですが、本作のように単独作品としての完成度と密度が高く気楽に楽しめる映画の存在も忘れてはいけないですね。

■余談

 今回の見出し画像について、カラーリングは四色、青、緑、黄色が二色で、海とアクアマン、トライデントをイメージしています。
 左下と右下に描いているマークは、一応アクアマンの入れ墨をモチーフにしたものですが気づきましたか?集合体恐怖症の方にはちょっと申し訳ないと思いつつも作りたくて仕方がなかったので入れました。
 あとはタイトルの「A」だけ別色になっているのは、一応トライデントの矛先をイメージしています。本当はトライデントのシルエットを入れたりしたかったんですが、ちょっと手間がかかりすぎるので断念しました。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。今回はここまでとします。またご縁があればどうぞよろしくお願いします。

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