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連載小説 奪われし者の強き刃       第3章14話 「決着 李の『ギフト』」

中央南部に現れた八部鬼衆と対峙した冥々は、薜茘多の展開した黒い影のようなものに包み込まれていた。

 冥々:
 「なんだか気持ち悪い空間ね。それに、なんだか体が重い。」

 鳩槃荼:
 「よそ見してる場合じゃねぇぞ。クソあまが!」

冥々は鳩槃荼の攻撃をなんとか避けたが、明らかに先程までの動きができてなかった。
「疫病の間」は薜茘多が投げた杭の範囲内にいる薜茘多が敵と判断した相手の身体能力を低下させる結界術である。薜茘多との実力差によって身体能力の低下率が決定し、圧倒的な差があればほぼ100%低下させることができる。冥々の場合は約35%減となっていた。

 冥々:
 「動きが悪い。この空間自体がデバフを付与するってわけね。」

 鳩槃荼:
 「随分とボーっとするのが好きみたいだな。」

 薜茘多:
 「そうですね、そうですね。このまま息の根を止めて差し上げましょう。」

薜茘多と鳩槃荼はめいめいに向かってゆっくり歩み寄ってきた。目前まで近づいた瞬間、「疫病の間」にひびが入った。

 薜茘多:
 「なぜだ、なぜだ。『疫病の間』は私が解除しない限り壊れないはず。」

ひびが全体に入り、硝子のように割れた。一気に陽の光が入ったことにより冥々と薜茘多らは一瞬目をつむったが、だんだん見えるようになり薄く目を開けるとそこには李が立っていた。

 李:
 「冥々、大丈夫カ。」

 冥々:
 「師団長。なんでここに?」

 李:
 「林杏ノ所に冥々の隊カラ隊長ト連絡ガつかないト報告が入ってナ。林杏は今別件デ手が離せないカラ俺が代わり二来た。」

 冥々:
 「そうだったんですね。大丈夫です、少しだけ苦戦しただけです。」

 鳩槃荼: 
 「おい、お前師団長だな。それもかなり上位の強さだ。見ただけでわかる、鍛え上げられた肉体に隙のない立ち姿。相当な死線をくぐってきてる。お前俺と戦え、お前なら本気で楽しめそうだ。」

鳩槃荼は嬉々として李に近づいていった。

 李: 
 「冥々、あいつラは『八部鬼衆』デ間違いないカ?」

 冥々:
 「はい。間違いありません。」

 李:
 「そうカ。」

 鳩槃荼:
 「俺を無視すんじゃねぇ!」

鳩槃荼は一気に李との距離を詰めて、剣を振り下ろした。

 李:
 『五行 鎧式・火の型 迦楼羅天(ごぎょう がいしき・ひのかた かるらてん)』

だが、鳩槃荼の剣が李に届くことはなく、剣が液体のように溶けていった。

 薜茘多:
 「どうなっている、どうなっている。なぜあの人間に鳩槃荼さんの剣が届かない?」

 鳩槃荼: 
 「なんだこの膜みたいなものは?」

鳩槃荼が目を凝らしてみてみると、李の体の周りに火の膜のようなものが全身をめぐっていた。
 
 李:
 「無駄ダ。お前の剣ガ俺に届くことハない。」

李の『ギフト』の名は「五行」。李の身体に「五行」(火・水・木・土・金)の力を纏うことができる能力。李は「五行」の力を拳に纏う手式(しゅしき)・足に纏う脚式(きゃくしき)・全身に纏う鎧式(がいしき)を自身の戦闘技術と組み合わせて戦う。

 李:
 「いつマデそこ二いるつもりダ。そこハ俺の間合いダゾ。」

 李:
 『五行 脚式・水の型 激流刃(げきりゅうじん)』

李は振り向きざまに鳩槃荼を蹴り上げた。鳩槃荼は剣を手放し後方に飛ぶことで何とかかわした。はずだったが、左肩から血しぶきが上がり、肩から下の左腕がその場に転げ落ちた。
『激流刃』は水の力を高圧水流のように圧縮して足に纏うことで凄まじく切れ味の増した蹴り技だ。

 薜茘多: 
 「鳩槃荼さん!」

 李:
 「冥々。」

 冥々:
 「はい。」

鳩槃荼のもとに駆け寄ろうとした薜茘多に瞬時に近づき、薜茘多の顔に膝蹴りをくらわした。膝蹴りを食らった薜茘多は数メートル後ずさりし、冥々のことを睨みつけた。

 冥々:
 「悪いわね。師団長は今取り込み中なの。少しの間、お姉さんと遊んでなさい。」

 薜茘多: 
 「驕るな、驕るなよ。脆弱な人間風情が。」

 李: 
 「さて、俺ラも決着ヲつけようカ。捕まっテ情報ヲ吐くのトここで倒されるノどっちガいい?選ばせテやる。」

 鳩槃荼:
 「こんななりだが、忠誠心だけは強くてな。地獄の底でお前らの苦しむ顔を見ててやる。せいぜい苦しむんだなゴミムシが。」

 李: 
 「そうカ。」

李は鳩槃荼にゆっくりと近づいて鳩槃荼の腹部に手を当て、手に纏った水の力を鳩槃荼の体内に送り込んだ。

 李:
 『五行 手式・水の型 水爆(すいばく)』

 李:
 「お前ハ中央南部の住民ヲ苦しめた。その罰は自分ノ体で受けナ。」

李は少し離れて戦っている冥々の元へ向かった。李が去り少しすると、鳩槃荼の体内で『五行』の水の力が膨張をはじめ、やがて鳩槃荼の体は破裂した。
一方、冥々たちとの戦いも佳境に差し掛かっていた。

 薜茘多:
 「無駄だ、無駄だ。どれだけ素早く動こうとお前には私を倒すほどの力がない。最後に力尽きて地を這うのはお前だ。」

 冥々:
 「あっそ。」

冥々は薜茘多に向かって真っすぐ突っ込み、薜茘多の首めがけ上段蹴りのモーションに入った。

 薜茘多:
 「馬鹿だ、馬鹿だ。馬鹿の一つ覚えだ。いいでしょう、お前の攻撃を全て受けきって絶望を教えてあげましょう。」

冥々の上段蹴りが薜茘多にクリーンヒットした。すると、薜茘多の体は仁王立ちのまま薜茘多の視界の天地がひっくり返った。状況を飲み込めなかった薜茘多だったが、体の反応がないため首を切られたことに気が付いた。

 薜茘多:
 「どういうことだ、どういうことだ。あの女は体術のみで武器などは持っていなかったはず。・・!」

顔が地面に転がったことで冥々の足元が見えた。そこには、冥々の履いている靴から刃渡り10㎝ほど刃が出ていた。

 冥々:
 「あぁこれ?私はね、あなたが言うように力があまりないの。だから、いろんな体術を身に着けた。でも、本来はこっち、暗器を使うほうが得意なのよね。もともと裏の世界の人間だから。」

冥々は薜茘多の体を細かく切り刻み、薜茘多は消滅していった。

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