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『Don't Give Up on Me』 SOLOMON BURKE

 私の音楽供給源の一つにラジオ番組「山下達郎のサンデーソングブック」(TFM 日曜14:00~15:00)がある。この番組はオールディーズ専門のプログラムなので、最新音楽情報というわけではないが、私の知らない古いカルトな音楽の世界が大半を占めるので非常に勉強になるのだ。そしてオールディーズはただ単に古くてよい音楽というだけでなく、達郎氏の解説からそれが現在の音楽にどのように関わっているのかといった視点から楽しむこともできる。
 加えて、音楽に対して真剣に向き合っている山下達郎という人の作るプログラムということにも興味があり、オンエアされる音楽の好き嫌いはあるにせよ毎回非常に楽しく聴いている。
 最近の放送で気に入った曲があり、それを収録したアルバムを購入した。それがソロモン・バークの『Don't Give Up on Me』(2002)である。
 タイトル曲は達郎氏のフェイバリットソングで、癒されると同時に静かなる奮起の作品として彼は位置付けているようだ。昨年の東北沖震災の為の特別番組に達郎はこの曲をオンエアした。
被災者への静かなるエールであった。
 厳かに始まる静寂の中の音の粒。深く幾重にも刻まれた年輪の如く一音一音を大事に歌い上げるバーク。その魂の歌声に絡むハモンドオルガンに無駄な音はひとつも無い。
振り絞るように歌うアルバムタイトル曲の「Don't Give Up on Me」。ハスキーというよりしゃがれ声に近いヴォーカルが「あきらめないで!」と歌い上げるその心の叫び。62歳でのレコーディングである。
 アメリカではサム・クックやオーティス・レディング、ジェームズ・ブラウンと肩を並べ、絶大な人気を誇るソウルシンガーであるソロモン・バーク。
 ライバルたちが亡くなったり、現役活動を休止する中、ソロモン・バークだけは視力が弱くなっても、足が動かなくなり車椅子でステージに立つこととなっても、現役に拘り続けた。そしてこのアルバムは彼の後期における最高の輝きを見せたアルバムとなった。

 アルバムは彼を慕うミュージシャンたちが曲を書き下ろし、レコーディングされた。トム・ウェイツ、エルヴィス・コステロ、ヴァン・モリソン、ブライアン・ウィルソン、ボブ・ディラン・・・。
 曲の素晴らしさも去ることながら、バークの説得力のあるヴォーカルとジョー・ヘンリーのプロデュース能力の賜物である。そしてこの作品はバーク初のグラミー賞受賞という形で実を結ぶことになる。
そして驚くことにバークはその後も精力的にライブ活動やレコーディングを重ねていく。ザ・ローリング・ストーンズのステージにも立ち、その模様は『ライブ・リックス』(2004)にも収録された。
2010年5月には「第24回ジャパン・ブルース&ソウル・カーニバル」に出演。初の日本公演を行なった。そしてその年の10月、公演が予定されていたオランダのスキポール空港の飛行機の中で急逝した。老衰であった。
 最後の最後まで音楽と共に生きたソウルシンガー。彼をただのソウルシンガーという括りにしてしまうには口惜しい。バークは60年代のアルバムタイトルで自ら名乗った『The King of Rock and Soul』から、ロックンソウルシンガーという彼だけの称号を永遠に名乗り続けるに値する最高のヴォーカリストである。

“Don't Give Up on Me”
長年様々な苦難と栄光を繰り返した男の心の叫び・・・「あきらめないで・・・」
心に沁みる音である。

2012年6月6日
花形

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