連載小説 奪われし者の強き刃 第2章38話 「勾陳の力 繋ぐバトン」
長時間における安倍晴明との激戦を制した悠。しかし、安倍晴明は最後の力を振り絞り最後の切り札である最恐の式神『勾陳』を呼び出した。暗雲たち混む暗闇の中で神々しささえ感じるほどに絢爛華麗な金色に輝く体をした巨大な龍が現れた。
悠:
「これが最恐の式神『勾陳』。デカすぎだろ。」
悠はボロボロの体に鞭打って、立ち上がり構えた。勾陳は悠のことを視認するや否や周辺を真昼のように明るくなる程の巨大な火球を悠に向かって吐き出した。悠は瞬間的に捌くことができないことを悟ったが、あまりにも巨大なため避けることもできなかった。
悠:
「やっば。」
悠が決死の覚悟で受け止めようとした瞬間、巨大な土の壁がいくつもの層になって出てきて、巨大な火球を受け止めた。
ソフィア:
「悠、大丈夫?」
スターク:
「何とか間に合ったな。」
氷室:
「悠、お前には言いたいことがあるがそれは後だ。まずはあいつを倒す。話はそれからだ。」
悠:
「うん、そうだね。」
勾陳は雄叫びを上げた。すると、地面が波のように蠢き、棘のような形に変形した。
氷室:
「声だけでソフィアみたいなことができるのかよ。」
ソフィア:
「こっちも攻めないとね。」
そういうと、ソフィアは即座に爆弾と大砲を生成して勾陳に向かって砲撃した。勾陳に命中するもまるで効かず、無傷のままであった。
ソフィア:
「硬すぎでしょ。相当強力な爆弾なのよ。」
その後もスタークの影による刀の攻撃は避けられ氷室による氷結攻撃もまるで効かず、勾陳の火球や地面操作にやられる一方であった。だが、攻撃のさなか悠は勾陳の違和感に気づき始めていた。
悠:
「ソフィア、もう1発だけあいつに爆弾を当ててくれないか?」
ソフィア:
「それはいいけど。あいつには効かないわよ。」
悠:
「大丈夫だ。頼む。」
ソフィアは直ぐに1発の爆弾を生成して勾陳にぶつけた。その爆発の仕方を見て悠の違和感が確信へと変わった。
悠:
「やっぱり。涼介兄、俺に一撃くれなか?」
氷室:
「何言ってるんだ、お前もうさっきの戦いでボロボロだろ。それに、それ以上使ったらどうなるか。」
悠:
「大丈夫、一撃で終わらせるから。5分間だけ時間を稼いでくれ。」
氷室:
「わかった。一撃で決めろよ。」
悠:
「ありがとう。」
悠は刀を構え、目をつむり深い集中状態に入った。
氷室:
「あの化け物相手に5分だとよ。いけるか?二人とも。」
スターク:
「あたりまえだ。」
ソフィア:
「愚問ね。」
氷室:
「流石だ。それじゃあ全力で時間を稼ごうかね。」
そういうと、氷室は『クロセル』を発動させ、スタークは『伏魔殿・魔窟』でヨルムンガンドとスコル・ハティを呼び出しソフィアは『七彩』を取り出した。
勾陳は変わらず火球や地面操作で攻めていった。しかし、全力を出した氷室たちは先程までのような一方的にやられることはなかった。
そして、氷室は悠と同じように勾陳のあることに気づいた。
氷室:
「おい、あいつの体の周りに黒い靄のようなものが見えないか?」
スターク:
「黒い靄?」
スタークが注意深く見てみると、勾陳の体に沿って薄く鱗粉のような黒い靄がかかっていた。
スターク:
「あれで体を守っていたのか。にしてもなんだあの靄?ソフィアの爆弾を防ぐなんて相当な硬度だぞ。」
ソフィア:
「多分あれ砂鉄ね。あれだけの小さくて硬度も持っているなんて砂鉄以外は考えにくいわ。」
ソフィア:
「あれが砂鉄なら一瞬、隙が作れるかもしれない。私に任せてくれない?」
氷室:
「このままじゅあ埒が明かないからな。わかった頼む。」
