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『ソウル&インスピレーション』 バリー・マン

 エルマー・バーンスタイン、ジョン・ウィリアムス、バート・バカラック、ジャック・ニッチェなどの映画音楽は小学2年から高校3年まで習っていたエレクトーンで親しんでいた。エレクトーンはピアノと違い、軽音楽なのでビートルズやカーペンターズなどのポップス、そしてアメリカンポップスが課題曲として多くを占めた。曲のタイトルや映画のタイトルを言われてもピンとこなかったが、後々になって映画やポップス番組をテレビで見ていると、“ああ、これはあの曲だったのか”“ああこれはこの曲ね”などと独りで納得していた。
“バーンスタインのメロディーは《大脱走》に代表されるようにちょっと大げさなんだよね”とか
“レノンはメロディラインが雑なんだよ。マッカートニーの方がなめらかだよ”
なんて、小学低学年のガキんちょが生意気に話していた。今思うと可愛くない。
そんなガキんちょの頃、お気に入りの作家が何人かいた。
ギャンブル=ハフのコンビ、バリー・マン=シンシア・ホワイルのコンビ、トム・ベル、デビッド・ゲイツなど。
 その中でも特別な存在はなんといってもバリー・マンだ。
作曲家であり、シンガーでもある彼の作品は、高揚と静寂を使い分けたドラマチックな作品が特徴だ。ライチャス・ブラザースに書いた「ふられた気持ち」なんて聞いていると男の嘆きを音で表現している。  
バリー・マンは決して自己満足に陥らず、そのアーティストに合った曲を提供できるプロフェッショナルな作家である。当時、エレクトーンでプレイしていても、明らかにバリー・マンは違った。予想できない展開があり、でもそれが違和感のないブリッジでつながり、流れるような旋律を奏でる作品は、弾いていてもうっとりすることがしばしばであった。

 中学生になり本格的にレコードを聴くようになってから、バリー・マンが提供したグループやシンガーの作品を歌入りで聴くと、これまた感動してしまった。楽譜上のバリー・マンしか知らなかった僕は、シンガーの世界を聞くことにより、その作品の本来のパワーを体感した。シンガーやバンドの作る世界はエレクトーンでプレイしていたちっぽけな世界では表現できない素晴らしさがあったからだ。
『サバイバー』(1975)は、学生時代の愛聴盤だった。
 
 バリー・マンは作家であり、シンガーでもある。渋いヴォーカルを聴くことができる。

 2000年に20年ぶりで発表した『ソウル&インスピレーション』は、彼のセルフカバー集となっている。
BJトーマスのヒット曲「ヒア・ユー・カム・アゲイン」やロネッツの「ウォーキン・イン・ザ・レイン」など、どこかで耳にしたことのある音が溢れ、もちろん「ふられた気持ち」や「オン・ブロードウェイ」といった代表曲も収録されている。
 ピアノの弾き語りのようなシンプルなアレンジもあれば、バンドサウンドもあり、聴き応え十分である。しかも、各曲にゲストコーラスが彼と彼の作品を盛り上げる。
 キャロル・キング、リチャード・マークス、ダリル・ホール、JD・サウザー、ブライアン・アダムス、ブレンダ・ラッセルなどビッグネームが並ぶ。
 2000年に発表されたこのアルバムを聴いた時、遠い昔を思い出した。純粋な気持ちで新しい音楽に出会える喜びがあの頃にはあり、楽譜とにらめっこしながら格闘し、ステキなメロディーをプレイできた時の満足感があった。小学生という多感な時期にバリー・マンに出会えてよかったと思う。その代わりといってはナンだが、音楽に限って、当時、周りに話の合う友達はいなかった。

2005年12月12日
花形

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