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音楽の聴き方

 先日夕飯を食べながらテレビを見ていた。
最近のゴールデンタイムは、グルメ系か動物系かクイズ系のバラエティー番組が大半を占めており、辟易することもしばしば。ニュースを見ていても気分が悪くなる話題ばかりなので、気楽に見ることができるバラエティー番組を「ながら見」してしまう。
そんな中で、8月28日にテレビ朝日で放映していた「葉加瀬太郎が出題&解説!現役音大生が選ぶ!本当にスゴいクラシック音楽家ベスト10から出題SP」という番組は面白かった。
音大生にアンケートを取り、クラシック音楽家の人気投票をし、その音楽家にまつわるクイズが出されるというもの。
 最初はダラダラと見ており、クイズが出題するたびに食事をしながら答えていた。
私は無意識のうちに答えていたようで、音楽家とはかけ離れた出題があったとしてもブツブツと文句をいいながらも答えていた。そして、何故か音楽問題を外すことは、アタシのアイデンティティを傷つける錯覚に陥るかのように最後の方は結構真剣に答えていた。
それを横で見ていた家人は、感心したように「音楽好きだとは思っていたけど、全部正解していてすごいね~」と言う。半ば呆れていたかもしれないが。
 クイズは知識で答える部分と出題の意図を読み取る部分の二つの方向で考えると意外と正解を導くことは簡単なのだ。増してや音楽の知識は他の学問よりも多少はあると自負しているので、ほぼ100%の正解だったことに満足して食事を終えた。

 では何故音楽問題にそんなにこだわるか。
小学生から高校生まで私の音楽の成績は常に5だった。「音楽」は学生時代5以外取ったことがない唯一の教科。そんな些細なことが妙なプライドとなっていた。笑。
そして、小学2年生から習い始めたエレクトーンのお陰で、日常より音楽漬けになったことも一つの要因か。
特に覚えているのは、エレクトーンを習い始め1年後、最初の壁にぶつかる。楽譜をしっかり読み込まないとアレンジすら出来ないという事を当時のスパルタ講師に叩き込まれるのだ。10歳にも満たない子供に課題曲を普通に弾くだけでは許してくれない講師だったのだ。間違えたら手は出る足は出るといった昭和には沢山いた暴力講師だ(女だけど)。
 例えば課題曲を普通に間違えずに弾くと、つまらなそうな顔で「楽しかった?」と聞いてくる。何か工夫をして来なさい(アレンジ)、と課題を常に与えられる。すると、当然楽譜を書き直さなければならない。だから楽理を習わなければ到底追いつかないのだ。
小学3年生の夏休みはヤマハエレクトーン教室の楽理の特訓講習を受けた記憶しかない。
 エレクトーンは電子楽器でポピュラー音楽が主体であるが、楽理は当然クラシック音楽が基礎になっているので、18世紀~20世紀の音楽の変遷やらなにやらを叩きこまれる。
友達が仮面ライダーの怪人を覚えるのと同じくらいヨーロッパの音楽家やその代表曲を覚えさせられた。譜面はもとより、エレクトーンの講師はその楽曲の特徴を掴む練習をしろ、と言う。
 ポピュラー音楽を聴いていてもその特徴は何かを直ぐに探れという教え。もちろん、音楽は心で感じるものだから、最初は素直な気持ちで聞きなさいと言う。言うには言う。しかし、その次のステップは作曲家や歌い手の特徴を掴む事を叩きこまれた。
 その甲斐あってか、譜面アレルギーは無くなり、曲のアレンジについても「●●風で弾きなさい」などと言われてもまごつくことは無くなっていった。
 エレクトーンにはグレード試験があり、講師コース(グレード5級)には「カデンツ」というその場で楽譜を渡され即興で山谷を作り(アレンジ)演奏するという難題があった。もちろん試験の直前に予見室で10分間即興演奏の予見を行なう。その後、試験では予見したメロディーを2つの曲に構成し、演奏する。即興といっても適当に弾いていれば良いものではなく、テーマとなったメロディーにいかに戻れるかということも重要である。
そして、初見演奏。30秒間楽譜を見せられ、予見を行ない演奏するというもの。
 課題曲の演奏は死ぬほど練習すれば何とかなるが、即興演奏はいかに引き出しをもっているかがカギである。これを克服するために普段からの音楽の聴き方も不自然なものだったのかと今になって思う。
中学生~高校生になり、自分でレコードを購入する時でも分析癖がついているので、友達と会話にならず、言い合いになることもしばしば。友達が「聖子ちゃんっていいよな~」なんて言ってるそばから「アレンジがみんな一緒だよ。サビはすべてドミナントモーションでドッカーンっていく曲ばっかり」なんてことばかり言っていたから、みんなポカーンとしているし、最後は「お前、うるさいよ」となる。
 エレクトーンは結局講師コースまで行ったが、大学に入ってしまったので、バンド活動が忙しくなり、辞めてしまった。夏休みや冬休みといった、まとまった長い休みの時にバイトで講師をすることはあったにせよ、エレクトーン自体もどんどん進化し(私が大学の頃にデジタル化が一気に進みエレクトーンはコンピューターの塊のようになっていった)、手に負えない存在になったことも遠ざかる要因だった。

 先日、物真似をテーマにしてギターの弾き語りを行なったが、物真似をするという事の根本はそのミュージシャンの特徴を掴むということなので、小さいころからの音楽の聴き方で自然と身についたスキルだったのかもしれない。
「誰々に影響を受けているからこの人の歌い方にも似ている」とか「声の出し方の特徴」なんてことは時代を俯瞰で見ると意外と簡単に答えは出る。あとはそれをどうやってデフォルメするか。別に物真似芸人になるわけではないが・・・。

 音楽は字の如く音を楽しむものであるが、エレクトーンの鬼講師のお陰でかなり偏った音楽との触れ合いを経験した。しかし、あの講師を別に恨んではいないし、あの講師のお陰で今の自分があると思う。音楽クイズで全問正解して鼻高々というのもあの講師のお陰だ。
2023年8月31日
花形

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