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【第2章】ラジオパーソナリティの大人の恋の進め方

次の日学校で詩織は、興奮した様子で爽の机の前の席に座った。

「爽!昨日の綺麗な人誰?親戚?」

爽は肘を机につき、めんどくさそうに呟く。
「父の大切な人」

「じゃあお母さんになるの?」

「知らない。俺関係ないから……」

詩織は不思議に爽の顔を覗き込む。

「爽はあの人嫌いなの?」
「そうじゃないけど……」

詩織は、爽が不満そうな顔をして、机に寝そべるのを見つめる。

「あ……お母さんは1人だけとか?」

爽は居心地が悪く寝そべったまま顔を隠した。

「当たり?まぁ確かに1人だけどさ。お父さんはあの人の事好きなんでしょ?別に爽のお母さんの変わりって言われたわけじゃないんだし、私なら分けて考えるかも……」

爽は顔をあげ詩織を睨みつけた。

「わかってるよ!だから父に好きにすればいいって言ったし」

「じゃあ何でそんな顔してるの?」

また爽は顔を机に伏せ寝そべる。力無い声が聞こえた。

「母さんは1人だけだって言った……」

詩織は、爽を見下ろし頷きながらため息をついた。

「そっか……爽も少し後悔してるんでしょ?しょうがないよ。難しい問題だよ」

爽はあれから罪悪感が芽生え心に引っかかっていた。

別に父と付き合わないで欲しいとは思っていなかった。ただ、母さんは1人なのに2人になると考えれば母さんを否定された気持ちになる。

ただ、俺の一言できっとあの2人はいい方には向かわないとわかっていた。時間が経てば経つ程、それが罪悪感に変わる。

幼馴染の詩織に指摘され、何だか少し冷静になれた。確かに大切な人と紹介されただけで、結婚するとは言われなかった。後々そうなるかもしれないが、やはり俺は父の付き合いをも否定した事になる。

家に帰ったら父と少し話しをしてみようと思った。

桜愛は20時頃、空き時間にラジオ局の屋上で夜景を見ながら、陸とのあの日を思い出していた。

そして思いきって電話をかると、すぐに愛しい人の声が聞こえた。

「桜愛、何回連絡しても出ないんだもん。大丈夫だった?食事会ごめんね……。また仕切り直ししよ?」

桜愛は電話の向こうから心配する温かい陸の声を聞き、涙が溢れる。

「大丈夫。陸ごめん……。陸にも爽くんにも嫌な思いさせた……」

「何言ってるの?桜愛のせいじゃないだろ?」

「陸……もう別れよう。私達2人だけの気持ちだけじゃ付き合えない……」

陸は桜愛の言葉に何も言えなくなった。
無言の電話には、風の音が聞こえる。

「陸……大好きだった」
「桜愛…大好きだよ……」

溢れでて止まらない涙が陸にばれないように冷静を装う。

「陸……ありがとう。さよなら…」
「桜愛……」

桜愛は陸が何か言いきる前に電話を切った。そして涙が止まらず声を出して泣いた。

陸は電話を切ると、車を降りて自宅のドアを開けた。
陸もまた桜愛との別れに心が追いつかない。無言で帰宅した。リビングにいた爽は、表情も暗く何も話さず肩を落としている父を見て悟った。

ーー俺のせいで桜愛さんと別れたのかな?

食事はいらないと足速に父は部屋に入る。
あんなに落ち込んでる父を始めてみた。爽は胸が痛んだ。

数日すると、父も表情は少し明るくなったが、無理をして笑っているのは見てとれた。

食事量も少なく、別に俺に文句を言ってくるわけでもない。気を使われているのがわかる。

「爽……この前の桜愛さんの事は忘れていいぞ。母さんは1人だけだもんな。ごめんな。もう大丈夫だから」

微笑みながら俺を見る父は悲しそうな目をしていた。

「どういう事?桜愛さんと別れたの?」
「お前が気にする事じゃない。振られたんだよ」

「俺のせい?」
「お前のせいじゃない。父さんのせいだ。だから気にするな!」

父は食欲もないのに、から元気でおかずを沢山食べる振りをする。

俺は罪悪感でたまらなくなり父を見て涙が溢れた。

「別れる事なかったんだよ……俺は母さんが1人しかいないって言っただけで、父が好きな人の事我慢する必要ないだろ?俺のせいで、父が幸せになれないの辛いよ……ごめん……」

