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『かぐや姫LIVE』 かぐや姫

『かぐや姫LIVE』(1974)というアルバムがある。『かぐや姫さあど』(1972)、『三階建ての詩』(1973)を発表し、「神田川」の大ヒットでフォークブームの真ん中に立っていた時のライヴツアーを収録した作品だ。3人の甘いコーラスやこうせつの楽しいMCもしっかり収録されている。

 僕の高校の文化祭での出来事。このアルバムを完コピしている先輩達のパフォーマンスには笑った。高校の文化祭ライヴでは、大抵オフコース、アリス、長淵剛などのフォーク系コピーバンドが名を連ねる。にきび面で“君を抱いていいのぉ~”なんて調子っぱずれの声を出されると、見ている僕らが恥ずかしくなる。でも、本人はいたって真面目なようで、それを見ている女子高生もたまに泣いてたりするとアホらしくなってしまって教室をあとにしてしまう。
ま、そんなこんなで、僕が見たかぐや姫のコピーバンドは、非常に笑えた。なんと1曲目から最後の曲までアルバムを再現しているのだ。しかもMCまで一言一句そのまま。僕は『かぐや姫LIVE』を何度も聴いていたので、次の展開が読めていた。MCのオチを冷やかして先に言ったら、会場は大爆笑、こうせつ役の先輩は苦笑いをしていた。
“演奏をコピーすることはあっても、MCまでやるとはねぇ・・・。それだったらレコードかけた方がよっぽどいいじゃないっすか”と先輩に言ったら、先輩は“緊張するから全部台本が無ければダメなんだよ”と言っていた。アホか・・・。

 この『かぐや姫LIVE』は、A面がバンドサウンドB面が3人のアコースティックサウンドで構成されている(CDじゃこんなこと書いても意味がない)。A面は、凄腕のバンドを従えているので(ポンタ、石川鷹彦など)演奏を楽しむことも出来る。そしてB面は3人のキャラクターがくっきりと浮かび上がる。
 南こうせつの魅力はあの顔からにじみ出る人の良さと、おおらかな作品だろう。フォークソングをこよなく愛し、いつだってファンの気持ちにたって活動を続けている。客をいじることが上手く、ボケ役のパンダさん、大ボケ役の正やんとの3人のコンビネーションは歌だけでなくステージングからも人の良さがにじみ出ている。再結成ライヴ(何度も再結成されているから何回目のかは、忘れた)で何度か観たが、客を楽しませようという意気込みはいつも感服させられる。
特にこのアルバムは前述の通り、大ヒット真っ只中のライヴなので自信に満ち溢れたパフォーマンスである。このアルバムの2年前に発表された『かぐや姫オンステージ』(1972)と聴き比べると非常に面白い。『かぐや姫オンステージ』は神田共立講堂でのデビューリサイタルを録音したものなので、歌に多少の不安(緊張)を持っているように聞こえる。3人のアンサンブルもまだ洗練されていなく、無難なアレンジという印象だ。しかし、MCは当時から変わらない。根っからのエンターテイナーなんだなぁと思う。
 僕の従姉がたくろうとかぐや姫マニアだったので、小学生の頃からフォークソングに触れることが出来た。その時のかぐや姫の印象は楽しい歌を元気に歌うお兄さん達というイメージだが、現在の印象もほとんど変わっていないことを考えると、これは3人のエンターテイメントが確立されたものだと考える。
 こうせつは大分の寺の息子だ。クラウンレコードのオーディションに合格し、かぐや姫の前にソロデビューした経験がある。その出来たてのシングル盤を持って田舎のおばあちゃんに見せたところ、
「えっ?“最後の世界”と“なんこうぶし”って歌かい?じゃ、誰が歌っているんだい?」
「おばあちゃん、 “なんこうぶし”じゃないよ!“南高節”じゃないか!僕だよ!」
こうせつの源を見た気がした。

2005年12月8日
花形

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