そして、ソフィアは勾陳に向かって走り出した。勾陳は再び雄たけびを上げ地面を無数の棘の形に変えたが、ソフィアはその棘を全て避け、棘を足場にして勾陳のもとまで飛んだ。
ソフィア:
『七彩 黄色 鳴神(なるかみ)」
ソフィアの雷撃をまとった一撃は黒い靄に阻まれ勾陳本体に届くことはなかった。
ソフィア:
「準備完了。」
そして、ソフィアは再びいくつかの爆弾を生成し、勾陳に向かって砲撃した。勾陳はその場を動かず黒い靄で防ごうとしたが爆弾は勾陳本体に命中し、外傷を負わせた。
氷室:
「すごい、当てやがった。どうやったんだ?」
ソフィア:
「あいつの黒い靄に強力な電撃を与えて、同時に靄に磁力システムを付与したの。これで攻撃が通るわ。残り2分半攻め切るわよ。」
スターク:
「あぁ、行くぞ!」
ソフィアのおかげにより攻撃が当たるようになり、形勢が逆転したのように思えた。次の瞬間、勾陳は今までとは異なり鼓膜が破けそうなほど大きな雄たけびを上げると、瓦礫の山がまるで津波のように隆起し、猛スピードで悠のもとへ向かった。
スターク:
「まずい、悠が!」
氷室:
「ソフィア!」
ソフィア:
『七彩 青 零獄』
氷室の掛け声を聞いた瞬間、ソフィアは悠のもとへ駆けつけて津波のように押し寄せてきた瓦礫の山を凍らせた。だが、スピードは落ちたものの瓦礫の山は凍らされてもなお押し寄せ続けていた。
ソフィア:
「なんて力してるのよ。これでも止まらないなんて。」
ソフィアは『七彩』を地面に刺して
ソフィア:
『七彩 橙 天沼矛(あめのぬぼこ)』
周辺も瓦礫を堤防のようにして瓦礫の山を塞き止めた。瓦礫の山を塞き止め安堵したのを束の間、氷室とスタークに勾陳の尻尾による攻撃が迫っていた。
ソフィア:
「二人とも!よそ見しないで攻撃が来てる!」
氷室:
「!」
スターク:
『影狼・影穴』
勾陳の攻撃が寸前まで来ていたところで、スタークの『影穴』のおかげにより何とか避けることに成功した。
氷室:
「サンキュー。助かった。」
スターク:
「いいってことよ。」
氷室:
「サンキューついでに頼みたいんだが。一瞬でいいからあいつの気を引いて俺をあいつの所に送ってくれないか?」
スターク:
「一人で大丈夫か?結構やばいぞ。」
氷室:
「あぁやばいかもな。でも、もうすぐ時間だ。少しでもあいつの動きを止めて悠に繋ぐ。」
スターク:
「わかった。任せろ。」
スタークは即座に呼び出したヨルムンガンドに乗り、勾陳のもとへ向かい氷室はスタークの影に入った。
ヨルムンガンドは勾陳に向かって突進していったが、勾陳が巨大な火球を吐き出したことにより当たりの影が大幅に減少し、『伏魔殿・魔窟』から出てくる獣は影でできているため、消える寸前までに追いやられた。だが、ヨルムンガンドは最後の力を振り絞り勾陳の胴体に噛みついた。噛みつきによる攻撃でダメージは与えられなかったが本当の目的は別にあった。
スタークの影に入った氷室はヨルムンガンドをつたって勾陳の体に着地した。
氷室:
「くらいな。これが今の俺の最大の攻撃だ!『八寒地獄 摩訶鉢特摩』」
ソフィアとアイコンタクトを取り、靄が取れたことを確認した氷室は『クロセル』発動状態の冷気を最大限まで凝縮し勾陳を冷やし続けた。この時、勾陳は初めて攻撃の時の雄たけびではなく痛みによる声を上げた。勾陳は痛みにより激しく体を揺らしたが氷室は何とか耐えて体の一部を凍らせることに成功した。しかし、ここで力を使いすぎたのか『クロセル』がとけてしまった。
ここで5分が経過した。
氷室:
「時間だ。やっちまえ。」
悠:
「みんな、ありがとう。」
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