陸は、涙を流す爽の頭を撫でる。
「ごめんな。俺が元気なかったから、自分のせいだと思わせてしまって。これは俺が悪いから爽はもう気にするな!大丈夫だから」

「俺桜愛さんも傷つけた……。桜愛さんてどんな人?」

爽は、全く知ろうとしなかった桜愛の事が急に気になり始めた。

「桜愛は俺の初恋の人。勇気がなくて告白も出来なかった」

「そうだったんだ……桜愛さん大丈夫かな?」

「あいつは大丈夫だよきっと……。あ!桜愛はラジオのパーソナリティなんだ。お前知らない?30 minutes left ?」

番組名を聞き一瞬で爽は顔色が変わった。

「え?あの桜愛さん?俺よく相談メールしてた!……何だよそれ……」

爽は、前から桜愛の事を知っていたのに、1ミリも受け入れなかった自分に呆れ、自笑した。

それを見た父は、いつもの優しい笑顔になっていた。
久しぶりに2人で声を出して笑った。

あれから桜愛も落ち込んでいたが、仕事に穴はあけられず、気力のみで仕事をこなしていた。

今日も何とか仕事を終え、ラジオ局を出ると爽が壁にもたれて待っていた。
桜愛と目が合うと爽は会釈をし、桜愛の方に近づいてくる。

「少し話しをさせて下さい」
桜愛は頷き目の前の公園のベンチに並んで座ると、すぐに爽は桜愛に頭を下げた。

「桜愛さん。この前はすみませんでした。俺、自分の事しか考えれなくて……。俺のせいで父と別れたんでしょ?父のあんな顔見た事ないくらい落ち込んでて。父には幸せになって欲しいと思ってたのに、あんな顔させてしまった。より戻してもらえませんか?」

桜愛は爽に弱く微笑みかける。

「爽くんのせいじゃないよ。気にしないで?よりは戻らないよ。こうなる運命だったんだと思う」

爽は肩を落とし困った顔をすると、スマホが鳴る。液晶には父と表示された。

「爽、どこにいるんだ?帰ってこい!」
「今桜愛さんと一緒」
「え!?」

電話の向こうから素っ頓狂な声が漏れ聞こえた。
爽と桜愛はおもわず顔を見合わせ笑った。

電話を切ると爽はもう一度桜愛に語りかける。

「今から父が迎えに来ます。もう1度だけ話しあってもらえませんか?もう父の事嫌いですか?」

桜愛は大人びた爽を見て困った顔をした。
「嫌いじゃないけど……」

桜愛は子供の爽に心を読まれている気がして思わず下を向いた。

「桜愛さん……僕、人の心読めるんです。だから2人の気持ち実は知ってるんです。僕、桜愛さんのラジオによく相談のメールしてました。父より相談してたと思います……」

桜愛は、何だか聞いた事あるフレーズに一瞬固まり、何かを思い出したようで、爽を指差した。

「え?え?!サトリの爽さん?」

爽は返事はせずにニヤニヤと笑って桜愛を見る。桜愛は両手で口を押さえて、驚きを隠せないでいた。

暫くして陸が2人の前に現れた。爽は陸に目で合図を送る。

すると陸は桜愛の側に行き、抱きしめ耳もとで囁いた。
「桜愛……辛い想いさせて悪かった……」

桜愛は陸の優しさを感じ涙をこらえ身体が震える。

爽は2人をチラッと見て微笑み、車に向かって歩き出す。
「父さん俺車で待ってるから頑張って……」

父と桜愛に背を向け歩きながら手をひらひらする。自然と笑みがこぼれていた。

陸は桜愛と見つめ合い、抱きしめる手を強める。
桜愛に自分の想いをのせてキスをした……。

そして2人は見つめ合い微笑んだ。

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