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チケット争奪

 コンサートチケットをどこで購入するか。方法として、
①ファンクラブやウドーなどの会員になる
②インターネットで“電子チケットぴあ”や“イープラス”に登録し、手数料を取られながら購入する
③電話予約日に、つながる宛ての無い電話をかけまくる
④ネットでの売買
⑤当日券(ダフ屋)から買う、などが挙げられるが、みんな満足して良い席で観ることができるのかね?
 インターネットやチケットぴあなどが設立される前は、みんなプレイガイドや各種イベンターの事務所前に並んだものだ。徹夜で並ぶことは当たり前の時代で、そのアーティストにかける意気込みがチケットをゲットする度合いと比例していた。
 チケット購入について気合の入った昔話をすると、だいたい当時を経験している人は同意見になる。
まずは、情報収集。
 朝日新聞を購読するところから始まる。朝刊を開く場合は、1面よりも23面をすばやく開き、下部のコンサート情報をチェックする。朝日は、読売や毎日とは比べ物にならないくらいコンサート情報が充実している。特に外タレの来日情報があると、新聞屋の兄ちゃんに情報流出の依頼をかけておく。
突然、朝3時頃電話が鳴る。携帯のない時代、この時間にかかってくる電話の異常さ…。

「エリック・クラプトンの武道館が決まったよ。今日から整理券配布。ウドーが取り扱う。場所は六本木のキャバーンの前。」新聞屋の兄ちゃんは事務的に教えてくれる。みんなのところに新聞が配布される前に情報を取ってしまうのだ。
 眠い目がばっちり開き、深夜にバイクを飛ばしてキャバーン前に向かう。
どこで情報を仕入れてきたのか、すでに数人並んでいる。時間は午前4時。
整理券の番号順に別の日にチケットは販売されるので、整理券=プラチナチケットと一緒だ。これで武道館のアリーナを何度もゲットした。
 プレイガイド発売という形式が主流だった頃のゲット術として、みんなが中々行かないプレイガイドをチェックするという方法もある。
 例えば渋谷のプレイガイドは“東急観光”“赤木屋”に分かれる。大方の人は東急に並ぶ。赤木屋は西武百貨店の地下1階の奥にあるので行きづらいからだ。しかし、僕はいつもそこを狙った。百貨店は10時開店なので正面玄関は人ごみになってしまうが、赤木屋はLOFT側の非常口(社員通用口)から入れば1分もかからず到着することができたのだ。この裏技を知っている人は相当ツウで、みんなが汗をかき、エスカレーターを走って降りてくる頃には僕の手にはチケットが乗っていることが多々あった。

 そうして仕入れたチケットだったが、僕が大学の頃チケットぴあが幅をきかせ始め、電話予約なるものが主流になっていった。徹夜で並ぶ苦労が無くなる一方、自分の意志で取れなくなったという不満が爆発した。だって全然電話が通じないのだ。かかった瞬間にあの事務的な電子音を繰り返し聞いていると頭が痛くなる。
 リダイヤル機能がついたプッシュホンでなければ駄目だとか、いやいやダイアル式の方がつながりやすいとか、いろいろな噂が飛び交った。
 僕は九段の電話局をいつも目指して、その近くの公衆電話からかけまくっていた。チケットぴあの電話センターが九段電話局の管轄内にあるからだ。10時になると同時に保留音が流れ始めるが、負けじとかけ続けると意外と早くつながったものだ。これを自宅(横浜)からかけていると、保留音にもならず、話中の音しか聞こえてこない。絶望的な気分になる。

 苦労して取った(チケット)コンサートがライヴ盤になると嬉しいもので、何度も聞きなおしてしまい、自分の声が入っていないか、なんてアホなことを考えてしまう。クラプトンの『ジャスト・ワン・ナイト』(1979)は武道館の興奮が甦るが、同時にバイクを六本木まで飛ばしたあの頃も甦る。

2005年10月6日
花形

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